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コラム:米国でヘイトクライム急増、トランプ氏は何をすべきか
2016年11月26日 / 00:46 / 1年前

コラム:米国でヘイトクライム急増、トランプ氏は何をすべきか

[23日 ロイター] - 米大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利を決めてからの5日間で、400件以上のマイノリティ層に対する「憎悪や差別による嫌がらせ及び脅迫」があったと南部貧困法律センターは記録している。

 11月23日、米大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利を受けてマイノリティ層に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増。トランプ氏とその陣営幹部によって、偏見や人種差別、同性愛者に対する嫌悪を公然と表現しても構わないと支持者の一部に思わせるような雰囲気が生み出されたことを示している。写真は8月、ニューヨーク市でムスリムへのヘイトクライムに抗議するデモ参加者たち(2016年 ロイター/Eduardo Munoz)

米国におけるヘイトスピーチを監視する同センターは、ニュース記事や直接報告、ソーシャルメディア上の報告をもとに、こうした事件の多くは「トランプ氏の選挙運動と、そのスローガンへの直接的な言及を伴っていた」と指摘する。

他の人権団体も、ムスリム(イスラム教徒)や黒人、ラテン系住民、ユダヤ人、同性愛者、移民などのマイノリティを狙った暴言や暴力が、投票日翌日の11月9日以降全国で多発していると報告。明らかに、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の急増は、トランプ氏とその陣営幹部によって、偏見や人種差別、同性愛者に対する嫌悪を公然と表現しても構わないと支持者の一部に思わせるような雰囲気が生み出されたことを示している。

攻撃の急増に最も悩まされているのが、ムスリムだ。トランプ氏が選挙運動のなかでイスラム教徒を批判対象として選んだことにその一因がある。米連邦捜査局(FBI)は14日、昨年ムスリムに対するヘイトクライム件数が過去10年以上で最多となったと発表した。

FBIによれば、2015年に報告されたモスクへの襲撃やムスリムに対するヘイトクライムは257件に上り、前年の154件に対して67%増となった。ムスリムを対象とする事件としては、記録を開始した2001年以来で最多である。2001年は、「9.11」同時多発攻撃の発生以降、480件以上のヘイトクライムが生じていた。

米大統領選挙後、マイノリティに対する嫌がらせなどヘイトクライム(憎悪犯罪)が相次ぐなか、南カリフォルニアでは3カ所のモスクに対し、トランプ次期大統領がイスラム教徒を「浄化」するといった内容の脅迫文が送り付けられていたことがわかった。

また、FBIによれば、ムスリム以外のグループに対するヘイトクライムも昨年増加している。ユダヤ人に対する事件は9%、黒人に対する犯罪は8%近く増えたという。

昨年ムスリムに対するヘイトクライムが増加したのは、米国など西側諸国で、市民を標的とした攻撃が発生し、過激派組織「イスラム国(IS)」や関連組織の支持者が犯行声明を出したこと、そして大統領選に向けた選挙運動のなかで攻撃的な論調が見られたためである。

トランプ氏とその支持者の一部の論調は、ムスリム系米国人や移民などのマイノリティ層は米国にとって危険というメッセージを送っていた。

トランプ氏がこうした攻撃を深刻な問題と認識しているかは分からない。だがこれまでのところトランプ氏は、彼の勝利に当然の危惧を抱くマイノリティ層に対する社会的包摂の推進や、こうした層への歩み寄りなど、実質的な動きをまったく見せてこなかった。

また彼は、選挙後のヘイトクライムに対しても形ばかりの非難しか行っていない。13日に行われたCBSのニュース番組「60ミニッツ」のインタビューでトランプ氏は、彼の支持者がムスリムなどのマイノリティに嫌がらせを行っているという報道について質問を受けた。彼の答えはこうだった。

「それを聞いてとても悲しい。『やめろ』と言いたい」

またトランプ氏は、早速着手した政権人事に対する懸念を打ち消してもいない。新政権がホワイトハウスの首席戦略官・上級顧問に起用するスティーブン・バノン氏は、白人至上主義者やネオナチの主張に対して共感を示す、いわゆる「オルタナ右翼」運動のリーダーだ。

米国の法執行部門のトップ幹部である司法長官には、アラバマ州選出のベテラン上院議員、ジェフ・セッションズ氏を選んでいる。セッションズ氏は移民改革に対する強硬な反対派であり、米議会は1986年に彼を連邦裁判官として承認することを拒んでいるが、その理由は、彼の人種差別的な言動に対する懸念だった。

さらにトランプ氏は、国家安全保障担当の大統領補佐官として、元国防情報局長のマイケル・フリン退役陸軍中将を指名した。フリン氏はイスラム教を「がん」にたとえ、「宗教を隠れ蓑にした」政治的イデオロギーだと主張するなど、煽動的な発言をした過去がある。2月にはフリン氏は「ムスリムに脅威を感じるのは当然」とツイートしている。

こうした攻撃的な発言をさらに補強しているのがトランプ氏だ。12月、カリフォルニア州サンバーナーディーノにおける乱射事件の後、トランプ氏は、米国指導者が「いったい何が起きているのか理解できるようになるまで」すべてのイスラム系移民や同訪問者に対する米入国禁止を要求して世界を驚かせた。

 11月23日、米大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利を受けてマイノリティ層に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増。トランプ氏とその陣営幹部によって、偏見や人種差別、同性愛者に対する嫌悪を公然と表現しても構わないと支持者の一部に思わせるような雰囲気が生み出されたことを示している。写真は2015年6月、アリゾナ州フェニックスにあるイスラム教のコミュニティセンターで行われた「愛は憎悪に勝る」と題した集会に参加する親子(2016年 ロイター/Deanna Dent)

トランプ氏は大統領選に向けた運動のなかでも、法執行当局者がムスリム系米国人社会とモスクに対する監視を強化することを求めた。さらに彼は、ムスリム系米国人をデータベースに登録するか、ムスリムに対して特別な身分証明書の携帯を義務付けることを検討するとも語った。そうした措置が将来の攻撃を防ぐことになると主張したのである。

トランプ氏が次期大統領となった以上、多くのムスリム系米国人は、同氏や取り巻きがこうした提案のいくつかを実現するのではないかと危惧している。トランプ氏の顧問の1人、カール・ヒグビー氏は16日、フォックスニュースに出演し、ムスリムを対象に登録制度を設けるというトランプ氏の提案を擁護した。

この提案の合法性は疑問視されているが、ヒグビー氏はこれを擁護するために、米国にとって最も暗い時期の1例を引き合いに出した。第2次世界大戦中、当時のルーズベルト大統領が日本、ドイツ、イタリア系移民10万人以上を「敵性外国人」として区別するとした決定だ。1941年の真珠湾攻撃を受けて、1942年に下されたこの大統領命令は、後に連邦最高裁の支持を得て、米国市民権の有無にかかわらず、日系移民数万人が収容所に送られる結果となった。

フォックスニュースの司会者メギン・ケリー氏が、ムスリムの全国登録制度を作るという発想に疑問を投げかけたところ、ヒグビー氏は「私は単に前例があると言っただけだ」と述べた。

トランプ氏が共和党の大統領候補指名を確実にした後、本選挙で広範囲の米国民にアピールするために自身の意見を修正するかどうかが、大きな話題となった。特にイラク戦争の犠牲となって勲章を受けたムスリム系米兵の遺族をトランプ氏が攻撃したときには、他の共和党指導者も同氏の発言を非難したが、トランプ氏はイスラム教徒への批判を慎むことを拒んだ。

この戦略で票を勝ち取った以上、それを否定する動機は彼にはほとんどないだろう。

3月に米CNNテレビのキャスター、アンダーソン・クーパー氏のインタビューに応じたトランプ氏は、「イスラム教徒は私たちを憎んでいると思う」と断言。クーパー氏がイスラム教は西側諸国と戦争状態にあるのかと質問したところ、トランプ氏は「非常に大きな憎悪がある。私たちはその真相を探らなければならない。私たちに対する信じがたいほどの憎悪がある」と述べている。

こうしたレトリックは、現実世界にも影響をもたらす。

昨年11月にパリで発生したIS工作員による同時攻撃で130人以上が死亡し、同年12月2日にはIS指導者への支持を表明するムスリムの夫婦によりサンバーナーディーノでの乱射事件が発生した。これらを受けて、ムスリム系米国人に対するヘイトクライムが急増した、とFBIや公民権団体は記録している。

FBIの記録によれば、ここ数年、ムスリムに対する米国でのヘイトクライムは、月平均で推定12.6件のペースで発生していたが、パリ攻撃を受けて、12月半ばまでに38件と3倍に膨らんだ。

だが、FBIが先週発表したこうしたヘイトクライム統計も、この問題を不完全にしか捉えていない。地方の法執行機関からのデータ提供は任意であり、多くはヘイトクライムを報告していないからだ。

コミーFBI長官でさえ、最新の数字を発表する際に、過小報告の問題を認めている。「ヘイトクライムの追跡や報告を改善して、われわれのコミュニティで何が起きているのか、それをいかに防止するかを十分に理解する必要がある」と長官は述べている。

ヘイトクライムを地元警察に通報しない人が多いため、公民権団体は、事件の実数はFBIのデータが示すよりもはるかに多いと主張する。米司法統計局が実施した近年の調査によれば、2012年にヘイトクライムが29万3800件発生したと推定しており、この数字はFBIデータの約50倍となっている。この調査によって、事件の6割は警察に通報されていないことが判明した。

荒れた大統領選を経て、ヘイトクライムや嫌がらせの急増が伝えられるなか、トランプ次期大統領には、彼自身そして彼の顧問たちによる憎悪扇動を抑制する責任がある。だがこれまでのところ、彼自身の選挙運動が一因となった相次ぐ憎悪と嫌がらせに対処することについて、次期大統領は、ほとんど関心を示していない。

*筆者はニューヨーク大学教授(ジャーナリズム論)。元「ニューズデー」紙中東支局長。サウジアラビアとイランの代理戦争についての著書を執筆中。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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