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アングル:トヨタ九州にレクサス新戦略の重圧、問われる「匠の技」
2014年8月11日 / 10:44 / 3年後

アングル:トヨタ九州にレクサス新戦略の重圧、問われる「匠の技」

8月11日、トヨタ自動車が高級車部門「レクサス」の成長に向けて投入した戦略車「NX」。その生産を担うトヨタ自動車九州にとって、大きな「競争相手」は他ならぬトヨタの海外生産拠点だ。都内で5月撮影(2014年 ロイター/ Toru Hanai)

[東京/福岡 11日 ロイター] - トヨタ自動車が高級車部門「レクサス」の成長に向けて投入した戦略車「NX」。その生産を担うトヨタ自動車九州にとって、大きな「競争相手」は他ならぬトヨタの海外生産拠点だ。

為替変動の回避や現地化推進のため、トヨタは九州から北米への生産移管を進めてきた。レクサスの高い品質を象徴する車づくりの拠点として九州の存在をどう主張し、国内生産を維持できるか。現場では日本独自の「匠の技」を磨く緊張の日々が続いている。      

<高揚感と警戒感>

「将来の成長を担う大切な車」。8月8日、福岡県宮若市にあるトヨタ九州宮田工場で開かれたNX出荷式。二橋岩雄社長は、レクサスが約3年半ぶりの新車として打ち出した初の小型SUV(スポーツ多目的車)の意義をこう表現し、生産への強い意気込みを見せた。

NXには、レクサスが世界で成長を拡大するためのけん引役として大きな期待がかかっている。生産はトヨタ九州が一手に担い、年8万台の出荷を計画。7月29日に国内販売を開始しており、年内にはアジア、欧州、中国などに順次投入する予定だ。

出足は順調だ。月販700台が目標の国内では、すでに7月末の受注が約6500台と「計画を大幅に上回った」(トヨタの前川真基副社長)。レクサスとして初めて世界共通の広告キャンペーンも実施。11月に発売する米国では今年3000台、来年4万2000台の販売を目指している。

しかし、トヨタ九州の従業員には、戦略的な新車生産をまかされた高揚感とともに、その先行きに複雑な思いもよぎる。華やかな開会式は、折からの台風到来で断続的に強い雨に見舞われた。それは海外への生産移転を余儀なくされてきた同社を象徴しているかのようだった。

「円高リスク、運搬にかかる時間や費用などを考えると海外生産になることは十分ありうる。決して油断できない」。工場関係者は、NX生産開始を喜ぶ一方で、その生産がいずれ海外に移転されるのではないか、という警戒感も隠さない。

実際に、トヨタでは今年からトヨタ九州が生産していた北米向けSUV「RX450h/350」の年3万台分をカナダの工場に、来夏には北米向けセダン「ES350」の年5万台分を米工場に移す。NXはESより3万台以上の上乗せも期待されるが、それは同時にどの工場よりも高い品質とコスト力の両立を求められることを意味する。

<海外生産の手本に> 

「気持ちが昂る車、エンジンだ。全社員が非常に喜んでいる」。トヨタ九州の杉山新治専務は、同社工場でのNX生産開始に特別な思いを語る。NXに搭載するターボエンジンを生産する苅田工場(福岡県苅田町)では リーマンショックなどの影響で第1ラインを2009年に閉鎖。今回はそのラインを復活させてターボを生産するからだ。 

ライン閉鎖時には同工場の従業員約300人が宮田工場へやむなく「応援」に行かされたが、一方で技能員のレベル向上にも時間を割き、「匠の技」に磨きをかけた。それだけに今回のNXのエンジン生産は「従業員のモチベーションや働く意欲につながる」(杉山専務)。 

第1ラインの生産能力は年10万基。ターボはNXに続き、年内発売予定のスポーツクーペ「RC」にも採用される計画。橋本克司・苅田工場長は「北米生産に切り替わるケースも多いが、ユニットだけでも九州から、という思いだ。1ドル80円の時代もある。それでも海外に負けないコストで生産できるよう日々努力している」と話す。   

トヨタは国内生産300万台規模を維持する方針で、トヨタ九州もその一端を担う。しかし、米国でも品質が担保できると判断すれば、日本からの生産移転は避けられない。ESの米国生産は現地の顧客対応と為替の影響を軽減するのが目的だった。 

デザイン改革を先導したレクサス・インターナショナルの福市得雄プレジデントは8日の会見で、顧客がレクサスに一番期待する品質、おもてなし、スピードなどのサービスを実現するためにも「国内生産は絶対に外せない」と指摘。

ただし、同氏は「国内生産に固執するということを申し上げているわけではなく、常に(海外生産も)検討課題」と釘を刺すことも忘れなかった。品質、おもてなし、サービスが「担保されれば、長い目で見た場合は海外生産もありうる」と明言する。 

二橋社長は、九州生産の意義や優位性を問われ、「車づくりは奥が深く、世界中どこで誰が作ってもねじを締めれば同じものができるということにはならない」と説明。「図面では表し切れない作りの良さや失敗の少なさを極めてきた」トヨタ九州が「手本になり、それが海外生産でも切磋琢磨の材料になり、車全体の作りの良さを一段と上げていく。それが日本生産の価値だ」と語った。

生産現場からも「海外に比べると国内のコスト力には限界がある。あとは海外工場のベンチマークになる技術力を持つことしか国内生産が生きる道はない」(前出の工場関係者)との声が聞こえてくる。   

<ドイツ勢とは違う個性めざす> 

苅田・宮田工場では多くの「匠の技」がレクサスの品質を支える。利き手と反対の手で折り紙の猫の顔を折ることのできる従業員のみが訓練を受け、内装の皮革などのステッチを縫う作業を任される。毎朝作業前のテストをクリアした従業員だけがボンネットとフェンダーの隙間などを指先で触り、コンマ数ミリの段差や歪みを判別する。  

1989年に進出した米高級車市場ではシェア1位を2010年まで11年連続で獲得するなど一定の存在感があるが、欧州でのシェアは1%にも満たない。13年の世界販売は約52万台で、14年は過去最高の55万台を計画するが、メルセデス・ベンツ(DAIGn.DE)などのドイツ勢の約3分の1にとどまる。   

それでも福市氏は「量ではなく質を追うのが大前提」と強調する。ブランドの確立には10年単位の時間がかかるが、今のレクサスには品質を武器にドイツ勢とは違う個性が必要で、「レクサスのオリジナリティとして日本のものづくりを訴えたい」と話す。   

1台の車は2万点以上の部品からなるため、同氏は「サプライチェーンをしっかり考えないと簡単には生産できない。サプライヤーを含めて品質を確保する」ことが大事だという。部品の6割超を供給する九州の地元企業とともに高品質な車づくりを続ければ、今後も生産を任され、九州の自動車産業の地盤は強固になる。「これまで培ったものづくりの力で九州から日本、世界にこの車の素晴らしさを広めたい」。二橋社長はそう話している。

白木真紀 編集:北松克朗

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