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コラム:「イスラム国」終焉観測の落とし穴
2016年5月29日 / 02:27 / 1年前

コラム:「イスラム国」終焉観測の落とし穴

 5月23日、多くの専門家は現在、過激派組織「イスラム国(IS)」が終焉(しゅうえん)を迎えつつあるのではないかと推測している。写真はイラクのガーマでの戦闘で勝利し、ISの旗を掲げるシーア派の戦闘員。26日撮影(2016年 ロイター/Thaier Al-Sudani)

[23日 ロイター] - 多くの専門家は現在、過激派組織「イスラム国(IS)」が終焉(しゅうえん)を迎えつつあるのではないかと推測している。

領土を失い、財源も枯渇しつつある同組織では、外国人戦闘員の勧誘数もごくわずかとなり、過去1年間では月間2000人のピークから最大90%も減ったと報じられている。

毎週、組織の要人を抹殺するという米主導の有志国連合の作戦は、その目的を十分に達成しているようにみえる。さらに、相当数の戦闘員がとりわけシリアから逃亡している。

しかし、これまでアルカイダを含めた武装組織がそうだったように、最近の形勢逆転はISを単に非正規戦に持ち込ませることになるのかもしれない。例えば、外国戦闘員が戦場にたどり着けないのであれば、IS指導者は、聖戦主義の志望者に、自国にとどまり、そこで攻撃をするよう指導することができる。

このことはISの終焉を予測する向きには悪い前兆だ。研究によると、武装勢力の寿命は中央値で10年。関与する外国の数が多ければ多いほど、その寿命は延びる。歴史的な傾向をみれば、ISとの戦いはまだ初期段階にある。

理論上では、ISが領土と資金と新規戦闘員を失っていることは、米国が主導する有志国連合の大きな前進を示しているかのようにみえる。しかし、戦争は机上で行われるものではない。

ISとの戦いで、広く受け入れられている1つの自明の理があるとするならば、同組織の指導者はイスラムの「カリフ国家(預言者ムハンマドの後継者が指導する国家)」を建設するため、死ぬまで戦う意図があるということだ。

同組織の中枢が環境の変化に適用するのは今回が初めてではない。ISはイラクのアルカイダの子孫だ。アルカイダの分派の中でも、おそらく最も野心的で、その暴力性は組織創設者だったザルカウィ容疑者に由来する。ある分派は、イラク戦争後と現在の戦闘において米国主導の有志国連合に対し著しい敗北を喫してきたにもかかわらず、10年以上も存続している。

それゆえに、勝利を祝うのは余りにも早すぎる。シリア内戦はまだ数年しか経っていない。ISはそこではヒズボラやヌスラ戦線などとともに、いくつかある暴力的な非国家主体の1つでしかない。

シリア内戦には、米国とロシア、イラン、トルコ、サウジアラビアが大きく介入している。また、程度の差こそあれ、カタールやクウェート、アラブ首長国連邦といった他の湾岸諸国も干渉している。

しかし、ISは戦闘の盛衰に順応しながら、今後も一貫した組織として存続すると予測することは合理的である。最近の敗北も、長い文脈の中で評価されるべきである。IS指導者によると、有志国連合の勝利は一時的なものであり、将来の戦闘へのプロローグとみなされる。

それが従来型の散発的攻撃になるのか、あるいは戦争には至らない程度の暴動かは、現時点では分からない。しかし、この戦いの展開は、ISが作戦環境の変化にどう対応するかに大きく依存している。

例えば、IS指導者は、勧誘した外国戦闘員に母国にとどまり、そこで攻撃をするよう決定できる。Sが11月にパリで、3月にブリュッセルで行った同時攻撃のように、イラクやシリアから欧州に戦闘員を派遣する必要もない。

さらに、ISが既にドイツやイタリア、英国といった一部の欧州諸国に送り込んだと主張する潜伏工作員と、意欲的な聖戦主義者たちを連携させることもできる。(先週末にIS広報担当から来たとされるメッセージでは、IS信奉者に対しイスラム教の断食月ラマダンの期間中に米国と欧州を攻撃するよう求めている。)

欧州と米国本土で、目を見張らせるような攻撃を行うことはIS戦闘員の勧誘活動を盛り上げ、士気を向上させ、さらにカリフ国家建設に向けた宣伝戦の勝利となろう。また、それはISの行動パターンとも一致する。領土と人的な損失に対しては、隣接区域内外での攻撃で応じるというものだ。

いずれにせよ、意欲的な新たな戦闘員たちに母国でテロ攻撃を実施させる前に、シリアに行かせることは代償を伴う。パリとブリュッセルの攻撃における主要実行犯は、欧州とシリアを行ったり来たりしていた。しかし、実行犯たちが既知の戦場から戻るとき、西側の情報当局や法執行当局から発見されるリスクが高まる。

ISは、所属メンバーが、とりわけ兵站担当者や爆弾製造者による訓練や、戦闘の経験を有していることを明らかに好んでいる。技術的な専門知識を書面で教えることは難しく、たいていは見習い訓練で習得される。それは熟練した指導者が、新たな戦闘員と一緒にいて専門知識を授けることを意味する。

ボストン・マラソン爆破事件のツァルナエフ兄弟が証明するように、若い戦闘員は、ネット上にある説明書に従って、破滅的な爆発物を成功裡に作成することができる。それでも、ISは、失敗リスクを抑えるべく、新メンバーには実地訓練を受けさせるようにしている。

もう1つ考えられるISの反応は、戦闘員を世界中に分散させることだ。中東や北アフリカ、南アジアに存在する破綻国家や戦闘地域に兵士を送り込むことだ。すでにリビアやシナイ半島、エジプト、バングラデシュその他の国々で、ISが関連組織を設けたことが分かっている。サウジアラビアでもISの存在が高まっている。

これらの地域で既に作戦上の拠点を設置したことで、シリアとイラクの外へと焦点を移せば、たとえ一時的にせよ、ISは両国内で結束し、有志国連合の監視システムから逃れることができる。

有志国連合がこれに対応することには多大な努力が必要になる。寄せ集めの連合軍は、膨大な量の軍事リソースを他の戦闘地域に移動しなければならなくなる。米国とその同盟国は、この多大の出費と労力を嫌がるだろう。

これらの変化、つまり攻撃の海外シフトや他地域での拠点作りは、どちらもISの死を予兆するものではなく、有志連合にとって朗報でもない。

米国とその同盟国にとって重要なことは、中東の紛争地域での現状に過度に満足をしないことだ。成功を収めた対ゲリラ戦の手法も、いったん導入されてしまえば、広く行き渡らせるために、平均して4年半近くは維持されなくてはならない。

ISのような組織との戦いでは、それは永久に続くように思えてしまうかもしれない。

*筆者のChad C. Serenaは政治学者。もう一人のColin P. Clarkeは非営利・無党派のランド・コーポレーションに所属する政治学者。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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