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コラム:トランプ次期大統領はレーガン後継者か=嶋津洋樹氏
2016年11月14日 / 06:36 / 10ヶ月前

コラム:トランプ次期大統領はレーガン後継者か=嶋津洋樹氏

[東京 14日] - 米大統領選挙における共和党ドナルド・トランプ候補の勝利は、すでに多くが指摘している通り、米国民の現状に対する不満がいかに大きいかを浮き彫りにしたと言えるだろう。しかし、その不満の源は何だろうか。

労働市場の悪さ、賃金の低さ、グローバル化、格差の拡大、変化のない政治。いずれも当てはまりそうだが、決定打に欠けるだろう。少なくともトランプ氏が大統領選挙人の過半数を獲得したことを説明するには十分と言えないように思える。

各種報道によると、トランプ氏の主な支持層は白人の男性。対照的に、民主党ヒラリー・クリントン候補は非白人から圧倒的な支持を獲得していた。しかし、白人の女性に限ると、クリントン氏の支持率はトランプ氏に肩を並べる程度であり、後塵を拝する調査も少なくない。こうした傾向は若年層よりも中高年で顕著なようだ。トランプ氏は発言の過激さこそ前例のないものだったが、その支持者はこれまでの米国政治を担ってきた典型的な米国人であると言えるだろう。

こうした事実は1つの仮説を浮かび上がらせる。つまり、米国人は変わらない現状が不満でトランプ氏を選んだわけではなく、目まぐるしく変わる現状に不満を示した可能性があるということだ。誤解を恐れずに言えば、今回の米大統領選では、「初の黒人大統領」の次に「初の女性大統領」が就任することへの警戒感や違和感、拒否感が示された可能性もある。

実際、米国ではこれまでもたびたび、リベラリズムの反動として世論が保守に振れることがあった。1964年の大統領選で共和党候補に指名されたバリー・ゴールドウォーター上院議員の登場、リチャード・ニクソン大統領(任期1969―74年)やロナルド・レーガン大統領(同1981―89年)の誕生はその典型だろう。

トランプ氏の性別や人種などに対する数々の問題発言が最終的に致命傷とならなかったのは、投票の直前にクリントン氏のメール問題が明らかになったことに加え、こうしたリベラリズムの反動といった側面もあるのではないか。

このように考えると、トランプ氏の具体的な経済政策が減税、規制緩和、税制の簡素化など、レーガン政権下の政策と酷似しているのは、偶然ではないだろう。そして、実際に経済ブレーンの多くがレーガン政権時代の経済政策を前向きに評価していると報じられている。

経済政策以外でも、米軍の強化と同盟国への軍事費負担の要求は、「スターウォーズ計画」に代表される国防の強化と「安保ただ乗り論」を彷彿させる。筆者はトランプ氏の経済政策を考える上で、レーガン政権の経験が役に立つと考えている。

<ドル高が招く貿易摩擦の矛先>

例えば、レーガン政権下の積極財政は、当時の連邦準備理事会(FRB)がインフレの抑制を目指して、金融政策を引き締め的に運営していたこともあり、米金利とドルの上昇をもたらした。

現在のFRBは高インフレに苦しんでいた当時と異なり、低インフレに悩んでいるとはいえ、金融政策は正常化の最中。トランプ氏の掲げる積極的な財政政策が実施されれば、レーガン政権時代ほどではないにしても、米金利とドルには上昇圧力が加わりやすい。足元の米金利とドルの上昇は一時的にとどまらない可能性があるだろう。

レーガン政権時代のドル高は、ドイツや日本との貿易摩擦を激化させた。トランプ氏が積極的な財政政策を修正しない場合、ドル高が続くことで、米国企業の競争力が低下し、貿易摩擦が激化するリスクは否定できない。トランプ氏が通貨安政策を採用していると批判したことのある日本やインド、中国、メキシコは、市場開放を迫られたり、米国での輸入関税の引き上げなどに直面したりすることも想定される。

特にメキシコは、トランプ氏が北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉や不法移民問題に言及していることもあり、相対的に厳しい立場へ追い込まれるリスクがある。

もちろん、トランプ氏が批判の矛先を海外ではなく、金融政策の正常化を模索するFRBに向ける可能性もある。その際、FRBは利上げの中止などが求められるだろう。イエレンFRB議長がそうした要求に安易に従うとは想定しにくいが、議長としての任期は2018年2月までである。トランプ氏が新たなFRB議長を指名することで、金融政策に影響を及ぼすことは考えられる。

ちなみに、レーガン大統領は自分と立場の近い理事を次々と任命し、ボルカーFRB議長を窮地に追い込んだことで知られている。

<「ビジネスマン大統領」との付き合い方>

トランプ氏がビジネスマンということもあり、経済政策以外の政策は曖昧で方向感を欠くものが多い。特に経済政策と同様かそれ以上に注目される外交・安全保障問題は今のところ、上述した米軍の強化と同盟国への軍事費負担を求めている発言以外に手掛かりが乏しい。この点は、俳優出身でありながらも、カリフォルニア州知事として政治的な経験を積み、対ソ強硬論に傾いたレーガン大統領と大きく異なるだろう。

ただし、そのことは二国間関係が個人的な信頼関係に左右されやすいことも意味する。安倍政権が日米関係の一段の強化を望むのであれば、ビジネスマンであるトランプ氏を納得させる理論武装とともに、首脳間の信頼関係を構築することが急務だろう。

同じことは、ロシアとウクライナ問題で対立する欧州連合(EU)、そのEUと離脱問題(ブレグジット)でさや当てを演じる英国、過激派組織「イスラム国(IS)」やシリア問題などに悩まされる中東各国にも当てはまる。

なお、トランプ氏の勝利はブレグジットに続いて、過度に悲観論をあおった専門家とそれを報じ続けたメディアなどへの国民の信頼感を大きく傷つけた可能性がある。もちろん今後、トランプ氏の勝利やブレグジットが遠因となって実際に危機が発生するリスクは否定できないものの、その警告に真剣に耳を貸す人は従来ほど多くはないはずだ。まして、トランプ氏が米国民の不満を解消したり、ブレグジットが平和裏に完了したりすれば、なおさら人々の信頼感は失われる可能性がある。

このことは、12月に国民投票を控えるイタリアをはじめとして、2017年に実施予定のドイツの総選挙やフランスの大統領選にも影響を及ぼすだろう。少なくともそれぞれの国民にとって、EUやユーロが崩壊するとの警鐘はすでに大きな意味を持たなくなったはずだ。

上述した通り、筆者はトランプ米大統領の誕生が経済に直接与える影響については、総じてプラスが大きいと見る一方、政治や社会を不安定化させるリスクは小さくないと考えている。その悪影響の大きさは今後、EUやユーロ圏で明らかになるだろう。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメント、SMBC日興証券などを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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