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コラム:欧米政治「急進化」を阻む救世主はいるか=嶋津洋樹氏
2016年6月27日 / 04:03 / 1年前

コラム:欧米政治「急進化」を阻む救世主はいるか=嶋津洋樹氏

[東京 27日] - 欧米主要国では最近、穏健な保守(中道右派)や革新(中道左派)を標榜する政治勢力の後退が目立つ。特に中道左派の退潮は著しく、政権交代や第3党への転落が相次いでいる。

代わって台頭しているのが、移民や外国人の排斥、資本主義の否定、既得権益の破壊など、極端な主張を掲げる政治勢力だ。結果として、左派のみならず、右派でも中道路線は後退し、急進派が勢力を拡大している。

興味深いのは、いずれの急進派勢力が掲げる政策も最終的には財政の拡大に結びつきやすい点である。欧州債務危機をきっかけに強まった世界的な財政健全化や構造改革重視の路線は、低成長の長期化という現実を前に岐路に立たされているようにみえる。

例えば、国民投票で欧州連合(EU)離脱の意思が示された英国では昨秋、労働党党首に鉄道の再国有化などを主張するコービン氏が就任。ブレア氏、ブラウン氏という2人の元首相が進めた穏健化路線は大幅に修正された。

コービン氏は、今回の国民投票ではEU残留派として活動したが、もともとは労働党では少数派のEU懐疑派として知られる。そのような人物が同党の党首を務めているという事実は、中道左派の後退を象徴していると言っていいだろう。

<欧州改革派の頼みの綱、レンツィ伊首相も苦境に>

一方、現在、4年に1度の大統領選の期間中にある米国では、リベラル色が強く、泡沫候補とみられていたサンダース上院議員が民主党の候補者指名争いで善戦。米大統領候補の本命と目されたクリントン元国務長官は最後まで苦戦を強いられた。米民主党内では、党内の穏健派ではなく、サンダース議員や同議員に近いウォーレン上院議員を副大統領候補として指名すべきとの声が出ている。

また、ドイツでは、メルケル首相が党首を務める中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組む中道左派の社会民主党(SPD)の支持率が大幅に低下。各種世論調査で、反ユーロを掲げ、難民の受け入れに慎重な右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に猛追されている。

さらに、フランスではオランド大統領の支持率が低迷。そのことに危機感を抱いた中道左派の与党・社会党は2017年の大統領選を前に予備選を実施する方針を固めた。この間、スペインでは反緊縮を掲げるポデモスが共産党の流れを組むウニドスと選挙協力で合意。26日の再選挙では、ポデモスの伸び悩みが報じられているが、フランコ体制の崩壊以降、政権の一翼を担ってきた中道左派の社会労働党(PSOE)も依然として党勢の回復にはいたっていない。

こうしたなか、イタリアでは2014年にレンツィ首相が中道左派の民主党(PD)から誕生。国民的な人気を背景に、イタリア経済の硬直性の象徴として長年批判されてきた破産法を近代化し、解雇法制を整備するなど、構造改革に積極的に取り組んできた。

しかし、直近の地方選では、民主党の地盤とされるトリノで反体制派政党である「五つ星運動」の候補に敗北。主要6都市の成績は首都のローマでの敗北も含め、2勝4敗と振るわなかった。地方選の結果が中央の政治に及ぼす影響は限定的とはいえ、レンツィ首相の求心力が低下し、必要な改革に着手できないリスクが高まっている。

最初にそのことを確認できるのは、10月に行われる憲法改正案の是非を問う国民投票だろう。というのも、レンツィ首相は現在、これまでたびたび国政の停滞を招いたとされる上下両院の平等原則を変更し、上院の権限を大幅に制限する憲法改正を準備しているからだ。

レンツィ首相は国民投票が否決されれば辞任する姿勢を示している。可決されれば、イタリアの構造改革は一段と加速する可能性があるが、直近の地方選は否決のリスクが決して低くないことを示している。仮にレンツィ政権が瓦解するようなことがあれば、欧州における中道左派の退潮を改めて浮き彫りにすることになりそうだ。

<中道左派の模範解答はカナダのトルドー政権か>

ただ、欧米主要国の中でも中道左派が躍進している国はある。カナダのトルドー首相が率いる自由党は2015年10月の総選挙で躍進し、約10年ぶりに政権を奪還。直近の世論調査では支持率の一段の上昇さえ報じられている。

カナダは2016年2月までの半年間で約2.5万人のシリア難民を受け入れ、今後10年間で名目国内総生産(GDP)の3%に当たる600億カナダドル規模のインフラ投資を実行する計画だ。カナダの例は、欧州や米国で批判される難民・移民の受け入れに対する寛容さや、明示的な財政政策の拡大が、必ずしも支持率の低下につながらない可能性を示している。

ただし、トルドー首相は準備に余念がない。例えば、シリア難民の受け入れにあたっては、飛行場での保安検査を徹底するなど、安全対策を強化したほか、入国してからの金銭的な生活支援、語学を含む教育、雇用の斡旋などを充実させたと報じられている。

また、インフラ整備の拡大で目先は財政の悪化が避けられないが、公約では2019年に財政収支を均衡させる方針である。なお、中間層や小規模企業を対象に所得税減税や法人税減税に踏み切ったものの、その財源の一部は富裕層に対する増税で賄われている。

カナダはドイツほどではないが、フランスやイタリア、スペインなどの欧州主要国に比べて財政状態が良好で、大胆な政策を打ち出しやすいというアドバンテージがある。それでも、入念な準備と対象をはっきりとさせたうえでの政策実行は、付加価値税や公共料金の引き上げ、失業保険や年金の削減などの財政収支改善策をほぼ一律に進めた欧州主要国とは大きく異なるだろう。

むろん、難民に対する金銭的な支援や富裕層のみを対象にした増税は、国民の不公平感を強め、場合によっては支持者の離反につながりかねない。それは特に中道路線を標榜する政党にとって大きな打撃となり得る。

しかし、カナダの自由党は中道路線を維持しつつも、コアの支持者に的を絞った政策を実施。そのことで、既存支持者の離反を最小限に抑えていると考えられる。自由党の支持率が上昇しているのは、トルドー首相の実行力が変化を求める新たな支持者の獲得につながっているからだろう。

何事も万人を満足させることは難しい。しかし、欧米主要国では近年、支持率の上昇を狙って多くの国民に良い顔をする政党が多かった。特に中道左派は社会保障や年金の維持・拡充を旗印とし、実際に多くを実現させてきた。

ところが、リーマンショック後、世界景気の拡大ペースは大幅に鈍化。欧州債務危機は、低成長下での歳出拡大が続かないことを示したと言えるだろう。中道左派の退潮が中道右派よりも深刻なのは必然に思える。中道左派にとって、カナダの自由党のようなメリハリのある政策は1つの模範解答だろう。

ちなみに、中道左派の退潮は必ずしも中道右派の追い風になっていない。それどころか、このまま低成長が続けば、中道右派も退潮を免れない。実際、冒頭で触れた通り、中道左派の退潮で最も恩恵を受けているのは、既存政党を否定する勢力である。その典型が米大統領選の共和党候補者に事実上決まったトランプ氏であり、フランスで台頭する国民戦線(FN)、英国のEU離脱を強く主張した独立党(UKIP)だろう。

そうした政党は難民や移民などの外国人が国民から仕事を奪ったと主張する。しかし、彼らがいなくなれば、その分、家も車も必要なくなる。労働者ばかりではなく、彼らの需要も消えるはずで、単純に、国民に仕事が回ってくるとは考えにくい。低成長を打破する政策を打ち出せるか否かが、中道右派の躍進のカギになるだろう。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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