依然として日本株に残る割安感、解散価値下回る優良銘柄も多く
[東京 7日 ロイター] 日本の株価は、ヘッジファンドによる換金売りなどで不当にゆがめられた状態から徐々に回復しつつある。だが、豊富な優良資産を持つ老舗企業のPBR(株価純資産倍率)が依然として解散価値の1倍を割り込むなど「ゆがみ」は残っている。
こうした市場の不均衡を収益機会ととらえるヘッジファンドなどもいるという。
<市場関係者が首を傾げたホンダ(7267.T: 株価, ニュース, レポート)のPBR1倍割れ>
日経平均株価が年初来安値1万1691円を付けた翌日の3月18日、ホンダの株価は終値で2630円まで下落しPBRは0.99倍と解散価値の1倍を割り込んだ。円高が進みサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題の影響で、北米市場での売れ行きに不安があったとは言え「ホンダ・ブランドの価値を考えれば1倍割れは売られ過ぎ」(国内証券投資情報部)と市場からいぶかる声が出た。
一般的には企業の時価総額が解散価値と呼ばれる純資産を下回るのは、1)経済がデフレ環境にありバランスシートの信頼性が低下している、2)業績が赤字になり純資産のき損が見込まれる――などのケースに限られるが、現実には日本経済が再度、デフレスパイラルに陥るリスクは、現時点では相当程度、小さくなっているとの見方がマーケットの多数になっている。
<ヘッジファンドのデ・レバレッジと後遺症>
ファンダメンタルズからみて合理的と考えにくい水準まで売り込まれたのは、ヘッジファンドによる換金売りが大きな要因だ。信用収縮不安が高まる中で、顧客からの解約要求が急増し、これまで元手の何倍も膨らませて投資していたレバレッジ投資の逆転現象、いわゆる「デ・レバレッジ」が一気に強まったことが背景にある。3月安値を付ける過程で「ファンダメンタルズが反映されないくらいの勢いで売りが出た」(野村証券・投資調査部チーフストラテジストの岩澤誠一郎氏)という。
3月の外国人売り越し額はブラックマンデーのあった1987年10月(2兆0232億円の売り越し)に次ぐ1兆2982億円(3市場投資主体別売買)にまで膨らんだ。
その後、米ベアー・スターンズBSC.Nへの救済策などをきっかけに、流動性問題への不安は後退。日経平均は2日終値で年初来安値から20%、2300円以上戻した。ホンダの株価は3月18日から30%上昇。PBRは1倍を超すところまで回復している。
だが、中長期的にみれば日本株の割安感は依然として残っているとの指摘もある。
野村証券の岩澤氏は、米金融機関の不良資産がなくなったわけではなく、資産圧縮による景気下方圧力は依然続いているため、短期的に株価が調整する可能性があるとみる「弱気派」だ。しかし、中長期的な観点からみれば、日本株は割安な水準にあるとみる。「(ヘッジファンドなどの売りによる)需給で株価はかなり安いところまで売り込まれた。1万4000円まで回復したことで、ある程度は水準訂正できたとみる声もあるが、年初時点では1ドル=105円の水準で1万4000円が今年の下値とみる向きが多かった。依然として中長期的には割安感があるレベルだ」という。
<PBR1倍割れ銘柄は全体の半数近く>
「日本株は利益成長の視点では買いにくいが、資産価値から買える銘柄が増えている。投資尺度としてのバリューが効きはじめた」(欧州系証券幹部)――。株式市場では、サブプライム問題に端を発する金融市場の混乱が峠を越したとの認識が広がりつつある一方で、売られ過ぎた日本株の資産価値を見直す機運が出ている。
5月2日現在、東証1部上場銘柄1710のうち、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄は800を超え全体の48%に達している(ロイター調べ)。ホンダのようにPBR1倍を回復するまで買い戻された銘柄もあるが、日立製作所(6501.T: 株価, ニュース, レポート)、王子製紙(3861.T: 株価, ニュース, レポート)、新日本石油(5001.T: 株価, ニュース, レポート)、富士重工業(7270.T: 株価, ニュース, レポート)、NTT(9432.T: 株価, ニュース, レポート)など豊富な優良資産を持つとみられながら、依然としてPBRが1倍を割り込んでいる大手企業も多い。
2009年3月期の会社側業績予想は、株式市場が懸念していたほど減益幅が大きくない。しかし、為替、原燃料価格、米経済など先の読みにくい要素が多く、例年より業績予想の精度は低下しているとの見方もある。ちばぎんアセットマネジメントの安藤富士男専務は「JFE(5411.T: 株価, ニュース, レポート)が予想を発表できなかったように不確定要素も多い。銘柄選択に際して業績予想が堅調なだけでなく、下値リスクを限定的にする意味で低PBRは重要な尺度になる」と話す。
<海外勢は市場の「ゆがみ」を「チャンス」と把握>
一部のヘッジファンドもパニック売りが格好の収益機会をもたらしたとみている。ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の破たんとロシア債務危機が、世界的な金融危機を引き起こした1998年。この年の終盤から1999年にかけて市場は大きく上昇。日経平均は98年10月9日の安値1万2787円90銭から99年7月16日の高値1万8623円15銭まで45%上昇した。
あるヘッジファンド幹部は「ディスパリティ(不均衡)の拡大に注目した投資で、10%超のリターンを上げることも可能」とした上で「おそらく、夏いっぱいはその路線で行く」と話している。
ベルギーのディジコ・ホールディングスは4月15日、ベリテ(9904.T: 株価, ニュース, レポート)に対し友好的株式公開買付け(TOB)を行うと発表した。過半数の株式を取得することで、経営に参画するとしている。また、ドイツの大手自動車部品メーカー、ロバートボッシュは4月23日、日本子会社のBosch(6041.T: 株価, ニュース, レポート)にTOBを実施し、完全子会社化すると発表した。
ベリテの株価はTOB発表前からみて約8%上昇したが、PBRは依然0.45倍と解散価値の半分以下だ。
M&A(企業の合併・買収)は株価の下落や信用収縮の緩和を背景に減少していたが「株価下落は安く買える機会ももたらした」(外資系証券)とも言える。投資家のリスク投資が回復する中で、保有資産に対し「ゆがみ」を感じるほど株価が割安な企業には、M&Aの手が伸びてくる可能性も大きい。
(ロイター日本語ニュース 伊賀 大記記者 河口 浩一記者;編集 森 佳子)
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