Reuters logo
コラム:トランプショック鮮度劣化で円安再開か=植野大作氏
2017年5月29日 / 05:44 / 4ヶ月前

コラム:トランプショック鮮度劣化で円安再開か=植野大作氏

[東京 29日] - 惜春の季節を迎え、ドル円相場は明確な方向感を見いだしにくい展開になっている。5月初旬に仏大統領選挙絡みの不透明感から解放された後、中旬には一時114円台に浮上する場面もあったが、その後に台頭した米トランプ政権のロシア疑惑が重しとなり反落、下旬には一時110円台前半まで押し戻された。

ただ、6月13―14日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では「年内2度目の利上げ」が実施される可能性が高く、「保有資産の縮減計画」に関する議論も進展しそうだ。「米金融政策の正常化観測」がドルの下値を支える構図は依然、崩れていない。

こうした環境下、ドル円市場関係者は最近、「トランプ大統領の顔が思い浮かぶと上値追いの気力がなえる一方、イエレン連邦準備理事会(FRB)議長の顔を脳裏に描くと下値深掘りの気持ちも失せる」という心理状態に陥っている。

今後、どちらの方向に均衡が崩れていくのだろうか。以下、現時点での筆者の見解を記しておく。

<目先は円高ショックが走る可能性も>

まず目先の相場展開については、「上値の重さ」が勝りそうだ。米司法当局が進めるトランプ陣営に対するロシア疑惑への捜査は始まったばかりであり、米系メディアのスクープ合戦も激しさを増している。この先、日時不定でどんな続報が飛び込んでくるのか全く予測がつかない。市場はそのような不透明感を著しく嫌悪する。

この際、トランプ大統領が潔く辞任するなら、後任の大統領は順当なら継承資格1位のペンス副大統領か2位のライアン下院議長になる。かつては米議会で下院予算委員長を務めた経験もあるペンス氏や現職下院議長のライアン氏が大統領に昇格すれば、「米財政協議は今より円滑に進みそうだ」との期待が働く。トランプ大統領の辞任を市場はむしろ好感、「ペンス・ラリー」や「ライアン・ラリー」の可能性もあるだろう。

だが、最近のトランプ大統領の言動から推して、その可能性は極めて低い。この先、米司法当局の捜査がさらに進み、トランプ政権の支持率が一段と落ち込む「不都合な事実」が発覚した場合、「政治的な求心力を失ったトランプ政権に税制改革やインフラ整備の早期推進を期待するのは無理だ」との見方が強まるだろう。

加えて、国内スキャンダルで支持率を落とした政治家は、「戦うべき敵を外に作る」ために突飛な行動に出ることがよくある。万が一、トランプ大統領が北朝鮮に対する唐突な爆撃を命じたり、日本を含めた貿易赤字相手国の通商・通貨政策への批判を強めたりした場合、一時的には「リスクオフの円高ショック」が走る可能性もあるだろう。

こうした状況下、当面は本邦在住のドル円ファンの間に「リスクオンの円安気運」が広がることは期待しにくい。しばらくの間、上値が重く、下値の柔らかい地合いが続きそうだ。もしも節目の1ドル=110円を割り込んだなら、さらに数円程度の余地で円高が進む可能性はあるだろう。

ただし、仮に目先110円を割り込んだ場合でも、定着する水準だとは思えない。今年度のドル円相場について、筆者は依然、「買いたい弱気」の立場を堅持している。110円割れのレベルを見たならば、むしろ買い下がりで臨みたい。理由を3つ挙げておく。

<トランプ政策混乱でも米経済は堅調>

第1に、過去のドル円相場の値動きを調べてみると、「地政学リスクの台頭」や「米政権の口先介入」による円高ショックは、ファンダメンタルズが示すトレンドと合致している時には「泣き面に蜂」となってドル安・円高を加速させるが、逆の場合はすぐに解消されるので、後から見ると「押し目買いの好機」を提供していたことが多い。

実際、米軍は1980年代以降に海外での軍事作戦を主なものだけで25回実施しているが、6週間後のドル円相場の水準を調べてみるとドル高14回、ドル安11回とマチマチの結果になっている。一方、北朝鮮は今世紀に入って5回の核実験と数百発のミサイル発射を実施しているが、その最中にあって長期間にわたって何割もドル高・円安が進んだり、韓国ウォン高・円安が進んでいた時期は普通に見つけることができる。

この先、トランプ政権が日米通商交渉を有利に進める手段として口先介入による「円高カード」を切ってくる可能性はあるが、近年の外国為替市場における出来高の膨張や参加者の多様性を考慮すると、日米両国でどんな要職にある人物でも、口先介入の神通力だけでドル円相場のトレンドを意のままに操るのは恐らく無理な時代になっている。

第2に、衆目に明らかな日米金融政策の印象格差が今後一層鮮明になると予想される中、ファンダメンタルズ由来のトレンドはまだドル高・円安と見るのが妥当だろう。まず米国では、いわゆる「トランプノミクス」への期待が急速になえる中でも経済指標は雇用関連を中心に比較的堅調に推移、FOMC参加者の間に「一刻も早くトランプ財政の発動を仰がなければ、ただちに失速する」との危機感が共有されている様子はない。

現在、主要通貨圏では米国だけで利上げが進んでおり、膨張した保有資産の縮小計画の策定も始まっている。トランプ政権の迷走による政府ガバナンスの著しい低下は、政治的には大問題だか、それが米国の企業業績やマクロ景気に響いてこない限り、「材料」としての新鮮味が落ちてくると株式市場や為替市場での注目度は低下していくだろう。

一方、米政局の混迷と無関係に米国で淡々と金融政策の正常化が進んでいくなら、それを「事前に予想していた」としても避けることができないリアルな影響がドル資金の短期調達コストやドル建て短期債の運用利回りに波及していく。国内外の投機家や投資家の為替売買行動には軽視できないインパクトが及ぶはずだ。

<「トレンド判定の師」は底入れ示唆>

翻って日本の金融政策に目を転じると、異次元緩和の開始から4年が過ぎても「物価目標2%」の達成が全く視野に入っていない。異例の超低金利政策はこの先も長期化する可能性が極めて高い。

日銀の金融政策運営に対して市場では賛否両論分かれているが、為替予想生活を営む筆者は「日本中の金融機関や投資家がまともな金利を円で稼げる機会からずっと隔離され続けている」という現実を重視している。日銀が現在の超低金利政策を続けていれば、米金融政策の正常化とともにドル高・円安圧力が噴出してくる時期が早晩やってくるだろう。

第3に、テクニカル的に見ると、5月に入って筆者がドル円相場の「トレンド判定の師」として仰ぐ52週移動平均線が底入れし始めている。過去、ドル円相場は長期トレンドの向きが変わるとしばらくの間は慣性の法則が働きやすく、「見た目の印象」が変わるにつれ、市場の「材料選択」や「材料解釈」が変化して徐々に地合いが変わることも多い。

現在はまさにそうした潮目の変化が定着するか否かの正念場の局面にある。今後の米国経済が金融政策の正常化を正当化できる程度の回復力を維持できるなら、ファンダメンタルズとテクニカルの合わせ技一本が見事に決まってドル高・円安基調が鮮明になる時期が来るだろう。

その際に想定すべきドル円の上値めどをピッタリ当て切る自信はないが、ひとまずは心理的節目の115円や、昨年末高値の118円台を意識している。これらを抜いた場合はその時点での市場環境やチャート・フェイスなどを踏まえ、120円前後の攻防まで踏み込むか否かを検討したいと考えている。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below