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焦点:英国バンカーが陥る「ストレス・アンド・ザ・シティ」
2016年2月15日 / 23:13 / 2年前

焦点:英国バンカーが陥る「ストレス・アンド・ザ・シティ」

 2月14日、職の不安定化、仕事量の増加、規制改革、銀行セクターに対する世間の悪いイメージ──。こうしたことが、英国の銀行に勤めるバンカーの心の健康を損なっている。英ロンドン地下鉄のバンク駅で2010年7月撮影(2016年 ロイター/Andrew Winning)

[ロンドン 14日 ロイター] - 職の不安定化、仕事量の増加、規制改革、銀行セクターに対する世間の悪いイメージ──。こうしたことが、英国の銀行に勤めるバンカーの心の健康を損なっている。

世界金融危機から8年を経た今、同業界で高まるストレスが、病気で働けなくなった行員に対するコストを補うための保険需要を押し上げていることが、保険会社のデータによって明らかとなっている。

「こうした問題は金融危機以降、最悪な水準を更新し続けている」と、ウィリス・タワーズワトソンのジャグデブ・ケンス氏は指摘。「いまだ職にある者は非難されている。大半はスキャンダルとは無縁なのに。高まるプレッシャーの下で、以前よりも長時間働き、複数の仕事をこなしている。何か手を打つべきだ」

かつては一流かつ高給で、生涯のキャリアとして安息の勤め先だった銀行は、当局による規制改革によって急速な文化的、構造的変化を遂げている。

資本規制の強化、不正への罰金強化、リスクの高い事業の閉鎖により、銀行は人員削減を余儀なくされている。

ロイターのデータによると、欧州の大手銀10行は昨年6月以降、13万人を解雇している。

ストレスの影響は銀行業界の上層部にまで達している。ロイズのアントニオ・ホルタオソリオ最高経営責任者(CEO)は2011年、睡眠不足と極度の疲労から2カ月間の休養を取った。

それから2年後、バークレイズのコンプライアンス責任者だったヘクター・サンツ氏もストレスを理由に休職後に辞めている。

世界的なリセッション(景気後退)に陥るリスクが高まるにつれ、投資家たちは銀行に一段のスリム化を求めている。労働組合ユナイトが昨年9─12月に実施した調査によると、銀行員の約4人に3人が職場でのストレスを認め、不安発作や不眠症やうつ病の症状が現れているという。

主にロイズ・バンキング・グループ(LLOY.L)やロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)(RBS.L)、HSBC(HSBA.L)やTSB(SABE.MC)のリテール部門やバックオフィスで働く、回答者の約85%は、昨年に無報酬の残業を経験したと答えている。

ロイズ、RBS、TSBは、コメント要請への対応を英国銀行協会(BBA)に委ねた。

回答者の約3分の2が仕事量が増加していると答え、約5分の1は業績を上げるプレッシャーを感じているとしている。72%が、その結果、辞めることを検討していると回答している。

「仕事に関わるストレスは非常に深刻で、こうした問題は増えている」と、ユナイトの金融部門担当者、ドミニク・フック氏は指摘。「われわれは現在、長時間労働や長期の人員削減などストレスを引き起こすさまざまな問題に、従業員と共に取り組んでいる」とし、バークレイズの行員を対象とする別の調査も進行中だと語った。

<治療より予防>

BBAは従業員の身体的、精神的な健康を守ることが加盟行にとって「最優先事項」だとしている。英国の銀行は問題が起きないようにするため、これまで以上に革新的な方法を考案している。

銀行内のカウンセラー設置、メンタルヘルスの「応急処置」コース、トレーダーのためのヨガレッスンや、さらに包括的に精神面をケアするプランなどが設けられている。

HSBCは、ストレスに関連する病気を減らすため、数多くのイニシアチブを取っているとし、「全行員とその家族に対する包括的なメンタルヘルスの福利厚生がある医療保障制度を提供することなどが含まれる」としている。

英安全衛生庁(HSE)の統計では、金融サービスの職は他の平均的な職と比べ、ストレスに関連した病気にかかる可能性が44%高いことが示されている。故に、同業界の雇い主は欠勤によって財務にもたらされる打撃をコントロールする措置を講じている。

生保大手メットライフによれば、「グループ・インカム・プロテクション(GIP)」として知られる保険商品に対する需要が、金融セクターの雇い主の間で着実に高まっているという。

メットライフ(英国)のトム・ゲイナー氏は、平均的な雇い主は従業員の病欠にかかるコストに備え、年間給与の1─1.5%に相当する額を保険に充てていると話す。

「英国では、約12─13%の企業がGIPに入っており、銀行に絞るとその割合は100%に近い。入っていない投資銀行を私は知らない」

メットライフの中核市場である米国のデータによれば、精神疾患を患う従業員が理由で保険請求をする投資銀行は、他の加入企業よりも最大30%多いという。

<危機の人的損失>

2013年末までの政府データによると、ロンドンの金融街シティにおける人口10万人当たりの自殺率は2009年以降、同市の他地区を凌駕(りょうが)している。

「問題の一部は、この業界が常に人を削減していることだ」と、30年以上のキャリアで何度か解雇された経験のあるバンカーは指摘。今も求職中の同バンカーは「ロンドンはその先陣でもある。ここではいつも解雇される脅威にさらされている」と、匿名を条件に語った。

微妙な話題であることから、職場のストレスに悩まされる人たちはロイターの取材を受けたがらなかった。つまりこれは、マネジャーや同僚に話すのを恐れ、報告されていない多くのケースがある可能性を意味する。

今年1月31日までの1年間で、シティ内にある専門クリニックでの新たな患者評価は106%増加し、月平均で70人を超える新患登録があった。

「人々は業界の、そして自身のキャリアの大変動に圧倒されている。それにうまく乗れる人もいるかもしれないが、多くは苦しむ。故に精神疾患を発症する可能性が高まることになる」と、精神科医のポール・マクラーレン博士は指摘する。

まもなく発表されるウィリス・タワーズワトソンの調査は、雇用主が考える職場におけるストレスの主要因と、従業員が実際にストレスと感じていることとのギャップを明らかにしている。

世界の約1700社を対象に隔年で実施される同調査で、ワークライフバランスの欠如と過度の組織変更が従業員にとって最大の負担だと、雇用主の5分の4以上が考えていることが分かった。

しかし従業員の69%は、最大の懸念は不適切な人材配置だと回答。給料の低さ(65%)がそれに続いた。

こうしたことから、銀行員の気持ちや士気が大きく回復する見通しは遠いように見える。

「人員を削減し、規模を縮小している業界では非常に困難だ。どこに向かっているのかも分からない。好況と不況が果てしなく繰り返される。とはいえ、現在は、不況の後に、さらに不況が重なる状況だ」と、前述のバンカーは話した。

(Sinead Cruise記者、Anjuli Davies記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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