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コラム:深手負ったドル円、底入れは年末か=植野大作氏
2016年3月1日 / 02:05 / 2年前

コラム:深手負ったドル円、底入れは年末か=植野大作氏

[東京 1日] - 早春の為替市場でドル円相場のトレンドが明確な下降局面に転じる兆しが現れた。昨年は1年もかけて10.0円の幅でしか動かなかったが、1月末から2月上旬にかけてわずか9営業日で10.7円も暴落、一時110.99円まで差し込んだからだ。

短期的にはさすがに売られ過ぎの感も強いため、この先どこかで5円程度の自律反発が生じる可能性はある。だが、多くのドル円ファンが、すう勢判断の際に重視している52週移動平均線は2月中旬を境に下向きに転じており、再び右肩上がりの傾向に復帰するためには、今すぐ120円台以上の水準に復帰した上で、6月初旬にかけては125円超の空中戦を再開しなければならない。

現在のドル円相場からみると相当に高いハードルだ。この先、ごく短期間に一気呵成の失地回復を遂げない限り、「右肩下がりに転じた52週線が現値の上から覆いかぶさる」という構図が定着しそうだ。このタイミングでドル円相場のチャート上に刻まれた10円以上の「差し込み傷」はあまりにも大きく、テクニカル的には上昇トレンドへの早期復帰がほぼ絶望的となる深手を負ったと判断せざるを得ない。

<1ドル=105円前後までの「差し込み」も想定すべき>

事ここに至っては、年明け以降の原油安・株安局面で惹起された「リスク回避の円高圧力」が想定以上に強かったことを素直に認めて脱帽するほかない。

過去数十年間の経験則では、他の通貨ペアに比べて「トレンドフォロワー」の比率が高いと言われているドル円相場で長期の移動平均線がいったん下向きに変化すると、しばらくの間は国内外のボリュームプレイヤーの基本戦略が「戻り売り」優位になりがちだ。当面のドル円相場は「上値が重く、下値が柔らかくなりやすい」地合いに移行する可能性が高い。

その際、気になるのはドル円相場の調整が続く期間とその深さだ。過去8回観察されるドル安・円高局面では、短い場合でも1年弱から1年半程度は続いている。昨年6月高値の125.86円を起点にすると、短くみても今年6月から12月頃まで下値探査が続く可能性がある。古今東西、株も為替も強気相場が弱気相場に転換すると、ある程度の日柄をかけてそれまでの上昇局面で稼いだ「値上がり貯金」の何割かを吐き出さないと「売りたい弱気派」に達成感が広がらず、「買いたい弱気派」の間でも値頃感が刺激されにくい。

今回のドル円相場に当てはめると、震災の年の秋に記録した75円台のボトムから昨年6月に記録した125円台のピークに至るまで、44カ月間で貯めた「ドル高・円安の貯金」は50円超に達している。このうち、フィボナッチ分割で有名な38.2%を吐き出す場合は106円台、50%押しまでみるなら100円台が下値攻防の目処として意識されることになる。

実際にそこまでの下値探査が加速するかどうかは今後の市場環境次第だが、いわゆるオーバーシュートの領域に差し込む場合、保守的にみて105円前後までの差し込みがあるかもしれないとみておく方が無難だろう。

<日米金融政策の格差は健在、円買い投機の巻き戻しも>

ただし、ドル円相場を取り巻くファンダメンタルズに目を転じると、過去最長となる44カ月もの長きにわたってドル円相場を右肩上がりに誘ってきた「日米金融政策の方向格差」は、今のところ根本的には変化していない。

一部で意識されている米国景気腰折れ懸念が現実のものになった場合は、ドル安・円高局面が数年以上に及び、100円割れのリスクを無視できなくなる可能性もあるが、最近の米経済指標をみる限り、米連邦準備理事会(FRB)が利上げ計画の完全キャンセルや利下げに追い込まれるほど、景気回復の足腰が弱っているとは思えない。米景気が緩やかな回復軌道を維持している限り、いずれ「健全な利上げ期待」が復活する時期が来るだろう。

そのような状況下では、年明け以降の金融・為替市場を席巻している過度のリスク回避ムードも緩和している可能性が高く、現在は外部要因によって抑圧されている日本の異常な金融緩和の累積効果が解き放たれることになるだろう。

1月末に日銀がマイナス金利導入を発表した後、わずか3営業日後にドル円相場がそれ以前の水準に押し戻されたことをもって、「マイナス金利は効かない」「副作用の方が大き過ぎて逆にリスク回避相場を助長している」など、残念な評価が優勢になっているが、個人的には「クイックアンサー」を求めがちな市場によくある近視眼的な見解だと思っている。

あくまで私見だが、名目国内総生産(GDP)が約500兆円しかないこの国において、年率80兆円という無茶な勢いで量的緩和を推進しつつ、マイナス金利まで導入している現在の政策が今後もオープンエンドで続けられていく場合、将来的にみて通貨の価値に響かないとは想像しにくい。

外部の市場環境がリスク回避一辺倒に傾いている間は、日銀がどんなに頑張って金融緩和を進めても、外因性の円高圧力に押し潰されて通貨安効果が封印される状況が続きそうだ。だが、市場の一部でささやかれている米景気後退懸念が杞憂に終わり、過度のリスク回避ムードが緩和すれば、それまで抑圧されていた円安効果が時間差を伴って表面化してくる可能性が高いのではなかろうか。

為替需給についても、市場心理がリスク回避一色に染まっている間は、昨今のドル安・円高局面で猛威を振るっている短期筋の円買い投機が定着、足元で年率15兆円超のレベルにまで膨張している経常収支の黒字と併せた円高圧力に軍配が上がる状況が続きそうだが、米国で安定的な利上げ期待が復活すれば、ドル建て短期債務の膨張を伴って拡大している円買い投機は、いずれ反対売買を迫られる時期がくるだろう。

<ドル円は年末に底入れし、来春には反転上昇か>

日本の資本収支に目を転じると、昨年は国内企業による活発な海外企業買収による直接投資の純流出だけでも年率15兆円を突破。年金基金、生損保会社、投資信託などを通じた対外証券投資も、年率25兆円から30兆円近いペースにまで拡大している。投機筋の空中戦売買を除いた基礎収支の需給環境は、依然として経常収支黒字をはるかに上回る資本収支の流出超過が続いているのが実情だ。

日本企業の海外進出による対外直接投資は、人口減に伴う国内市場の縮小観測という構造要因に原因があるため、為替相場の短期変動の影響を受けにくく、最近のように海外での株安や円高が進んだ方が、海外企業の買収コストが安くなるので逆に出やすくなる。

国内投資家による対外証券投資についても、日銀によるマイナス金利導入の影響で、機関投資家や個人投資家の目からみて「円資産で買えるもの」を発掘する作業がどんどん難しくなっている。外部環境さえ落ち着けば、ドル円やクロス円相場の水準に反比例して、鬱屈していた外貨建て資産への投資意欲が解放される時期もやってきそうだ。

この先しばらく続くと想定されるドル円相場の循環的な下降局面において、日柄的な満足感やレベル的な達成感がある程度得られる調整が進み、日米両国の金融政策格差に対する市場の認識が筆者の想定通りになるならば、投機主導の円高圧力は次第に収束、円売り優位が続いている基礎収支の為替需給が再び表面化する局面もやがてくるはずだ。

現時点でその時期を断定するのは難しいが、恐らく年末年始には底入れし、来年の春頃から反転に向かうというパターンを想定している。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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