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コラム:米レパトリ減税で日本株高の現実味=木野内栄治氏
2016年11月29日 / 08:31 / 10ヶ月前

コラム:米レパトリ減税で日本株高の現実味=木野内栄治氏

[東京 29日] - 米国市場では、ドナルド・トランプ次期政権がとるであろう政策の先読みが始まった。小型株は法人減税案を好感し、グローバルな大型株は海外利益を米国内に還流(レパトリ)する際の税率を引き下げる案を好感し、債券市場は大型インフラ投資を嫌気している。

ただ、全てが成立するわけではない。当然ながら優先順位があるだろう。また、場合によっては保護主義が前面に出てくる懸念も残っている。

実際、ボラティリティー(VIX)指数やその先物の水準を見ると、現指数や期近物は急速に水準を切り下げ安心感が台頭しているが、来春以降の限月は開票前と同じかやや高くなっている。現指数の低下などを考慮すると、春以降に関しては警戒感が選挙前よりも増していると言える。よって、現在は、政策が春頃までははっきりしないだろうとの「割り切り相場」だ。

日経平均株価のチャート上の計測値は、まずは6月安値1万4864円から、7月21日の1万6938円までの上げ幅(2074円)の同幅上昇で1万9012円、春ごろまでを見れば2月・6月のダブルボトムの間の戻り高値1万7613円(4月25日)から、6月安値1万4864円への押し(2749円)の倍返しで2万0362円となろう。

まずは春までの「割り切り相場」と言っても、日本株は出遅れて底練りしていた分、大きな値幅がテクニカル分析上の計測値となる。

<レパトリ減税とインフラ投資の組み合わせ>

さて、トランプ政策の中にも優先順位があるだろうと先述したが、筆者が一番早く実現すると見ているのがレパトリ減税だ。

レパトリ減税は減税と言っても、米国の為政者から見ると、長年取りはぐれていた税収を確保できる措置だ。2005年に実施された際には、843の企業が利用し3620億ドルがレパトリされた。5.25%の税率だったので、2兆円程度の税収となった計算だ。

当時は5000億ドル規模の海外剰余金があったとされ、その約7割がレパトリしたことになる。現在は2兆5000億ドルの海外剰余金があり、10%の税率が提案されている。税率の違いを無視すれば一層大きな税収が期待できる。

ただし、同時に法人税が公約の15%へ引き下げられると、企業から見てレパトリ減税を利用しようとのインセンティブが小さくなる。当然、レパトリ減税での税収は多くを見込めない。よって、政策としてはレパトリ減税が先で法人減税が数年後回しとなる可能性が高いだろう。あるいはレパトリ減税は諦めて大幅な法人減税だけが実施されることになる二者択一だろう。

法人減税には手を付けずにレパトリ減税を実施すれば、最大20兆円水準の税収が上がるとの机上の数字を前提に、大きな予算を組むこともできよう。10年で1兆ドル(110兆円超)とまで行かなくとも、次回選挙を見据えた期間のインフラ支出を決めることもあり得るだろう。

一方、大幅な法人減税と大規模なインフラ投資の同時実施は、財政赤字を嫌がる議会共和党には受け入れられないだろう。結果、レパトリ減税と大規模なインフラ投資の抱き合わせか、大規模な法人減税の二者択一だと見られる。米国の財政年度は9月までなので、決算に穴をあける支出増加や法人減税は早期には実施できないだろう。

これに対して、レパトリ減税は税収アップなので、早々に決められる。レパトリ減税が春までに決着するようなら、トランプ政策は株式相場に総じてポジティブなインフラ投資・財政刺激策になると読むことができそうだ。レパトリ減税の有無だけをチェックしていれば良いことになる。

<日本にも大きな外需メリット>

レパトリ減税の影響は大きい。2005年に1年限りで実施された事例では、期間中に20円/ドルもの明確で大きなドル高となった。一方で、法案が成立した前年10月から制度開始の年初までで10円/ドルものドル安がいったん示現した。制度実施直前には企業がレパトリを先送りしたと見られる。市場への影響の大きさをうかがわせる。

また、資金の使途を設備投資に限定したために、減税適用のガイドラインが発表になった5月まで設備投資は逆に停滞した。確実に減税処置を受けたい資金が多かったのだろう。

日本でも2009年度から同様の制度が導入された。ただ、1年限りではなく恒久処置だったので、米国の事例のように2009年末に向けての駆け込み的な通貨高は見られなかった。それでも、事前のレパトリ先送りに伴う10円/ドル以上の通貨安や、制度開始直後から半年以上の通貨高加速などは米国の事例と同程度だ。

トランプ政権によるレパトリ減税がどういった内容であるかは定かではないが、これらの経験はトランプ政権で講じられる新しい制度に即して為替相場やマクロ統計がどのように影響されるかの示唆になろう。

総じて、20円/ドル程度ドル高となる大きな波動を示現すると思う。これだけでも日本株にも影響が大きいだろう。

さらに、トランプ政権がレパトリ減税と抱き合わせでインフラ投資を積極化させると、米国は高圧経済政策となる可能性がある。イエレン連邦準備理事会(FRB)議長も、「高圧経済政策が唯一の危機打開策となり得る」と語ったとロイターは報じている。

その場合、世界の中で日本が有望だ。1950年代の米国の高圧経済下では、低圧経済にあった西ドイツが外需メリットを最も受けたと分析されている。現代においては、長年デフレに苦しんだ日本こそが世界の高圧経済下での勝者だろう。

<協調財政出動なければ元安懸念再燃へ>

ただ、レパトリ減税が春までに決着しないと、抱き合わせとなるインフラ投資のめどが立たない。2017年の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)では、ブリスベン合意(行動計画)の加速とならず、2016年に合意された中国人民元切り下げ回避が反故(ほご)になる懸念が出てくる。

ちなみに、ブリスベン合意とは、G20全体の成長率を2018年までに2.1%引き上げる行動計画で、2014年11月にオーストラリア・ブリスベンで開催されたG20サミットでまとまったものだ。2016年2月のG20財務相・中央銀行総裁会議で、個別および集団的に、金融、財政、構造上のあらゆる政策手段を活用すると表明され、それとともに競争的な通貨切り下げを回避することが確認された。

筆者は、前年末に5年間で3050億ドルを支出する米陸上交通修繕法(FAST法)が成立したことで、G20でもこの政策総動員につながったと見る。また、世界が景気対策を実施するなら中国は人民元を切り下げないとの合意と受け取った。事実、世界の株式や商品市況はこの2月の底入れが多い。

ただし、表明された政策が実現して相乗効果が出たとしてもG20各国の国内総生産(GDP)合計は1.5%程度の押し上げにとどまると試算され、国際通貨基金(IMF)は財政措置の積み増しなど一段の成長促進策が必要だと訴えている。

2017年のG20は、財政刺激策に慎重なドイツが議長国で、例年より早く7月に開催される。トランプ新政権が、早々にインフラ投資の上積みを議会共和党と合意し、ドイツなどG20各国を説得しないと協調的な財政刺激策の上積みとはなりにくい。財政の上積みがなければ、人民元切り下げ不安が台頭する懸念もあろう。

春までのレパトリ減税の決着がかなり重要になると考えている。

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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