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コラム:バーナンキ氏が説く黒田日銀の選択肢=木野内栄治氏
2016年7月13日 / 04:26 / 1年前

コラム:バーナンキ氏が説く黒田日銀の選択肢=木野内栄治氏

[東京 13日] - バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長の来日が一部で話題となっている。バーナンキ氏は2003年5月にも来日し、「日本の金融政策に関する見解」(日本金融学会)と題する講演を行った。当時、すでにFRB理事の立場にあった同氏が他国の金融政策に対して見解を述べることは、金融政策における内政干渉のようなインパクトがあった。

その講演では、物価目標の導入や銀行資本の充実、日銀のバランスシートを利用した政策などが提案された。そしてご存じの通り、結果的には日銀や日本の銀行は事実上バーナンキ氏の提案を実際に採用することになった(物価目標に関する当時の提案は水準目標だった)。

今回の来日中に、この碩学は日本の金融・財政政策に対してどういった処方箋を示すのだろうか。

<「ヘリマネ」提案の可能性>

2003年の講演では、日銀による信用創造によってファイナンスされた財政支出政策も提案されている。いわゆるヘリコプターマネーだ。

中央銀行が財政支出をファイナンスするなら、将来の借金返済不安がない。よって、人々が不安に感じて貯蓄性向を高めてしまうなどのリカード=バローの等価定理を心配する必要はない。

また、財政政策は資源の最適な配分を歪めるので、潜在成長率を引き下げてしまうなどの広義の非ケインズ効果も心配される。しかし、そもそも現状では経済資源を有効には使っておらず、財政政策は産業のリストラを容易にするための支援プログラムにも使えるなどの反論を試みている。

最近でも、今年4月のブログでバーナンキ氏は同様の議論を展開し、「欧州と日本にあって、中央銀行資金によってファイナンスされた財政行動は、多くの注目を集めるだろう」としている。こうして見ると、今回の来日においてもバーナンキ氏は、ヘリコプターマネーを提案したに違いない。今回も日本は同氏の提案を導入することになるのだろうか。

<バーナンキ氏が提案する「ヘリマネ」の手順>

すでにかなりの旧聞に属するが、3月から4月にかけてのバーナンキ前FRB議長のブログを確認しておきたい。「Fedにどのような手法が残されているか」とのタイトルで、非伝統的な金融政策について議論を行った。

ブログは、マイナス金利政策、長期金利の釘付け政策、ヘリコプターマネーの3回に分かれているが、その中にはフォワードガイダンスや量的緩和など、すでに実施された非伝統的金融政策の議論も含まれている。そして、こうした政策について、細かなオペレーションの議論を尽くしている点が特徴だ。

例えば、2年金利を釘付けにするなら、2年後に満期が来る債券についての釘付けしたいレートを示し、それ以上に利回りが上昇したらすべて当該債券を買い上げる用意があることを表明する。FRBが全ての当該債券を購入することになったとしても、2年後には全て償還され、プログラムは自動的に終了するとした。「日銀はケチャップだろうが何だろうが買えばいい」としたかつての舌鋒はかなり現実的になっている。

ヘリコプターマネーについては、FRBに専用の財務省の会計口座をつくる。米連邦公開市場委員会(FOMC)だけに、その口座への貸し付けを決定する法的な権限を与えておき、同時にその資金は将来にわたって返済を求めないことを約束しておく。

次に、FOMCは雇用最大化とインフレ目標を達成するため必要と判断した金額をその口座に貸し付ける。その資金を政府がどう使うかは通常の財源と同様に議会の予算処置に委ねるというものだ。

これによって中央銀行の独立を危険にさらさず、財政ファイナンスが無拘束・無秩序になることを防止できるとしている。やはり、かなり現実的な議論だ。

<緩和手法のリストアップ自体に効果>

こうした手法を米国で導入することが見込めるのだろうか。バーナンキ氏のブログのエッセンスは、多種多様な非伝統的金融政策の手法を詳細な現実のオペレーションと共に議論しておく姿勢自体である。この姿勢によって金融政策に限界はないと証明することになり、期待に働きかけることが容易になるとのメカニズムだ。

米国では、イエレンFRB議長も6月のFOMC後の記者会見で、ヘリコプターマネーも場合によっては検討すべき手法であると明確に発言した。こうした発言を現役のFRB議長が行うことも驚きだが、それが大きなニュースにならないことも驚きだ。米国では議論することの期待に働きかける効果の理解が進んでいると認識すべきだ。

日本でも、4月の金融政策決定会合前に、「貸出支援基金による貸出金利をマイナスにすることを検討する可能性がある」と報じられ、株高・円安の金融緩和効果が見られた。やれることが残っていると分かれば、金融緩和効果があることは証明されていると思う。

さて、こうした大変刺激的な金融政策を日本は受け入れることになるのだろうか。少なくとも黒田日銀総裁はその議論する姿勢を導入することには積極的と見られる。

黒田総裁は6月20日の講演で、「金融政策の有効性を確保していくためには、民間部門が予想していないショックを与えることではなく」とこれまでのサプライズ戦略をまずは否定した。そして、「平時から、ゼロ金利制約に直面するような極めて大きな外的ショックへの政策対応のオプションを示しておくことが、金融政策の有効性を高めていくうえで重要と考えられる」と、バーナンキ氏のブログで指摘された中央銀行の能力を示すことの重要性を認めた。

近い将来にヘリコプターマネーが日本で導入されるか否かは定かではない。確かに、リニア中央新幹線を前倒しで建設するなどの際に活用が期待される財投債ならば、国の負債ではないことから日銀が引き受けるのも筋が悪くない。ただし、筆者は、長期金利の釘付け政策の方が株価や為替レートに働きかける効果が高いし、黒田総裁任期以降のフォワードガイダンスを再強化することの方が先だとは思う。

それでも、そうした議論を進めることは有効だ。非伝統的な緩和手法をリストアップして議論すること自体にまずは大きな金融緩和効果が期待できる。また、マイナス金利政策で困っている金融機関も含め、日本中で建設的な議論が期待できるだろう。

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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