シルバー特集:拡大続くシニアの資金力、「団塊」加え新たな活力
[東京 13日 ロイター] 高齢化が進み、社会の活力低下が心配されている日本。だが、そうした「常識」とは別の現実が今、静かに進行している。自ら声高に主張しない高齢者たちの豊富な資金力は、新たな消費トレンドをリードする一方、外貨建て資産の購入などを通じて金融マーケットにも影響を及ぼし始めた。定年退職を迎えた団塊の世代も加わり、一段と存在感を増しつつある日本のシルバー・マネーの動きを追った。
<シニア旅行はビジネスクラス、「究極の旅」もキャンセル待ち>
台風接近を知らせる横なぐりの雨が時おり、歩道をたたきつける。人通りがまばらな銀座の一角にあるビルの2階に上ると、悪天候をおして集まった約300人でホールはほぼ満席だった。阪急交通社が9月6日に開いた海外旅行説明会。やってきた人々の約8割は、定年退職後とみられるシニア層だ。参加者は旅行先のホテルのグレードや食事の内容などを熱心にメモし、ためらう様子もなく旅行契約のためのブースに足を運ぶ。
「説明会に来た人の30%近くが、その場でツアーを申し込んでくれる」と同社の担当者の表情は晴れやかだ。「ゆったりとフライトを楽しめるようにシニアは、ビジネスクラスを希望する人が多く、高額ツアーの売れ行きが好調」という。たとえば、エコノミークラスなら20万─30万円という約1週間のスペイン方面のツアー料金は、ビジネスクラスだと50万─60万円に跳ね上がる。シニアの旅行客でビジネスクラスが埋まり、出張するビジネスマンが席を取れないケースもある。国内旅行も同様で、阪急旅行社によると、グリーン車や高級旅館を組み合わせた30万円台の商品の売れ行きが好調だ。
「究極の旅」とも呼ばれる豪華客船の世界1周ツアーは、3カ月ほどの日程で安くても一人300万円台、高いツアーで2000万円台もの料金がかかる。だが、人気の寄港地が含まれているツアーは2年以上先までキャンセル待ちの状態だ。世界1周ツアーなどの船旅を手がける郵船クルーズの関係者は「世界1周旅行の参加者は平均70歳くらい。約8割が夫婦で参加し、残りはグループや1人でやってくる」と話す。クレジットカードを使わず、現金決済が多いという。
シルバー・マネーは小売り業界でも存在感を増しつつある。伊勢丹8238.Tとの統合を発表し、百貨店業界での王座奪回を図る老舗の三越2779.T。旗艦店である日本橋本店はもともとシニアの富裕層が集まる店だが、ここで宝飾品・アクセサリー・時計担当のバイヤーをつとめる斉藤作氏は、「最近は100万円台の時計よりも200万円台の時計の売れ行きが好調」と、シニア消費がさらに拡大し、高額化している点を指摘する。同社の高級時計の売れ行きは、2006年度が前年比9%増、07年3─7月の5カ月で同2.6%増と好調だ。
<増える豊かな高齢者、団塊世代に25兆円がシフト>
国立社会保障・人口問題研究所によると、2005年に日本の人口の20.2%を占めていた65歳以上の高齢者は2013年に25%を超え、2023年には30%に達する。その間、1000万人以上の「シニア」が誕生する。人数が増えるだけではない。いわゆる団塊世代の退職により、まとまった現金を手にした「豊かな高齢者」が増える。日本総研の推計によると、今後、団塊世代(1947年生まれから49年生まれ)の懐には、退職金などで約9兆円、定年延長などで所得が増えることにより16兆円、合計25兆円規模の資金が入る見通しだ。高齢者の消費シェアは2005年の33%から2015年には39%超と5%ポイント高まるという。
シルバー消費には、どのような傾向や特徴があるのか。日本初のシニア向けファッション雑誌「Z(ジー)」の山田耕二編集長は、行動力のある団塊世代の「こだわり」がそのキーワードだと指摘する。今年初め、同氏は自ら、「こだわり」の威力を実感した。同誌で5万円のレザーシャツを紹介する記事を載せたところ、販売店に電話が相次ぎ、50着があっという間に完売、追加生産する事態になった。「こうしたシャツは10着も売れればいいほう。素材やデザインがシニアに受けたのだと思う」と同氏はふりかえる。自分の「こだわり」に合致した商品やサービスにはカネを惜しまない「リッチな高齢者」が今後、さらに増えていくと山田氏は予測する。
<高級化路線の自動車各社、シニアが需要をサポート>
「こだわり」で動くシルバー・マネーは、若者の自動車離れで国内の販売不振が続く自動車各社にも恩恵をもたらしている。収益向上の決め手として各社が期待をかけているのは、元気なシニア向けの高価格車戦略だ。昨年に国内で発売されたホンダ(7267.T: 株価, ニュース, レポート)のSUV(スポーツ多目的車)「CR―V」は、全面改良を機に乗り心地や内装などの質感を高め、価格も引き上げた。30─40代をターゲットにして苦戦していたトヨタ自動車(7203.T: 株価, ニュース, レポート)の高級車ブランド「レクサス」は、購入者の68%が50代以上という旗艦モデル「LS460」を売り出して以降、販売台数が13カ月連続で前年同月を上回る好調ぶりをみせている。
日産自動車(7201.T: 株価, ニュース, レポート)が02年に投入した「フェアレディZ」の主要購買層も高齢者。昨年11月に発売したスカイラインは、1カ月の受注目標1000台のところ、わずか1週間で4000台を受注し、そのうち6割が50代以上だった。日産系販売店の幹部は「青春時代のあこがれの車を求める人が目立つ」と話す。三菱自動車(7211.T: 株価, ニュース, レポート)の「パジェロ」も含め、各社が想定する主要購買層は50代以上の子離れ世代だ。
最先端技術が盛り込まれる高級車はブランド力向上のほか、技術力の底上げにもつながるとして、「長期成長に欠かせない」とトヨタ幹部は言う。ホンダでも、CR─Vの売込みには「少子高齢化社会をひかえ、シニア層を取り込んでいく必要がある」(当時の国内販売担当役員)とみている。シルバー・マネーの威力は、旅行や小売りだけでなく、製造業にも戦略の転換を迫っている。
日本総研・調査部主任研究員の小方尚子氏は、高齢者ほど所得格差が大きいとしたうえで「豊かな高齢者は株式や預金など多くの資産を持っている。企業は経営方針として賃金よりも株主への配当を重視する方向にあるし、金利も基本的には正常化の方向にあるため預金からの利子も増えていく。高齢者というのは今後豊かな層として期待できる」と話す。
高齢化は成長の足かせというのが、これまでの通念だった。だが、シルバーマネーを企業や日本経済の成長につなげようとする「常識はずれ」の試みがいま、様々な形で動き出している。
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