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コラム:改造内閣にアベノミクス「変質」加速の芽=熊野英生氏
2017年8月4日 / 06:26 / 2ヶ月前

コラム:改造内閣にアベノミクス「変質」加速の芽=熊野英生氏

[東京 4日] - 今回の内閣改造は、サプライズを狙って支持率回復を目指す手もあった。だが、ふたを開けてみれば、そうした加点よりもさらなる失点をしたくないという安倍晋三首相の考え方がにじんだものになったと言えよう。

3日発足した第3次安倍第3次改造内閣の布陣で筆者が特に注目したポイントは、厚生労働大臣に加藤勝信氏が横滑りし、経済産業大臣に世耕弘成氏が留任したことだ。アベノミクスの中核の大臣は腹心で固める。これは、今後のアベノミクスも第2次改造内閣までと同様に官邸主導で決めるという意味だろう。

金融市場からは、色あせてしまった成長戦略を再起動して、大胆な規制緩和を望む声は根強い。しかし、第3次改造内閣は、官邸が教育無償化などの人材投資や人づくり革命をテーマに決めれば、それに従って社会政策的な財政出動を行うというような流れになりそうだ。

安倍首相は「初心に戻って」や「経済再生」といった言葉を口にしているが、どうも指しているものが、私たちがイメージしているものと違っている感じがする。既存の規制と戦うという内閣発足時の姿勢はみられない。

<年金医療改革が後回しになる恐れ>

麻生太郎財務大臣が留任したことは、財政再建にプラスと言えるだろうか。別の新任者が任命されるよりは、重鎮の麻生大臣の方が2020年度の基礎的財政収支の黒字化のためには良いと思える。しかし、安倍首相を中心に財政拡張を繰り返してきたこれまでの流れをストップさせることまでは期待できないだろう。財政再建の行方が心配だと思うエコノミストにとっては、引き続き不安が残る。

経済政策については、茂木敏充氏がその中心の経済再生担当大臣になる。政調会長などを歴任したベテランだが、財政再建に対してどこまで強い思い入れを持っているのかは疑問がある。成長戦略を再起動させるとしたら、経済財政諮問会議をうまく使って新しいメニューを出すことが可能だ。そこまでリーダーシップを発揮して、存在感を示せるかどうかを様子見したい。

財政再建に関しては、社会保障分野の歳出抑制が鍵を握っている。その点では、加藤勝信氏が厚生労働大臣として歳出抑制にどこまで積極的かにかかっている。また、厚生労働大臣の所管する分野は広すぎて、優先順位をつけなければ、改革が進まないという問題点がある。例えば、年金・医療の抜本的な見直しを中心に据えないと、財政拡張のトレンドは変わらない。加藤大臣は、一億総活躍を推進してきただけに、労働の方に軸足が置かれると、年金・医療が後回しになるリスクがある。

<支持率回復の鍵は2つ>

今回の内閣改造は、一応、2018年9月の自民党総裁選挙までの布陣だとみられる。それまでの間に、衆議院の解散総選挙が行われる可能性も十分にある。支持率を上げなくては、衆議院の解散はできないだろうから、このメンバーで国民の評価を受ける必要がある。そこでのポイントは、1)トランプ米政権の要求に安易に折れないこと、2)景気拡大の実感を中堅のサラリーマンにも実感してもらえること、の2つだろう。

筆者は、トランプ大統領就任後の安倍政権の外交は成功していると評価する。日欧間の経済連携協定(EPA)はタイミングが良かった。今回、河野太郎氏が外務大臣になった。よりアピール力が高く、外交上の加点を稼ぐチャンスはある。記者会見では、トランプ政権の保護主義的な動きと対峙するようなことを話していた。一方、トランプ政権の圧力にどこまで耐えるかは未知数の部分もある。

2番目の景気実感は、2015年頃からアベノミクスが神通力を失い、今に至るまで手薄にされた論点である。筆者などが、初心に帰って成長戦略を再起動してほしいと考えるのは、まさにここが手薄だからである。雇用面で流動化を高めることによって、賃上げ圧力を一層強めることや、人手不足に苦しむ企業が人材をより採用しやすくすることは、景気実感を高める上で有効である。株式市場に対しては、成長分野での規制緩和の推進が高評価につながるだろう。

現在の支持率低下は、いくつかのスキャンダル疑惑によって引き起こされたもので、必ずしも景気悪化によるものではないが、今ひとつ景気実感が良くないことは、時間が経てば支持率が回復するという作用を弱めていると考えられる。

筆者は、アベノミクスが新3本の矢と言い始めた頃から、経済政策と社会政策を混ぜて、経済成長路線から遠ざかったとみている。このことは、政治の世界では批判する人は少ないかもしれないが、エコノミストからみると話は別だ。だから、安倍首相が経済再生と話しても、額面通りに受け取れない。中長期で支持率を回復するために、財政拡張を伴うような社会政策に依存しない、純粋な成長戦略への回帰を望む。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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