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コラム:欧州にまん延する「国民投票恐怖症」
2016年10月2日 / 00:42 / 1年前

コラム:欧州にまん延する「国民投票恐怖症」

 9月28日、EUについて語られる語彙には、すでに聞き苦しい言葉やフレーズがあふれているが、新たに「国民投票恐怖症」という造語をそのなかに加える必要があるだろう。写真は、英国のEU離脱が決まった先の国民投票の結果に反対するデモに参加する人たち。ロンドンで3日撮影(201年 ロイター/Luke MacGregor)

[28日 ロイター] - 欧州連合(EU)について語られる語彙(ごい)には、すでに聞き苦しい言葉やフレーズがあふれているが、新たに「国民投票恐怖症」という造語をそのなかに加える必要があるだろう。

一部の不安とは違い、国民投票への恐怖心には十分根拠がある。英国でEU離脱の是非を問う国民投票(ブレグジット)が6月に実施されたのに続き、この秋以降にハンガリーが移民問題で、イタリアが憲法改正をめぐり国民投票を予定している。

これら国民投票が、EUをさらに不安定化する可能性がある。さらに根本的なことを言えば、国民投票は、ブレグジットのような動きを阻止するのに必要とされる改革をまさに除外してしまうことになる。

国民投票のせいで、EUは北方のみならず、欧州中心部での拡大を阻まれている。直接民主制を標榜(ひょうぼう)するスイスは、EU加盟をめぐり、過去2回国民投票を実施している。その両方において加盟は可決されなかった。EU加盟への第一歩になることを恐れてか、1992年には欧州経済地域(EEA)への加盟も僅差で否決された。

その結果、スイス国民の生活が必ずしも楽になったわけではなかった。スイス政府は120に及ぶ二国間協定について交渉をしなくてはならなくなった。加盟した場合と比べ、単一市場へのアクセスは悪く、EU市民の自由な移動は認めているものの、移民数制限の是非を問う2014年の国民投票で賛成票が上回ったことで、この取り決めさえ危うくなっている。

国民投票はまた、ユーロ圏拡大の足かせにもなっている。不釣り合いな南欧の経済国がユーロ圏最初の加盟国として名を連ねた一方、困難に対し自国で対処可能な北欧2国は国民投票の結果、支持を得られず加盟することがかなわなかった。

デンマークはユーロ圏に加盟しなくてもよいとするオプトアウト(適用除外)の権利を有するが、同国政府は2000年にユーロ圏加盟の是非を問う国民投票を実施。結果は否決された。同様の国民投票が2003年にスウェーデンでも行われており、否決されている。以降、スウェーデンは非公式のオプトアウトを享受している。

EUと国民投票との関係が一段と険悪さを増しているのは、単なる偶然ではない。1972年以降、EU関連の国民投票は55回実施されている。そのうち46回は1992年以降に行われている。

1990年代初めには12カ国だったEU加盟国の数が2013年までに28カ国へと増えるなか、EUの統合ペースが加速するのに呼応するように、各国政府は国民投票の実施を求めるようになっていく。スイスが最も多く実施しており、その数は計8回に上る。この習慣は広がっており、EU加盟国28カ国のうち、国民投票を実施していないのはドイツを筆頭にベルギー、ブルガリア、キプロス、ポルトガルのわずか5カ国だけである。

たいていの場合、国民投票は加盟をめぐって実施されることが多いが、EU加盟国間の関係を支配する条約の重大な変更について行われることもある。アイルランドの有権者は、EUが「ノー」という返事を受け入れないことを思い知らされた。同国は2度、EU基本条約(リスボン条約)の批准をめぐり国民投票を実施。1度目は否決されたが、いくつか小さな譲歩によって促され、2度目の投票で可決した。

しかしプレッシャーは小国には有効かもしれないが、もっと影響力のある国に対しては利かない。2005年には欧州憲法条約の批准をめぐり、フランスとオランダで相次いで国民投票が行われたが否決された。ただし、その計画の大要は2007年のリスボン条約に受け継がれている。EU設立国6カ国のうち仏蘭2カ国が欧州の統合を拒否したことは、2010年初めに発生したユーロ危機に対して抜本的な対応策を講じることの妨げとなった。

さらなる国民投票を警戒してか、メルケル独首相をはじめとするユーロ圏の指導者たちは、根本的な条約変更を必要とする改革を故意に回避。リスボン条約に小さな変更を加えることにより、ユーロ圏の金融安全網である「欧州安定メカニズム(ESM)」創設の法的課題を未然に防いだ。とはいえ、ESMはEUの法律というより国際法にのっとり創設された。既存の条約にとらわれ、ユーロ圏の不安定な基盤をてこ入れするための制度改革はそれ自体がその場しのぎのものだった。

さらに悪いことに、欧州のリーダーたちはもはやEU関連の国民投票だけを恐れているわけではない。とりわけ、12月に予定されている憲法改正の是非を問うイタリアの国民投票を懸念している。上院が不信任投票を通じて政権を転覆できないよう権限を弱める憲法改正案が支持されなければ、レンツィ首相は辞任すると公言しているためだ。銀行の不良債権問題ですでに揺れているユーロ圏3位の経済大国イタリアでは、レンツィ首相がもし退陣すれば政治不安が起きるだろう。

「国民投票恐怖症」はEUをマヒ状態に陥らせる恐れがある。ありがたくないことに、これは1980年代初めの欧州プロジェクトに見られた病的な症状と似ている。当時、EU理事会で決定されたことが加盟各国で相次ぎ否決されたため、いわゆる「ユーロスクレローシス(欧州硬化症)」と呼ばれる経済停滞に対処することができなかった。

こう着状態が打開されたのは1986年、単一市場の成立を可能にする単一欧州議定書が満場一致で調印されてからだ。現在、条約の修正には障害がある。それを取り除かない限り、EUはブレグジット以上の問題に直面することになるかもしれない。

*筆者はエコノミスト誌の元欧州経済担当エディター。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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