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コラム:トランプ相場後に訪れる日本経済の正念場=熊野英生氏
2016年12月12日 / 05:18 / 10ヶ月前

コラム:トランプ相場後に訪れる日本経済の正念場=熊野英生氏

[東京 12日] - 日銀は9月に総括的検証を実施し、政策の枠組みを、長期金利ゼロ%ターゲットを含む「イールドカーブ・コントロール」へ切り替えた。当初、この枠組みの有効性に疑問も大きかったが、幸運なことに「トランプ相場」という追い風が吹いて、うまく円安・株高が起こった。

この相場変動の背景にあるのは、大半は米国経済の好転や米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測といった要因だろうが、11月上旬の米大統領選挙のタイミングが流れを印象付けたという意味でトランプ相場のおかげという説明が正当化されているように思える。

日銀が能動的に果たした役割は、上昇に転じた米長期金利が、日本の長期金利との間で、日米金利差を広げるのに一役買ったという点だろう。これまでも、米金利上昇に連動して日米の長期金利差は拡大しやすかった。今回もそうなっており、円安のスピードは速くなっている。

米大統領選直後は1ドル=101円となったが、すぐに1ドル=113円台の円安へと変わった。日銀にとって、この恩恵は絶大である。もしも、ドル円レートが2017年1月以降も110円で推移すれば、レート変化は対前年比で6月以降4―8%のプラスに転じるだろう。これは、輸入物価への上昇圧力である。

さらに、原油価格(WTI)が1バレル45ドルだったと仮定して、円ベースの原油価格の伸びを計算すると、2017年1―4月の前年比は、10―40%へと高まる。つまり、2017年の少なくとも前半にかけては消費者物価の上昇圧力が高まって、黒田東彦日銀総裁の思惑が成功することになりそうだ。

<17年春闘が握るデフレ脱却の鍵>

もちろん、原油や輸入品だけの物価上昇では、デフレ脱却とは言えない。賃金が上昇しなければ、コストプッシュ・インフレによって実質賃金は切り下がってしまう。言い換えれば、円安効果によって、2016年度後半の企業収益が盛り返し、2017年の春闘交渉が成果を上げるかどうかがデフレ脱却のポイントとなる。

企業の収益環境は、2016年度前半までの円高傾向によって減益になる可能性が小さくない。だから、少し前まで春闘は厳しいと見られてきた。もっとも、11月からの追い風は、その逆境を変えつつある。

2017年春闘が0.5%から1.0%のベースアップ率を獲得できれば、個人消費増加への大きなインパクトを与えることになる。消費者物価の上昇率も、コストプッシュ要因だけでなく、需要面での押し上げが期待できる。まさしく、2017年がデフレ脱却の正念場となる。

一方、2017年のリスクは、米国発の変化だ。ドナルド・トランプ次期米大統領がドル高に不満を感じて、ドル安を歓迎するとどうなるだろうか。イエレンFRB議長と対立して、利上げの前途が見えなくなる。トランプ氏の発想は、財政健全化をあまり重視していないようにも思える。だから、米長期金利は上昇していると見ることもできる。

また、FRBの利上げが2017年にかけて、2回あるいはそれ以上に行われると、どこかで米経済のスローダウンか、利上げの打ち止め観測が生じるだろう。これらは、ドル高がどこまでも進まないことを暗示する要因だ。

ドル円レートも、トランプ相場によっていったん円安に振れたが、その流れがずっと続くとは限らない。日銀の金融緩和が成功を収める局面も、2017年のどこかで変わっていく可能性がある。そうしたリスクが顕在化したとき、「やはり追い風頼みはまずかった」と皆が思うことになるだろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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