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焦点:日銀の出口政策、対話路線にシフト 具体的な試算公表には距離
2017年5月22日 / 09:19 / 4ヶ月前

焦点:日銀の出口政策、対話路線にシフト 具体的な試算公表には距離

 5月22日、日銀が超金融緩和からの出口政策をめぐり、これまでの「時期尚早」との立場から市場との対話を重視する路線にシフトし始めている。経済情勢の変化に応じ、想定される出口戦略の手法とその市場インパクトを「試算」し、市場からの「質問」の一部には答えて行く道を探っているもようだ。写真は日銀の看板、2014年1月撮影(2017年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 22日 ロイター] - 日銀が超金融緩和からの出口政策をめぐり、これまでの「時期尚早」との立場から市場との対話を重視する路線にシフトし始めている。経済情勢の変化に応じ、想定される出口戦略の手法とその市場インパクトを「試算」し、市場からの「質問」の一部には答えて行く道を探っているもようだ。

ただ、物価目標2%の実現までの道のりは遠く、具体的な試算結果の公表に距離を置く姿勢に変わりはない。

<「時期尚早」を封印>

東京市場のあるBOJウオッチャーは、画面に流れた黒田東彦日銀総裁の発言をみて「あれ、踏み込んでいる」と思ったという。

10日の衆院財務金融委員会で行われた日銀の半期報告。その質疑の中で黒田総裁は、出口局面における日銀財務への影響を問われ「いろいろなシナリオがあり得るのではないか、ということであれば、その考え方について内部でも議論している」と言明。

あくまで「将来」と前置きしながら、「そうした議論を紹介することができるかも知れない」と言及した。

さらに18日には、岩田規久男副総裁が参院財政金融委員会で、出口の際に金融機関が預けている日銀当座預金に対する付利を引き上げた場合の日銀財務への影響について発言した。

金融機関への支払い利息が増加する一方、当座預金残高を維持する場合は、保有国債のうち満期償還分の相当額を現在よりも利回りの高い国債に再投資することになるため、「日銀の保有国債の利回りも次第に上昇する」と説明。収支が大きく悪化することにはならないとの見解を示した。

象徴的だったのは、黒田総裁、岩田副総裁ともこれまでの常とう句だった「時期尚早」の表現を使わなかったことだ。

日銀内部での出口をめぐる議論の存在や、将来的な試算公表の可能性にあえて言及することで、日銀財務に配慮しながら政策運営を行っていることに理解を求め、同時に説明責任を果たす意思があることを示したといえる。

<日銀コメントに反応しない市場>

一部の市場関係者は、早期に出口の試算を公表するのではないかと色めきたったが、多くは「遠い先のこと」(国内市場関係者)として日銀首脳部の発言を事実上、黙殺。発言後の長短金利はほとんど反応しなかった。

ただ、ある日銀OBは、この現象が続くと将来的な日銀の出口戦略に微妙な影を落とすことになると警戒する。

日銀の発信に市場が価格変動で反応し、その変化幅が日銀の予想を上回れば、修正のためのメッセージ発信し、タイミングをみて市場に意図を伝える──。

この「市場との対話」のツールが使えないと、特に異例の大規模緩和からの引き締め局面では、日銀が政策の修正を図るたびに市場変動が大きくなってしまうリスクが発生する。

最近の市場の「無反応」には、日銀の大規模緩和による円債市場の流動性低下などを指摘する声が参加者から多く出ているが、市場の「感応度」も欧米市場と比べて落ちているとの声は少なくない。

<試算公表につきまとう市場リスク>

日銀が市場との対話路線にかじを切ろうとしている背景には、将来的な出口を少しでも市場が意識するような状況になれば、政策変更の直前まで織り込まずにいたケースと比べ、市場価格の急激な変動が抑制されるとの「読み」もありそうだ。

だが、日銀内の具体的なシミュレーションを公表すれば、数字が独り歩きし、市場に大きな「波紋」を投げかける可能性がある。

また、2015年12月に利上げを開始し、金融政策の正常化局面に入っている米国の「先例」も、日銀の対応を慎重にさせている。

米連邦準備理事会(FRB)は2011年に出口戦略を公表し、満期が到来した保有証券の再投資の一部もしくはすべてを停止した後に、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の引き上げを開始する方針を示した。

しかし、現実にはそのシナリオ通りにならず、日銀内では「失敗例」との見方が多い。

このため、実際の出口局面における手段やその手順などを示す具体的な戦略、長短金利の推移などいくつかの前提を機械的に置いて試算した収益シミュレーションの公表には、引き続き慎重に対応する構えだ。

公表した結果に対する市場の解釈次第では「かえって市場に余計な思惑や混乱を招くおそれ」(黒田総裁)があり、緩和効果に水を差しかねないとの懸念が、日銀内には根強くある。

<出口に潜む債務超過問題>

日銀はどのような「試算」をしているのか公表していないが、長期国債の買い入れ量の絞り込みと長期金利の動向、付利を引き上げた際の日銀財務への影響などを幅広く試算し、日銀の自己資本への打撃の程度をシミュレートしているとみられる。

一部の民間シンクタンクやエコノミストからは、出口局面において日銀が債務超過に陥る可能性とその際の市場反応がネガティブになるとの予測が出ている。

また、日銀の収益や財務の悪化によって通貨の信認がき損する可能性や、国庫納付金の減少で、国の財政に悪影響を与えると懸念する声もある。

一方、日銀は無利子の銀行券の発行と引き換えに、保有する国債などの利息収入を通貨発行益として得られる仕組みになっており、一部の識者は財務の悪化を過度に問題視すべきではないと主張する。

ある日銀関係者は「出口戦略は物価安定という最大の目標を実現するための政策であり、一時的に債務超過になっても特に問題はない」と述べている。

<日銀の狙いは何か>

いずれにしても、消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)が前年比プラス0.2%程度では、日銀が出口への準備を水面下で始めても「本気にしない」(国内金融機関関係者)という状況が続く。

しかし、原油安の影響はく落や潜在成長率を上回る成長ペースの持続が見込めるなら、17年後半から18年初めにかけてコアCPIが1%に接近し、さらに上昇する可能性もある。

実際の出口までには距離があるとしても、物価の上昇とともに市場で思惑が急速に広がる可能性も否定できない。その時にバタバタと動き出すよりも、今から出口に対する考え方を丁寧に説明していく対話路線にシフトし、メッセージの交換を円滑化したい──。そのように日銀が考えたとしても不思議ではなさそうだ。

伊藤純夫 取材協力:竹本能文 編集:田巻一彦

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