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特別リポート:米大学の入試担当者狙う、中国接待ツアーの裏側
2016年12月10日 / 23:13 / 10ヶ月前

特別リポート:米大学の入試担当者狙う、中国接待ツアーの裏側

[上海/シェルターアイランド(ニューヨーク) 2日 ロイター] - トーマス・ベンソン氏は、かつてバーモント州で一般教養教育専門の小規模な大学を経営していた。スティーブン・ゲスナー氏は、ニューヨークのシェルターアイランド島の教育委員長を務めていた。

 12月2日、中国人学生の米大学受験を支援するサービスはすでに一大産業となっており、同サービスを提供する企業は、時には共通試験での不正行為の支援や大学出願書類の偽造なども含むサービスの対価として、高額の料金を請求することが多い。写真は、そうした企業の1つ、新東方教育科技の本社。北京で11月撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)

近年、ベンソン、ゲスナー両氏は競争優位を追求する中国の教育関連企業向けのビジネスを開始した。彼らの学生たちが米国のトップ大学の入試担当者に直接連絡を取れるようにするためだ。

過去7年間、両氏は中国の大手企業3社に対しコンサルティングを行ってきた。米大学の入試担当者数十人を集めて、中国で各社の顧客となる学生たちと直接会う機会を設けた。旅費の大半は企業側が負担した。参加した大学には、コーネル大学、シカゴ大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレイ校などが含まれていた。

両氏が代理人を務める企業2社、すなわち新東方教育科技(ニューオリエンタル・エデュケーション・アンド・テクノロジー)(EDU.N)とディポン・エジュケーション・マネジメント・グループが学生たちに提供しているサービスは、諸大学の入試担当者との交流をはるかに超えた領域に及んでいる。

新東方の現旧従業員8人とディポンの元従業員17名がロイターに語ったところによれば、両社は出願用論文の代筆、教師による推薦状や高校の成績証明書偽造など、大学受験をめぐる詐欺行為に荷担していたという。

新東方の従業員によれば、顧客である学生の大半は、自分で論文や履歴書を書くための語学力に欠けるため、カウンセラーが代筆しているという。自筆で出願するのはトップクラスの学生だけだ。新東方、ディポン両社は、受験詐欺の黙認や故意の関与を否認している。

ベンソン、ゲスナー両氏は、ディポンで開拓したモデルに立脚して、新東方が顧客学生を米大学の入試担当者に引き合わせる計画を支援した。中国人学生に評判の高い米国教育を提供するという急成長ビジネスにおいて、大学の入試担当者はカギとなるプレイヤーなのである。

北京に本社を置く新東方は巨大企業である。1993年に設立された同社は、中国最大の民間教育サービス事業者であり、年間200万人以上の中国人学生にサービスを提供している。ニューヨーク証券取引所に株式を上場しており、受験準備や英語講座などを含むプログラムによる純収益は年間約15億ドルに達する。今年米国の大学や大学院に入学した同社の顧客は約1万名である。

米大学の入試担当者の信頼を獲得することは、このビジネスモデルの重要な一部である。新東方のカウンセリング部門、北京ニューオリエンタル・ビジョン・オーバーシーズ・コンサルタンシー社は、中国各地にセンターを設け、カウンセラー、職員合計3300人を擁している。学校を推薦して申込み準備をすることで、学生たちに通常、1450ドルから7300ドルを請求している。

<代筆や偽造支援も>

ロイターが検証した新東方と学生の契約によれば、同社のサービスには、大学への出願書類の一部に関する「執筆又は仕上げ」が含まれている。契約によれば、新東方は大学との通信に用いる顧客学生名義の電子メールアカウントを設定し、パスワードの管理権は同社が独占する。

複数の元従業員によれば、学生のなかには、出願書類をまったく目にしない者さえいるという。新東方が大学への送付も含めてすべてのプロセスを管理するからだ。

中国教育関連企業のビジネス手法に新たな変化がみられる一方で、米国の大学は、中国出身の学部学生への依存を強めつつある。彼らは学費を満額払ってくれる傾向があるからだ。国際教育研究所によれば、その数は9%増加して、2015/16年度には13万5629人に達しており、海外出身の学部学生全体の3分の1近くを占める。

中国人学生の米大学受験を支援するサービスはすでに一大産業となっており、中国では商機を狙う企業が数百社も生まれている。これらの企業は、時には共通試験での不正行為の支援や大学出願書類の偽造なども含むサービスの対価として、高額の料金を請求することが多い。

出願書類の代筆は中国ではよく見られることであり、関係者のなかにはそのサービスについて公言している者もいる。

新東方の元従業員のデビッド・シーさんは、「新東方で働いていた頃、学生のために論文や推薦状を書いていた。今も自分が経営するコンサルタント会社のために同じことをやっている」とロイターに語った。「倫理的なジレンマはあるが、それがこの業界の特性だ」

新東方、ディポン訪問ツアーに参加した米大学の多くは、中国企業から旅費を受け取ることには問題はないと語る一方で、詐欺行為に対する告発については知らなかったと言明。学生への特別待遇はなかったと説明する。一部の大学は、こうした旅費の援助を受けるツアーへの参加を中止したか、中止する予定だと述べている。

ベンソン氏は、詐欺行為の告発に対する声明のなかで次のように述べている。「受験カウンセリングの世界においては、中国・米国の双方で、悪質な関係者や悪質な行為がたくさん見られる。中国訪問するたびに、私たちは入試プロセスにおいて最高水準の正直さが必要だと強く提唱してきた。私たちと、そして私たちとともに中国を訪問した人々が、この水準を保っていることを確信している」

新東方も自身のコンサルティング部門は、教育に対する長期のコミットメントへの誇りと、高い水準を持っていると述べている。

76歳のベンソン氏は北京語を話し、かつて米バーモント州ポルトニーにあるグリーンマウンテン・カレッジの総長を務めていた。生涯にわたって中国に魅了されていたと自ら語っている。

大学時代のルームメイトが中国人であり、1980年代にはメリーランド大学教授として、中国において春学期の講座を担当したこともある。また同氏は、約170の大学によるアジア研究推進のためのコンソーシアム、アジアネットワークの共同創立者でもある。

「中国は、私の血のなかに、家族の歴史のなかに常に存在した」と彼は言う。

ベンソン氏によれば、現在72歳のゲスナー氏に初めて会ったのは8年ほど前だという。当時、ゲスナー氏は上海を拠点とするディポンのコンサルタントを務めていた。ディポンは中国の高校で国際化プログラムを運営し、学生1人あたり3万2000ドル以上という高額の大学受験カウンセリングサービスを提供していた。

<信用の確立>

ディポンの幹部は、より多くの学生が米国で学べるよう、まずゲスナー氏と、次いでベンソン氏と契約し、指導カウンセラーの訓練と交換留学生プログラム策定を支援してもらうことにしたと語った。

2009年から、ゲスナー、ベンソン両氏は、米大学の入試担当者向けのツアーとサマーキャンプを開始した。中国でディポンの顧客学生に会い、大学への出願についてアドバイスを提供することが目的だ。ベンソン氏によれば、彼とゲスナー氏は、中等・高等教育の人脈を通じて参加大学を募ったという。

彼らは大学からの信用を確立するため、ニューヨークを拠点とする非営利団体「米国文化教育評議会(CACE)」を設立したと語る。

「コンサルタントとして働くための、より世間体のいい方法だ。これで大学を集めやすくなった」とゲスナー氏は言う。

 12月2日、中国人学生の米大学受験を支援するサービスはすでに一大産業となっており、同サービスを提供する企業は、時には共通試験での不正行為の支援や大学出願書類の偽造なども含むサービスの対価として、高額の料金を請求することが多い。写真は、そうした企業の1つ、新東方教育科技のカウンセリング部門、北京ニューオリエンタル・ビジョン・オーバーシーズ・コンサルタンシー社のロゴ。北京で11月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

この戦略が当たった。早くから、コーネル、スタンフォード、スワースモアカレッジ、エモリー、ミシガン大学アナーバー校などの入試担当者が参加してくれたのである。

ロイターが10月報じたように、CACEが連邦税及びニューヨーク州税の納税申告においてディポンとの取引関係を開示しなかったことについて、ニューヨーク州検事総長事務局はCACEの調査を予定している。この調査でCACEがニューヨーク州法に違反していたという証拠を当局が見つければ、正式の捜査に繋がる可能性もある。

また、ディポン元従業員8人は、学生名義での論文代筆や推薦状の改ざんといった大学出願詐欺に同社がどのように関与していたかの詳細を明らかにしている。その後、ロイターは新たに9名のディポン元従業員に取材したが、やはり同様の説明を得ている。

ディポンは声明のなかで次のように述べている。「弊社の法的・倫理的基準が従業員によって遵守されていない状況を示す信頼できる証拠があれば、ただちに徹底的に調査し、過失があったことが分かれば適切な措置を取る」

ベンソン、ガスナー両氏によれば、彼らは2012年に新東方とコンサルタント契約を結び、CACEの支配権をディポンに譲渡した。

ベンソン氏は、新東方における金銭面の取り決めは、ディポンの「ほぼ丸写し」だったと表現する。ツアーを1回実施するたびに、彼ら2人の米国人は5万ドルを受け取る。また彼らは、新たにニューヨークを拠点とする非営利団体「国際文化教育評議会」(CICE)を設立。ベンソン氏によれば、新東方はCICEに関して何ら支配権を有していないという。

2人はディポン向けのキャンプに参加していた大学の多くを集め、ハバーフォードカレッジ、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、フロリダ大学などの新たな参加者も追加した。新東方は、中国のさまざまな都市を訪れるツアーの旅費を肩代わりしている。

<直接交流のコスト>

新東方向けのツアーに参加する米大学を集めるため、ベンソンとガスナー両氏は、ディポン向けに完成させた戦略を踏襲した。ディポンも新東方も、2009年から昨年にかけて両氏が中国に連れてきた入試担当者の航空運賃、ホテル料金などの旅費を負担した。「旅費が出なければ、彼らは中国に行こうとはしなかっただろう」とベンソン氏は言う。

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大学の入試担当者の倫理規定には、こうした待遇の妥当性については定められていない。ペンシルバニア州ワインウッドの高校でカウンセラーを務め、現在は引退しているサイガス・バンニ氏は、大学が金銭を受け取ることは「絶対的に」倫理違反だという。

同氏によれば、これは志願する中国人学生が特別待遇を受けるような買収工作に似たようなものだという。米国のエリート大学(出願倍率が5─20倍にも達する場合がある)を受験する国内志願者の多くは、入試担当者と直接交流することなどない。

「彼ら(中国人志願者)を、他の誰もやっていないような形で、大学の入試担当者に直接接触させていることになる」と全米大学入試カウンセリング協会の入試実務委員会にも参加しているバン二氏は指摘する。「それに対して、何らかの見返りが期待されているのだ」

新東方は、こうした接触機会によるメリットを顧客に売り込んでいる。同社のウェブサイト上に掲載された販促資料によれば、2014年に行われたツアーの際に、顧客学生が「カールトン・カレッジの入試担当者と親しく接する機会が得られるよう」便宜を図った様子を説明している。

その資料説明の最後には、この若い女子学生がカールトン・カレッジから入学許可の通知を受けたと記している。

ミネソタ州ノースフィールドにあるカールトン・カレッジの入試担当者は、2013年、2014年、2015年に新東方が資金提供するツアーに参加し、ディポンが資金提供するサマーキャンプにも6回参加している。同カレッジの副総長で入試事務局長であるポール・ティブトット氏は、新東方の宣伝については承知していないと語る。

彼は、同カレッジがこうしたプログラムへの関与を考え直しており、「今後は参加しない可能性が非常に高い」とメールで述べた。

<「本当にやりきれない」>

新東方の現従業員は以前、ある学生のために高校の成績証明書を丸ごと偽造したことがあると話している。また、2014年と2015年に勤務していた元従業員は、同社の大学出願プロセスを工場の組立ラインになぞらえる。1人が親とのサービス契約の署名を担当し、もう1人が大学一覧を作成、3人目が出願書類を記入し、4人目がそれを各大学に送付する、と。

アラン・リーさんは2012年と2013年に上海で出願業務を担当した。彼は出願者の履歴書を書き、学生が自分自身について書いた推薦状を編集した。学生が記入したアンケートを元にした論文の題材を使うこともあったが、必要に応じてストーリーを創作することもあったという。

リーさんによれば、当初は「本当にやりきれない」思いを抱いたが、最終的には「文章が恐ろしく下手な」善良な学生にもチャンスが与えられていい、と割り切ったという。

今年初めまでにベンソン、ゲスナー両氏は新東方に対する仕事をやめており、インド、スリランカ、アフリカなど新たな市場に集中しているという。

だが、2人は中国を捨てたわけではない。CICEは別の中国企業EICグループのために6月、米国の7大学の入試担当者を対象としたツアーを実施した。

ベンソン氏は3月にフロリダ大学の入試担当者に宛てたメールで、「2016年夏の中国ツアーに向けた招待状の発送が遅れているのは、主にわれわれ(CICE)が新東方から新たな中国パートナーに乗り換えたため」と説明している。「大規模で、はるかに革新的な中国企業であるEICから、全寮制の寄宿学校、大学、大学院を対象とした一連の夏季ツアーに向けて手を組まないかという誘いを受けた」

このツアーに参加したのは、フロリダ大学の他、コロラド・カレッジ、コーネル大学、マカリスター・カレッジ、スミス・カレッジ、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ロチェスター大学だった。

ベンソン氏によれば、EICグループはCICEに3万5000ドルを支払い、ウェブサイト上に「入試担当者とおしゃべりしてアイデアをやり取りすれば、有名校への出願は半分成功したも同然」と中国語で書かれた広告を掲載してツアーを宣伝した。ロイターが問い合わせた後、この広告はサイト上から削除されてしまった。

EICの広報担当者は、これらのイベントは誰もが参加可能で、中国人学生の出願状況を改善する狙いだと語る。広告についての質問には答えなかった。

ベンソン氏は、その広告を見ていないと言う。「ひどいね、まったく。やれやれだ」

(翻訳:エァクレーレン)

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