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コラム:モスル陥落でも拡散するイスラム国の恐怖
2017年6月30日 / 07:42 / 3ヶ月前

コラム:モスル陥落でも拡散するイスラム国の恐怖

 6月29日、イラク政府高官は、過激派組織「イスラム国」(IS)の「カリフ国家」は終わったと宣言した。モスル旧市街のヌーリ・モスクで撮影(2017年 ロイター/Erik De Castro)

[29日 ロイター] - イラク政府高官は、過激派組織「イスラム国」(IS)の「カリフ国家」(預言者ムハンマドの後継者カリフが指導する国家)は終わったと宣言した。数カ月にわたる市街地戦と米軍の空爆を経て、イラク軍は6月29日、国内最後のIS拠点となったモスルから武装勢力を排除するまであと一歩に迫ったと表明した。

「偽りの国家は崩壊した」と、イラク軍の将軍は、モスル旧市街のシンボル的存在であるモスクを奪還した後、国営テレビに語った。シリアでは、米軍の支援を受けた民兵組織が、ISが自ら「カリフ国家」の首都と宣言した東部ラッカの奪還作戦を進めている。

シリアとイラクで最後に残ったIS支配下の2都市の陥落が間近となり、ISは支配地域の大半を失ったことになる。IS戦闘員は21日、歴史的礼拝所ヌーリ・モスクを破壊した。そこはISがまだイラク北部を席巻していた3年前、最高指導者バグダディ容疑者がカリフ国家の建国を宣言した場所だ。

イラク軍による破壊されたモスクの奪還は、同組織の崩壊を最も表だって象徴する出来事となった。だがこれで、ISやこの組織による暴力の支配が終焉したことにはならない。

シリアとイラクにおける支配地域の手痛い喪失は、ジハード(聖戦)への参加を希望する外国人にとって「カリフ国家」に向かうルートが狭くなったことを意味する。

だが、ISには、まだ新たな戦闘員や武器を確保し、強奪や恐喝で資金を稼ぎ、賛同者を送りこんで国外で攻撃を実行させるだけの余力がある。地上での勢力が弱体化するにつれ、ISには、シリアやイラクの国外で攻撃を仕掛けることにより失うものが少なくなる。

最近では、このジハード勢力は、フランスや英国などで起きた一般市民に対する一連の攻撃に素早く犯行声明を出した。

3月22日、ロンドンのウエストミンスター橋の上で車が暴走し、通行人5人が死亡。犯人の男は、英議会議事堂に侵入を試みたところを治安部隊に射殺された。2カ月後、英マンチェスターのコンサート会場で、自爆犯による爆発で22人が死亡。6月3日には、ロンドン橋で男3人が白いバンを暴走させ、歩行者に突っ込んだ。男たちはその後、バンから降りて近くのバラマーケットで人々を次々にナイフで襲撃。8人が死亡し、数十人が負傷した。男たちは警官隊に射殺された。

ISはすでに、間近に迫ったシリアとイラクにおける地上のカリフ国家喪失や、自身の指導者を失う可能性を、織り込んでいる。

6月中旬、ロシア当局は、ラッカ近郊のIS指導者の会合を狙った同軍の空爆で、バグダディ容疑者が死亡した可能性が高いと表明。これは確認されておらず、同容疑者については過去にも死亡したと誤報が流れたことがあった。だが、戦闘が継続され、新たな攻撃が行われていることは、ISが指導者死亡時の行動計画を定めていたに違いないことを示している。

実際、ISがすでに「指導者なきジハード」戦略を実践していることは明らかだ。国際武装組織アルカイダが過去に試みたが、成功しなかった戦略だ。

ISは、過去1年以上のあいだ、「ローンウルフ(一匹狼)」型の攻撃要員に対し、特に西側で、ISの名を使って行動するよう促してきた。過激化した人々は、トラックや自動車、ナイフや斧など、使える手段は何でも使い、ISの影響圏を知らしめろという指導者の呼びかけに応えた。

ISは、2015年11月に130人が殺害されたパリ攻撃のように、数カ月に及ぶ訓練や計画を要する攻撃を仕掛けたこともあるが、その後は、自ら過激思想に染まった個人に、大まかに計画された、時に行き当たりばったりな攻撃を奨励する方向に明確にシフトしている。

こうした攻撃により、IS指導者は、戦場での損失を穴埋めするような力を錯覚させて取り繕うことができる。また、ジハードの反乱という自らの起源に回帰し、シリアやイラクの支配地域を維持するにはあまり役立たないが、人々を恐怖に陥れる大小の攻撃に集中する、とのメッセージを送ることもできる。

だからと言って、支配地域の縮小によってISが弱体化したり、作戦が失敗したりすることを否定しているわけではない。パリのシャンゼリゼ通りで今月19日、31歳の男が自作の爆弾を積んだ車で警察のバンに突っ込んだ。爆弾は爆発せず、男は殺害された。その翌日、ブリュッセルの中央駅で、モロッコ国籍の男が、釘やガス缶が詰まったスーツケースを爆発させようとして失敗。治安当局に殺害された。

昨年のイスラム教の断食月であるラマダン期間中、ISは支持者に対し、欧州や中東、アジアで、爆弾や乱射、ナイフなどによる攻撃を実行するよう呼びかけた。25日に終わった今年のラマダンでも、ISは同様の呼びかけをしたが、成功裏に実行された攻撃は少なかった。

最近の攻撃の中にはアマチュア的なものもあったが、イラクやシリアでISのために訓練し、戦った戦闘員のグループは、今欧州に戻っており、仲間を増やしたり訓練したりすることが出来る。

「(ISの)指導を受け、攻撃実行能力のある数十人が、現在欧州にいると見られる」と欧州警察機関(ユーロポール)は昨年12月の報告書で指摘。このグループが「他人に攻撃するよう促したり、自ら攻撃を仕掛けるのに長けていることが証明されている」と述べている。

ISの指導者は、モスルやラッカと言った「首都」を失いつつあることを理解している。それは、ISが、他のジハード組織と一線を画し、参加希望者を惹きつけたりニュースとなる要素となった「カリフ国家」を使い果たしつつあることを意味する。自ら過激化し、時に精神的に不安定なこともある「ローンウルフ」の攻撃に依存することで、ISは、実力より広い範囲まで手を伸ばすことができる。そして、カリフが崩壊しようとも、恐怖を広め続けることができる。

*筆者はニューヨーク大学教授(ジャーナリズム論)。元「ニューズデー」紙中東支局長。サウジアラビアとイランの代理戦争についての著書を執筆中。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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