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コラム:英国のEU残留派、「敗者」にあらず
2016年7月2日 / 23:11 / 1年前

コラム:英国のEU残留派、「敗者」にあらず

 6月29日、英国議会で多数を占める強力な欧州連合(EU)残留派が、実のところは負けてもいない国民投票に関して潔く敗者として振る舞う理由はまったくない。写真はロンドンで28日、EUとの結束を訴えるデモ参加者(2016年 ロイター/Dylan Martinez)

[ロンドン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票から週が明けた27日、英国の代表的政治家の多くは、1日の大半を、国民の意志を受け入れることについて互いを称え合って過ごした。

保守・労働両党の国会議員は、自らの責任放棄について奇妙な誇りを抱いていたのである。勝者の側は寛大さを示し、敗者の側はもっぱら「国民の意志」と称するものを尊重することを約束していた。しかし外から見る者にとっては、こうした政治的な態度は無謀かつ奇妙で、不必要なものである。

無謀というのは、英国が経済的・政治的にとてつもなく大きな課題に直面しているからだ。EU離脱はギャンブルである。わずかな経済的利益を得られる可能性に対し、見込まれる損失は大きい。信頼を失い孤立した国として、最大の貿易相手との絆は弱まりつつある。

だが、残留派のなかにも、英国は離脱後もEUと良好な通商関係を築けるのではないかという離脱派の幻想に引きこまれてしまった人は多い。英株価指標FTSE100種.FTSEが29日、6300を超え、国民投票前日の水準を回復したことは、こうした生温い夢想を反映している。

状況を考えれば、国民投票の結果がほぼ無条件に受け入れられていることも奇妙な話である。なぜこの道しかないのか。ただでさえ怒りに満ちている双方の陣営の有権者を、なぜさらに離反させるのか。残留派はすでに激怒しており、離脱派の有権者は悪いニュースを覚悟している。経済的な打撃に加えて自分たちの期待が裏切られたことで、彼らは、グローバリゼーション以前の世界という幻想に浸っている。

こうした奇妙な振る舞いを最もうまく説明するのは、キャメロン英首相の言う「民主主義の尊重」ではない。もう一つの英国の伝統、「ゲーム」だ。われわれが勝ち、君たちが負けた。顔を上げろ、一人前の大人として受け止めろ。握手して、さあ、前に進もう。

だが、このアプローチは何から何まで間違っている。離脱か残留かという判断はスポーツの試合ではない。勝者も敗者も、明確なルールもレフリーも、そして来シーズンの再戦もありはしない。この問題は複雑である。情報に基づいて理性的な判断を下せる人間のみが答えを出すべきなのである。立法府よりも国民が優位に立つ機会を与えることは、代議制民主主義の原理に対する侮辱である。

代議制という安定した民主主義の形式を発明したのは基本的には英国民なのだが、それでも彼らは、EU残留の是非という問題をゲームとして扱うことに決めた。だが彼らは、スポーツの基本的な原則を忘れていた。つまり、公正なルールの存在である。

今回の国民投票は、公正さとは程遠いものだった。離脱派のキャンペーンは、計画や予測の提示を何一つ求められず、具体的な説明は一切行わなかった。彼らは有権者の幻想や恐怖、憎悪を煽り立てることで、こうした不公平な条件をフル活用したのである。

これがスポーツであれば、たとえルールが不公平に見えても、それに従ってプレーするのもよかろう。しかし、離脱派がやったことは積極的な「ごまかし」だ。

 6月29日、英国議会で多数を占める強力な欧州連合(EU)残留派が、実のところは負けてもいない国民投票に関して潔く敗者として振る舞う理由はまったくない。写真はロンドンで28日、EUとの結束を訴えるデモ参加者(2016年 ロイター/Dylan Martinez)

彼らはEU離脱により節約できる拠出金は1週間あたり3億5000万ポンド(約480億円)に達すると宣伝したが、これは嘘だった。EU域内で暮らす120万人の英国民にとって、何一つ心配する必要はないという保証も嘘だった。英国に有利な離脱交渉を行うことは簡単だという主張も嘘だった。

有能なレフリーなら、離脱派を失格とし、残留派が不戦勝となっただろう。イギリスには、虚偽の商業広告を取り締まる監視機関がある。だが、政治キャンペーンについては、そのような機関は存在しない。

結局、ゲームは最後まで続けられ、離脱派が勝利を宣言した。だが、これほどの接戦の投票結果では、票数は決定的とは言えない。選択肢は3つに分かれていた。有権者の28%は棄権し、37%は離脱、35%は残留に票を投じた。あくまでも机上の空論になってしまうが、もし棄権者の年齢が平均より若く、そもそも投票所に足を運んでいたら、残留派が勝利を収めていたかもしれない。

つまり、「ごまかし」をやったチームは、自らに有利な条件の試合で、ようやく引き分けに持ち込んだにすぎない。議会で多数を占める強力な残留派が、実のところは負けてもいない国民投票に関して潔く敗者として振る舞う理由はまったくない。選挙で選ばれた国民の代表たちは、国民投票の結果を覆す、できるだけ穏便な方法を探すべきである。「ゲーム」のことを忘れるのが彼らの責務だ。

国民投票など実施しない方がはるかに良かっただろう。いずれにせよ、投資家のあいだでも欧州諸国の政府のあいだでも、英国の評判は回復しようのないほど傷ついてしまった。英国経済は、不確実性を抱えて苦しんでいる。

今となっては、先週の投票結果を無視するというのが正しい決断だが、それも恥の上塗りであり、馬鹿げている。政治的動揺を回避するため、有権者に対して慎重に訴える必要も出てくる。とはいえ「良き敗者」であることから生じる問題に比べれば、この方がマシなのである。

少なくとも人口動態という点では、EU残留の方がはるかに有利である。ユーゴブの調査によれば、若者のあいだでは「残留」が3対1で圧勝した。この結果は、次世代の国民の視野がますますグローバルになっていることを反映している。

この年代のエリート層は、英国民であるのとほぼ同程度に欧州市民なのだ。この世代が徐々に権力を握っていくにつれて、彼らは理解と情熱を持って欧州規模のプロジェクトへの参加を望むだろう。次期首相は、ゲームに興じることをやめ、こうした新しい世代が進む道を整えるべきなのである。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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