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コラム:株高・円安の命運握る米インフラ投資=木野内栄治氏
2017年3月8日 / 05:39 / 7ヶ月前

コラム:株高・円安の命運握る米インフラ投資=木野内栄治氏

[東京 8日] - トランプ米大統領は2月28日、連邦上下両院議員らを前に施政方針演説を行った。新味はないが、大統領らしく振る舞ったことで安心感があったと評価された。

確かに、翌日のNYダウは303ドルもの大幅高となった。しかし、事前に12営業日連続上昇を続けてきて、1日小幅反落した後の大幅高だったので、安心感があったとの評にはやや違和感がある。不安感が事前に強かったわけではないからだ。

むしろ、経済政策では唯一具体的な数字をあげてインフラ投資に言及したことを好感した可能性がある。実際、米国株式市場では公共投資関連株が大きく切り返した。

実は同じような光景は昨年11月の選挙結果判明直後にも見られた。トランプ氏による勝利スピーチに関し、大統領らしいとの評だったが、同時にインフラ投資に関して明確に言及したことも市場の話題となった。

こちらは事前に不安感があったので、どちらを市場が評価したのは定かではないが、選挙翌日の米国株式市場は公共投資関連株中心に堅調で、NYダウは256ドルの大幅高となった。

この2回の事例では、株価上昇だけでなく債券市場でも明確な金利上昇が観測されている。こうして見ると、大統領らしいとの安心感だけではなく、インフラ投資への言及が株高の原動力だった可能性が高いと捉えることができるだろう。

<減税では景気浮揚効果は遅い>

今回は大統領演説の前週にインフラ投資法案の審議は2018年に先送りされるとの報道があった。同時に、ムニューシン米財務長官も新政権による景気刺激政策の経済効果は2017年に関してはわずかである可能性をメディアとのインタビューで答えている。筆者は米財務省が減税を中心に検討していた証左だと思う。

これらを受けて、米国金利は低下し、連れてドル安が示現し、日経平均はNYダウに逆行するかたちで2月27日まで4営業日連続安となった。インフラ投資が今年実施されるか否かが、ドルや日本株にとっては重要であることが理解できるだろう。

また、この4日間はNYダウも小幅な上昇ばかりが続いた。大統領が演説でインフラ投資期待を復活させた後の大幅高と比較すれば、やはりインフラ投資期待は米国株の上昇にも寄与していた可能性が感じられる。

経済的には、インフラ投資は直接的ですぐに効果が出やすい。通常ならば今秋に入札などが行われ、時間とともに契約金額分の経済効果は確実に表れる。さらに、建設会社が建設機械を購入し、人員を雇うなど、民間部門での投資と雇用の誘発効果も年内に顕在化する。

一方、減税策では減税金額の全てが活用されることは稀だろう。時期的にも法人減税のメリットが生じるのはおそらく来年3月頃の納税時期だ。それも10―12月期の1四半期分だけのわずかな額にとどまる懸念もある。

その場合、ある程度まとまった金額が民間の手元に残るのは、さらにその先だ。実際、減税を推進しトランプ政権との類似性が指摘されるレーガン大統領下では、景気回復は政権2年目の終盤だった。

つまり、減税とインフラ投資では、効果が出る時期などが全く異なる。今年の相場を考える上では、インフラ投資の有無が重要であることが理解できる。

<12連騰は景気回復相場の特徴>

さらに、NYダウの連騰記録は1920年以降で調べると、特殊な需給が発生した1987年に次ぐ歴代2位の12連騰まで進んだ。過去に同じく12連騰となったのは1970年12月7日までで、「インフレ抑制の手を多少緩めても景気回復を優先する方向に変わった」(東京証券取引所編「証券」1971年2月号より抜粋)ことが背景だ。

最近の11連騰は1992年1月3日までで、「景気の先行き回復期待や、金利低下による株式市場への資金シフトが背景」(同・1992年3月号より抜粋)とされる。いずれも景気回復に重きが置かれている場面だ。今回も、「大統領らしい演説だった」などとのファンダメンタルズに影響がない話だけが12連騰もの歴史的な記録をもたらした主要因であるはずがないと思う。

ちなみに、NYダウは10連騰までと11連騰以上ではその後のパフォーマンスが全く異なる。過去の10連騰を達成した11回は、半年後は7回上昇、4回下落、騰落率の中央値は2.3%の上昇だ。一方、過去の11連騰以上を達成した7回は、半年後で6回上昇、1回下落、騰落率の中央値は12.6%上昇だった。今回、単純に当てはめれば、NYダウは2000ドル以上の上値余地があることになる。

<争点はトランプ大統領が語らなかったこと>

さて、トランプ大統領の議会演説に話を戻すと、財源に関しては、オバマケア(医療保険制度改革法)の見直しと民間資金の活用だけに触れた。これまで提案されてきたリパトリ減税や超長期国債発行、国境調整税には言及がなかった。この現段階では言わなかったことこそが今後の議会との交渉の争点なのだろうと筆者は思う。

リパトリ減税とは、米国企業が海外利益を米国に還流(リパトリエーション)する際の税率を、通常の法人税率ではなく、特別の低減税率適用を可能とすることで、米国での資金活用を促すとともに、これまで取りはぐれていた分のいくらかを徴税する政策だ。

この財源は法人減税の財源には適さない。法人減税を同時に行ってしまうと、リパトリ減税のインセンティブが減退し、財源として見込みにくくなる。よって、リパトリ減税を実施するなら、法人減税は若干先送りとなり、使途は自ずとインフラ投資に軸足が置かれることになるだろう。リパトリの促進によるドル高効果も加わり、今年の日本経済や世界経済にメリットが大きい。

一方、超長期国債発行は利回りが高く、足元の財政を悪化させやすい。超長期の債務を新たに抱えることも、財政悪化と捉える議員もいるだろう。議会共和党がこうした財政悪化分で公共投資を賄うことを容認するとは考えにくい。よって、超長期国債発行で資金調達するならば、使途は法人減税中心となり、今年の米国や世界景気に好影響は少なく、景気の浮揚効果は来年からだろう。

いずれかの手段も議会に認められないなら、議会が推進する国境調整税に行き着くことになりかねない。もちろん国境調整税選択なら世界の市場はショック安だろう。

なお、国境調整税は世界貿易機関(WTO)違反との表面的な論評が多いが、他国の付加価値税の還付制度をWTOが認めていることで米国貿易は競争上不利であることは間違いない。付加価値税の還付制度と平仄(ひょうそく)を合わせた国境調整税の制度創設が全く認められないわけではない。議論の進展に注意したい。

このように、リパトリ減税、超長期債発行に落ち着くか、国境調整税となるかなどを今後見定める必要がある。ただ、いずれにしても4月末のハネムーン期間(新政権発足後の最初の100日間)終了までは交渉余地が残る。その頃まではインフラ投資に対する政策期待が続き、株価堅調の継続が期待できると判断している。

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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