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焦点:日銀動かした超長期金利の大幅低下、政府と懸念共有
2016年9月28日 / 01:17 / 1年前

焦点:日銀動かした超長期金利の大幅低下、政府と懸念共有

[東京 28日 ロイター] - 「量」の緩和効果を3年半にわたって強調してきた日銀。それが「金利」を重視する枠組みに変更され、市場に起きた困惑は、さざ波を超えて大きなうねりになる可能性がある。何が、日銀を動かしたのか。舞台裏を探ると、超長期の国債利回りが大幅に低下した「副作用」の深刻さと、その懸念を政府と共有した構図が浮かび上がる。

 9月28日、「量」の緩和効果を3年半にわたって強調してきた日銀。それが「金利」を重視する枠組みに変更され、市場に起きた困惑は、さざ波を超えて大きなうねりになる可能性がある。写真は都内で21日撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

<麻生・黒田会談の舞台裏>

イールドカーブ・コントロール(YCC)が公表される1カ月半ほど前の8月2日、日銀の黒田東彦総裁は、麻生太郎・副総理兼財務相・金融担当相と会談した。

政府筋の1人は、マイナス金利導入後に大幅に低下した超長期国債利回りの問題が、テーマの1つに浮上したと打ち明ける。

席上、麻生財務相は40年国債の増発方針を黒田総裁に表明した。その背景にどのような狙いがあったのか──。

別の政府筋によれば、マイナス金利の導入後、ヘッジファンドが銀行株を中心に日本株売りのポジションを拡大し、さらに株価が下がるリスクを懸念する声が政府内で浮上した。イールドカーブをスティープ化すれば、銀行、生保、年金などの収益機会を増やし、株安リスクを縮減できるとの観点で、40年国債の増発に踏み切ることにしたという。

こうした見方は日銀に伝わった。日銀自身も銀行や生保の幹部から、長期ゾーンや超長期ゾーンの金利が下がり過ぎ、この政策が長期化した場合、経営の根幹に大きな影響を与えかねないという厳しい「現状認識」を聞いていた。

8月中下旬になると、日銀内でも「量的緩和とマイナス金利の組み合わせは、予想以上の効果が出ている。長期ゾーンや超長期ゾーンの金利は、当初の想定よりも下がっている」「追加緩和をしないで、長期ゾーンや超長期ゾーンの金利が下がるのは、どうしてなのか」「イールドカーブはフラット化し過ぎだ」という懸念が出てくるようになった。

<YCC浮上までの曲折>

こうしてYCCが徐々に現実味を帯び、多くの日銀関係者の前に姿を現し出す。複数の関係筋によると、YCCが少人数の関係者の下で本格的に検討され始めたのは、今年3月ごろだったという。

もともと米財務省と米連邦準備理事会(FRB)との間で1951年3月に締結されたアコードについて、日銀は研究を進めてきた。

日本軍の真珠湾攻撃後、太平洋戦争の終結、朝鮮戦争と財政拡張の圧力が強まる中で、FRBは長期金利2.5%を事実上の天井とする政策に協力。この政策はアコード締結まで続き、長期金利ターゲットの嚆矢(先駆け)とされる。

極めて少数の日銀関係者の間では、長期金利ターゲットという手法が、量的・質的金融緩和(QQE)を続ける中で、採用可能なのかイメージトレーニング的な「思考実験」が、1年以上前には進んでいた。

昨年6月、日銀の中堅3人が「均衡イールドカーブ」という概念について論文を作成した。景気を過熱も減速もさせない金利水準を年限ごとに並べ、それを「均衡イールドカーブ」と命名。現在の実質金利を並べたイールドカーブを比較し、政策効果を推し量ることを可能とする内容だ。

年限10年超の超長期金利は、利下げによる景気刺激効果が中短期より小さい、と今回の「総括検証」とほぼ同様の結論となっている。日銀幹部の1人はその当時、将来の政策を考える上でも貴重な成果であるとの考え方を示していた。

YCCの概念は、この論文が土台となる。そして今年7月、日銀がイールドカーブ低下による経済への影響について本格的な分析に着手すると、「量」から「金利」への基準変更の方向性が、より多くの日銀関係者に認識されるようになる。

総括検証の分析作業とともに、YCCの具体的な手法の検討も急ピッチで進められた。問題はマイナス金利を採用している短期金利と線を結ぶ一方を、どの年限でピン止めするか。

年限を長くすればするほど国債需給以外に人々の物価観や成長率見通し、リスクプレミアムなどの要素が増え、制御が効かなくなる。

他の中銀と同様に、日銀内でも「中央銀行が長期金利をコントロールするのは不可能」(別の幹部)との考えは根強く、当初は5年など中期金利をマイナス水準に誘導することも検討対象に挙がったようだ。

それでもマイナス金利導入以降、イールドカーブを大きくフラット化させた成功体験に加え、長期金利という代表的な金利指標をゼロ%に設定する「わかりやすさ」が10年という選択につながったとみられる。

ある日銀関係者は、世界的に超低金利環境にある中で、現在の為替市場が注目する内外金利差は「過去に言われていた2年などでなく10年」とし、「10年金利を明確なプラスにしないことで、円高を回避する狙いもあるのではないか」と解説してみせた。

<金利と量の併存>

並行して日銀執行部は、3年半の黒田緩和の効果と影響を「総括的な検証」として9月の金融政策決定会合で議論できるよう、政策委員の根回しに動く。

「量」の効果について、強い確信を持つ複数のボードメンバーの動向が、YCC実現への大きなポイントだった。

複数の関係筋によると、行き過ぎたイールドカーブのフラット化が「検証」の大きなポイントとなり、その修正が様々な観点から必要である、ということに関して、理解が得られたという。

その結果、21日に公表された「総括的な検証」では、イールドカーブのフラット化の効果と金融面への影響について「経済への影響は、短中期ゾーンの効果が相対的に大きい」「広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」ことが明記された。

消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する新たなコミットメントを導入するとともに、国債買い入れにあたっては保有残高を年間80兆円増加させる現行ペースをめどとすることも明記した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入が賛成多数で決まった。

<市場との対話、模索する日銀>

ここまでの過程をみると、もう1つ大きく変わったことがある。それは超大国による「衝撃と畏怖」戦略ばりの「サプライズ路線」を大幅に転換し、事前に大きなヒントを市場に与えて、日銀の意図が正式発表時により浸透しているということを狙った「新戦略」だ。

総括検証の総裁指示を公表した7月会合以降の市場の混乱も見越し、見解を収れんさせる意図も込めて9月に黒田総裁と中曽宏副総裁の講演を相次いでセット。

総裁と副総裁の講演で、イールドカーブの過度なフラット化が保険・年金などを含めた「広い意味での金融機能」に悪影響を与える可能性に言及。金融仲介機能への影響を認め、そうしたコストに対応する必要性を示唆した。

それでも金融界に疑心暗鬼が残る。日銀会合直前の9月中旬に都内で開かれた地銀と金融庁の幹部会合。

ある地銀のトップが「マイナス金利政策により、貸出金利ざやの縮小、国内債の利回り低下など収益環境は厳しさを増しており、長期化すると金融仲介機能に影響を及ぼしかねない」と警戒感をあらわにした。

そして、日銀と市場の「神経戦」は、21日の新スキーム発表後も展開された。ゼロ%がターゲットの10年国債利回りJP10YTN=JBTCは28日、マイナス0.085%まで低下。日銀がどこまで「幅」を許容するのか、市場による手探りの確認作業が続く。

複数の日銀関係者は、20年から40年の超長期ゾーンについても、21日の新スキーム発表直前のイールドカーブが当面の理想的なかたちで、それ以上のスティープ化は望んでいないと述べる。

しかし、それも銀行サイドからすれば「入札で購入して、オペで超長期の買い入れを絞られると、大きな損失が出てしまうので、当面は警戒しながらの展開になる」(国内銀関係者)ということになる。

次の緩和はいつなのかも含め、仕切り直した日銀と市場の「対話」は始まったばかりだ。

日本語ポリシー・チーム 編集:田巻一彦

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