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焦点:次世代見据えるイスラム国、シリア北東部で「国家モデル」構築
2014年9月5日 / 04:12 / 3年前

焦点:次世代見据えるイスラム国、シリア北東部で「国家モデル」構築

[ベイルート 4日 ロイター] - シリア北東部の砂の平原にある町々では、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」が、市民生活に深く入り込んでいる。頭部切断などの残虐行為で恐れられる同組織だが、こうした場所では電気や水の供給のほか、銀行や学校、裁判所、礼拝所、パン屋に至るまでが彼らの手によって動いている。

 9月4日、支配地域を急速に広げてきたイスラム国は、シリア北東部ラッカで「カリフ国家(預言者ムハンマドの後継者が指導する国家)」の実例を示そうとしているようだ。ラッカ近郊で8月撮影(2014年 ロイター)

過去数カ月、シリアとイラクで支配地域を急速に広げてきたイスラム国。メディアでは、戦地での情け容赦ない行動や、厳格なイスラム法を強制する姿勢などが大きく扱われている。一方、現地住民らは、勢力拡大の大きな要因は、効率的で時として極めて現実的でもある統治能力にこそあると語る。

そうしたイスラム国のやり方は、シリア北東部の都市ラッカで顕著に見ることができる。イスラム国は、いずれ「カリフ国家(預言者ムハンマドの後継者が指導する国家)」が中国から欧州にまで広がることを望んでいるが、ラッカでは、カリフ国家での生活がどんなものか、その実例を示そうとしているようだ。

現在はトルコに住むラッカ出身の活動家の1人は、ロイターの取材に「正直に言うなら、彼らは大規模な組織的仕事をやっている。すごいことだ」と語った。

ロイターの記者は、安全上の理由から現地に入ることはできないため、遠隔地から複数のインタビューを行ったが、イスラム国に批判的な活動家でさえ、彼らがいかにして1年足らずで近代国家のような構造を作り上げて来たかを口にした。

イスラム国の勢力拡大には、中東地域のみならず西側の大国も警戒感を募らせている。オバマ米大統領は先月、イラクでの空爆を実施するに当たり、イスラム国は中東から取り除かれなければならない「がん」だと表現した。

しかし、ラッカなどの場所では、イスラム国は日常生活に完全に入り込んでいるため、イラク軍やシリア軍やクルド人民兵組織は言うに及ばず、米空爆によっても掃討することは事実上不可能だ。

<公共機関の設置>

ラッカは、昨年にアサド政権の打倒を目指す反政府勢力が初めて占拠した都市。

イスラム急進派から穏健派までさまざまな反政府勢力が割拠していたが、1年も経たないうちに、敵対する武装組織を容赦なく排除したイスラム国が支配するに至った。

イスラム国に批判的な活動家は殺されたり行方不明になったりするか、もしくはトルコに脱出した。飲酒は禁じられ、店舗も午後には閉められ、夕方には人通りがなくなった。外の世界との情報のやり取りは、近隣地域との間でさえ、イスラム国のメディアセンターを通じてのみに厳しく制限された。

しかし、最初にそうした締め付けを行った後、組織は公共サービスや公共機関の設置を開始し、同地を「イスラム国家」の建設に向けた拠点とする姿勢を明確にした。

イスラム国には反対の立場だというラッカの住民の1人はロイターに対し「政党に一切関わりを持たない人たちはイスラム国の存在に順応した。なぜなら、彼らは疲弊していたし、率直に言えば、ここで行政の仕事をしているからだ」と語った。組織は公共サービスに関係する機関をすべて回復・再建し、そのなかには、消費者保護を管轄する事務所も含まれるという。

<残虐性と現実主義>

過去1カ月だけでも、イスラム国は、米国人ジャーナリスト2人の頭部を切断して殺害する様子や、クルド人やレバノン人の兵士を処刑する様子を収めた動画を相次いで公開した。

しかし、組織は無差別に暴力を行使しているだけではない。例えば、自分たちの利益に合致すれば、アサド政権に忠誠的な実業家と取引することもある。

ある戦闘員によると、現在ラッカでパン屋向け小麦粉の製粉と流通を担っているのは元アサド派であり、電気と水を供給している現地ダムでも、以前からの従業員たちが今も職務を遂行している。

元アサド派を積極的に使う姿勢は、イスラム国の現実主義を映し出している。住民や活動家は、そうした現実主義こそ、制圧した地域の支配継続に不可欠な要素だと指摘する。

また、イスラム国は、北アフリカや欧州から来た専門家の手も借りている。一例を挙げれば、同組織を率いるバグダディ指導者は、ラッカの通信網の運営をチュニジア出身の専門家に任せている。

イスラム国は自らを単なる武装組織ではなく、1つの政府だと主張しているが、それを反映するようにバグダディ指導者は、軍事行動と行政活動を分けている。

戦闘員や組織のメンバーには、財務省と銀行を合わせたような部門から給与が支払われている。また戦闘員には、非スンニ派や政府関係者から押収した住居のほか、1カ月当たり約400─600ドルの手当ても与えられる。シリア北東部で日常生活を送るには十分な額だ。

貧困家庭への支援もあり、母子家庭には1人につき100ドルが支払われることもあるという。

物価も低く抑えられている。価格操作を行う業者は罰せられ、警告に従わない場合は店舗を閉鎖させられる。

一方で、組織は裕福な人には「イスラム税」を課している。また専門家らは、イスラム国は、誘拐で集めた身代金のほか、シリアやイラクで支配する油田からの石油をトルコなどの業者に売ることで数千万ドルの資金を得ていると試算している。

<バグダディ指導者>

イスラム国の組織運営の中心にいるのは、紛れもなくバグダディ指導者だ。住民や戦闘員らは、バグダディ指導者がラッカの統治に深く関わっており、あらゆる問題に最終決定を下すと口をそろえる。商品の値段をいくらに設定するかということまで、バグダディ指導者の支持を仰ぐという。

一方、同指導者は、頭部切断などの処刑や、組織が有罪と判断した犯罪者に対する処罰の判断も下す。戦場では、気性が荒い経験豊富な司令官として知られている。

ある戦闘員によると、同指導者は、7月にイスラム国がシリア軍の主要基地を制圧した大規模な戦闘などを直接率いてきたという。

同戦闘員は「彼は同胞を置いて行かない。基地制圧では軽傷を負ったが、今は元気だ」とし、「彼は1カ所にはとどまらない。ラッカやデリゾール、モスルを移動し、戦闘を率いている」と語った。

<次世代の聖戦>

イスラム国の躍進の鍵は現実主義にあるにせよ、イデオロギーも統治には重要な役割を果たしている。

バグダディ指導者は、自らを預言者ムハンマドの後継者だとし、「カリフ国家」を樹立すると宣言した。これには、聖戦主義者や専門家を海外から呼び寄せる狙いもあった。

支持者らによれば、この宣言には多くの人が反応し、世界中の裕福なイスラム教徒からはラッカに支援金が寄せられた。

複数の情報筋の話では、ラッカにはミサイル開発を主目的とした兵器工場が3カ所あるが、中国人イスラム教徒を含む複数の外国人科学者が、護衛付きの秘密の場所で研究などに従事しているという。

またイスラム国は、次世代を担う子供や女性の受け入れにも積極的だ。新しく組織に加わった戦闘員向けには、礼拝所でイスラム教に関する勉強会が行われている。バグダディ指導者が「カリフ国家」樹立を宣言して以降、その数は大幅に増えたという。

戦闘員の1人は「3日おきに少なくとも1000人は迎えている。宿泊施設は聖戦戦士であふれており、彼らを受け入れる場所が足りなくなっている」と語った。 (原文執筆:Mariam Karouny 翻訳:宮井伸明 編集:伊藤典子)

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