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コラム:ベルギー攻撃、中枢狙われた欧州の「脆弱性」露呈
2016年3月26日 / 22:02 / 2年前

コラム:ベルギー攻撃、中枢狙われた欧州の「脆弱性」露呈

 3月24日、多くの欧州市民は、ベルギーの首都ブリュッセルで22日に発生した同時攻撃を、欧州全体への攻撃と受け止めた。写真は容疑者の捜索に当たる警察官。ブリュッセルのスカールベーク地区で25日撮影(2016年 ロイター/Vincent Kessler)

[24日 ロイター] - 多くの欧州市民は、ベルギーの首都ブリュッセルで22日に発生した同時攻撃を、欧州全体への攻撃と受け止めた。ブリュッセルは長い間、欧州連合(EU)と同一視され、今回の事件で標的の1つとなったのは、EU本部に近い地下鉄の駅だった。

フランスのオランド大統領は「欧州全体が攻撃された」と語り、独週刊誌シュピーゲルは「テロがEU中枢を直撃」と題した記事を掲載した。

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欧州全体が攻撃を受けたとすれば、1つの欧州としてそれに対応できるのだろうか。

その答えは「ノー」だと、ジョン・コーンブルム元駐ドイツ米国大使は言う。「欧州は機能不全だ。国境警備の強化だけでなく、安全保障戦略が策定されることになる。今までは、欧州であることは他の誰よりも平和であることを意味していた」

1970年代から欧米外交に携わるコーンブルム氏はいら立ちを隠さない。EU域内の法執行や安全保障上の協力が、政治的・経済的統合にはるかに後れを取っていることは、欧州自身が誰よりも分かっている。

ベルギー同時攻撃

ベルギー同時攻撃

全てのテロ容疑者や、過激派「イスラム国」(IS)のような組織に参加した欧州市民の名前を網羅した共通のデータベースがまだ存在しないと、英ロンドン大学キングス・カレッジの安全保障専門家、ピーター・ニューマン教授は22日夜の独テレビ番組で指摘している。

──関連記事:コラム:ベルギー攻撃、ISが「パニック」に陥った兆候か

同教授は「誰もが他から情報を求めているが、誰も共有したがらない。皆が協力を求めているが、それに応じる人は誰もいない。欧州で移動の自由を存続させたいなら、治安当局間のスムーズな連携を確保する必要がある」との見方を示した。

ギリシャ債務危機がユーロ圏の力不足、すなわち欧州全体としての財政政策の欠如を露呈したように、パリとブリュッセルでそれぞれ起きた同時攻撃は、国境なき移動の欠陥をあらわにした。

EU域内の自由な移動を認めるシェンゲン協定に、欧州26カ国が署名している。テロリストや不法移民に同協定が巧みに利用されるかもしれないという考えは、見識ある戦後欧州のイメージにはそぐわなかった。しかし現在、EUが対外国境をほとんどコントロールできていないということを、難民危機は示している。

 

EU域内の「難民割り当て」計画

EU域内の「難民割り当て」計画

互いをライバル視する地方・国家の法執行機関を支配するルールも、また一様でないことが、ブリュッセル同時攻撃への協調的対応を複雑なものとしている。また、国内の治安と国外の防衛という分野に分かれていた従来の安全保障が、国際的なテロネットワークによって垣根がなくなりつつあるという別の課題もある。

これまで欧州のテロと言えば、スペインの反政府組織「バスク祖国と自由(ETA)」や、英国のカトリック系過激派組織「アイルランド共和軍(IRA)」のようなグループがもたらす国家への脅威という観点から主に見られていた。だが、国際武装組織アルカイダやISの台頭がそのような見方を劇的に変えたと、パリのシンクタンク「Center for Study and Research on Political Decision」の代表、ニコラス・テンザー氏は指摘する。

 

活動領域を拡大するIS

活動領域を拡大するIS

テンザー氏は、欧州が一丸となってブリュッセル同時攻撃に対応する可能性は低いが、英仏独蘭を含む主要国は恐らく協力を強化するとみている。ただし、情報交換と捜査遂行上の協力は区別することが重要だと同氏は指摘する。

「警察同士の一時的な協力はすでに可能だが、戦場でのような大規模な作戦で多くの国が協力するのは困難かもしれない」とテンザー氏は語っている。

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国際的なテロと戦うなかで欧州が抱えるジレンマの最たるものは、共有された外交政策、あるいは共通通貨に関する問題だろう。EU団結のために主権をさらに犠牲にしようとは思っていない。欧州の戦術策定能力の欠如や、高まる米国の孤立主義がそれに追い打ちをかけており、欧州は脆弱(ぜいじゃく)に見えつつある。

「欧州にとっては非常に危険なことだ。なぜなら、欧州には米国が必要だからだ」と語るのは、前述のコーンブルム元駐ドイツ米国大使だ。欧州は少なくとも10年間、安全保障上の利益を無視してきたと指摘する。

オバマ米大統領はアトランティック誌との最近のインタビューで、安全保障を米国に依存し、「ただ乗り」しているとして、欧州諸国を批判した。米大統領選の共和党候補指名争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏も、米国防総省がドイツのような富裕国を守るために数十億ドルもの予算を費やしていることに疑問を呈した。

米国が、欧州の安全保障に決定的に重要な役割を果たしていることは明らかだ。情報収集においてだけでなく、世界各地で軍事攻撃を遂行できる能力という点において重要である。

「EU加盟国が協調し、より優れた捜査を行うことが、解決策の1つであることは間違いないが、もう1つはシリア問題に対処することだ」と、米トランスアトランティック・アカデミーのシニアフェロー、ウルリヒ・スペック氏は指摘。「欧州の周辺で起きているあのように壊滅的な戦争を放置するのであれば、安心して暮らすことなどできない」と語った。

シリア内戦は現在の難民危機が起きている主な原因であり、欧州で過激派の信奉者を生む温床と言える。にもかかわらず、EUは中東により深く関与する意思も手段も示さない。

「ドイツとフランスは共に、英国と密接に連携して率先して行動を起こすべきだが、今のところ、米国が動くのをただ待っている」とスペック氏はみている。「米国は本格的にリソースをつぎ込むことはしないだろうし、波及効果を感じるには地理的に遠すぎる」と同氏は述べた。

欧州がテロに対し断固たる対応を示せないことは、EUだけでなく、欧米の戦後同盟関係にもリスクとなっている。

「EUの機関だけが問題となっているわけではない。制度に対する信用も問われている」と指摘するのは、ドイツ連邦議会外交委員会のメンバーであるローデリヒ・キーゼベッター議員だ。これは精神的な問題でもあると、同議員は付け加えた。

キーゼベッター議員はまた、EU内に存在する遠心力を考えると、テロ攻撃に対する効果的なEUの対応が見られなければ、市民たちはますます信頼しなくなり、多くが過激思想を掲げる政党を支持するようになる可能性があると語った。さらには、もし米国が自国の問題に専心するのであれば、欧州の一部の勢力はロシアに近づくかもしれない。

汎(はん)大西洋主義者にとっては、欧州の対応は自動的に米国のそれを意味するのだ。

*筆者は1996年以降、ドイツや東欧、旧ソ連諸国からリポートを続け、コソボやアフガニスタン、ジョージアやウクライナの紛争を取材。現在、ベルリンに拠点を置く。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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