シルバー特集:「日本の未来は暗くない」、豪作家が語る
[東京 27日 ロイター] オーストラリアと日本を拠点に活動し、2つの異なる社会でシニアライフを送る作家のロジャー・パルバースさん(63)。そんな彼の目に、高齢化する日本社会の未来はどう映るのか。「日本には新しい文化が花開く」と明るい見通しを持つパルバースさんに話を聞いた。
──高齢化が進んで日本は衰退していくという一般的な見方には賛成か。
「日本の未来は暗くない。私は東京工業大学で教壇に立っているが、学生や若いクリエイターなどと接して、そう感じる。経済的に大きく成長したり、中国などアジア諸国との外交関係が良くなるかどうかは分からないが、文化的に繁栄していくだろうと期待している。明治時代には森鴎外や宮沢賢治のようなコスモポリタンがいた。21世紀の日本には第2の明治というべき時代が到来して、新しい文化が花開くかもしれない」
「団塊の世代も、日本にとっては救いだ。ロックンロールやビートルズを聞き、学生運動もやった彼らは発想が開放的。欧米的なロマンティシズムも持っており、今までの世代とは違う。彼らは引退し始めたばかりなので、これから変化を起こしていくだろう」
──暗い要素は。
「1つ障害があるとすれば少子化だが、悪いのは政治であって、いずれ変わる可能性がある。子供を育てるのが楽な社会になれば、以前のようにどんどん子供をつくるようになるかもしれない」
「日本は働き盛りという言葉の定義を見直してもいい。私はあと2年で東工大を退職しないといけないが、ようやく教えるコツを会得した。教えたいことがいっぱいある。体力的にみれば40代が働き盛りかもしれないが、質でいうと年配者は良い仕事ができると思う。日本には働きたい気持ちが強い高齢者が多いし、少子化による労働力不足対策にもなる」
──日本とオーストラリアで高齢者のライフスタイルに違いはあるか。
「オーストラリアに限らず、西欧、北欧では、劇場や映画館で熟年夫婦の姿をよくみかける。日本では子供が生まれる前は映画や芝居を見に行くが、子供ができると女性は育児に追われ、男性はローンの支払いに追われて余裕がなく、引退後の生活を楽しむノウハウを身につけることができない。これは悲しいことだ。毎日の食事や子供の話だけでなく、趣味や芝居などの話をすることで、熟年生活が深くなる」
「オーストラリアはボランティアをする年配者も多い。グレー・ノマド(白髪の遊牧民)と呼ばれる人たちがいて、トレーラーで国内を回り、貧しい人や、かつて弾圧をした原住民などの手助けをしている。日本も阪神・淡路大震災など失われた10年を経てボランティアをする人が増えてはいるが、もっと積極的になっていい。これまで身につけた知識や日本語を発展途上国で教える、なんてこともできる。下手な官僚や政治家よりも、そういう人たちを日本の代表として送ったほうが国益になる。日本人は戦争をする国民ではないと、残りの人生で見せることも大事だし、日本語を学んだ生徒がいずれ翻訳者になったり、起業して日本と貿易するようになるかもしれない」
──自分自身が2つの国でシニアライフを送ってみて、どちらが暮らしやすいか。
「もし、妻に先立たれて1人になったとしたら日本に帰ってきたい。1人で暮らすには欧米社会よりも日本のほうが楽。治安はいいし、レストランに食事に行っても対応がフレンドリー。日本は千住だろうと川崎だろうと、街がこじんまりしていて駅の周辺に全てがある」
「でも、病院や介護ホームなどの設備を考えると、オーストラリアのほうがいい。日本の医療システムは第三世界なみ。患者は身体のどこが悪いのか、どういう治療法があるのか全てを知りたいものだが、日本の医師は権威主義的すぎる。オーストラリアでは手に入る薬も規制のせいで入手できなかったり、病院も衛生的によくない。日本は長寿という点では世界一だが、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)ではナンバーワンかどうか分からない」
<プロフィール> 作家、劇作家、演出家。東京工業大学教授。1944年、米ニューヨーク生まれ。1967年に初来日し、京都産業大学の講師などをしながら執筆活動を開始。76年にオーストラリアに帰化し、日本との間を行き来する。08年3月公開の映画「明日への遺言」の脚本も手がけた。
(ロイター日本語ニュース 久保信博)
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