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コラム:日本はデフレ脱却にどこまで近づいたか=熊野英生氏
2017年7月7日 / 02:13 / 2ヶ月前

コラム:日本はデフレ脱却にどこまで近づいたか=熊野英生氏

[東京 7日] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、物価低迷は一時的なものであると発言した。欧州でも、近い将来、量的緩和の縮小(テーパリング)が始まり、金融政策の正常化プロセスが動き出そうとしている。

米連邦準備理事会(FRB)は、年内にはバランスシートの正常化を開始する意向なので、日本は完全に欧米に先を越されている。皮肉を言う人は、日銀は欧米中銀の周回遅れとなり、気が付いたならば、次の景気後退が来て正常化に着手できずに終わるだろうと暗い予想を立てている。

ここで注意深く考えたいのは、日本はどこまでデフレ脱却に近づいているかという点である。多くの有識者は、マインドコントロールに陥っていて、2%の物価目標に届かないから永久に緩和が続くと考えている。反対に、リフレの信奉者は、長期国債の買い入れを続けてまだまだ量的緩和を見直すべきではないと考える。

本来は、もっと虚心になって、日本経済がデフレの害悪から脱出できているのかを観察すべきだろう。正しい現状認識があってこその政策運営である。

<3度目の正直に挑戦>

デフレが悪いのは、それがデフレスパイラルを引き起こすからだ。企業が価格転嫁できずに、仕入価格や賃金を切り下げて、自己実現的にデフレが加速する状態である。

例えば、原油高騰で仕入れコストが上がったとき、企業が販売価格を上げずに、賃金や他の仕入れコストを引き下げたとしよう。消費は落ち込み、国内の卸売り価格は連鎖的に下がっていく。需要減が、さらに二次的な需要減を生み出す。コストプッシュ圧力と需要減の併存は、スタグフレーションの色彩を持つ。

ただ、なぜデフレが恐ろしいかという原点からみると、実は現状は良いところまで来ている。その状況は表面的な消費者物価指数(CPI)からは読み取れない。筆者は、企業の価格転嫁力こそが問題の核心だとにらんでいる。

そこで、日銀短観の販売価格判断DIの動きをみると、企業の価格転嫁力はかなり良いところまで回復していることが分かる。すなわち、全規模・全産業の販売価格DIは、2017年6月調査はマイナス2の価格下落超と、プラス浮上まであと一歩だ。この指数がプラスになったのは、1992年にマイナスに転落した後、2008年の6月と9月の2回だ(2014年6月には0になったことがある)。

2017年後半に3度目の正直でプラスに浮上する可能性はある。細かな業種の変化では、小売業の販売価格DIが2013年9月からすでに4年近く連続してプラス圏へと頭を出している。小売段階で価格転嫁ができていることは、デフレスパイラルから遠ざかっている証拠として心強いものだ。

<問題は政府の金利過敏>

定性的に考えて、日本がデフレから遠ざかっていることは間違いない。もちろん、消費者が高齢化しており、特にサービス需要が構造的に弱いことは認める。その点は、サービス業の生産性の低さを改善する構造調整が別途必要である。

筆者が再考を促したいのは、「CPIが2%に届かないからデフレ脱却ができない。永久に緩和すべき」などという教条主義を捨てて、現実を正視せよということである。

企業はそれなりに打たれ強くなっている。法人企業統計では、経常利益は最高益を更新している。金利コストがどのくらい企業にとって重荷なのだろうか。むしろ、問題なのは国の資金調達が金利上昇リスクに過敏なことである。

財政再建においては、むしろ規律の低下と増税先送りが深刻化している。企業は耐久力がつき、政府は脆弱になっている。この食い違いを踏まえれば、金融政策をどう正常化するかという長いスパンの議論をするには、ちょうど良い頃合いだ。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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