Reuters logo
コラム:中国ショック克服へ財政の出番か=嶋津洋樹氏
2016年1月17日 / 07:43 / 2年後

コラム:中国ショック克服へ財政の出番か=嶋津洋樹氏

[東京 17日] - 金融市場は年初から世界的に「荒れ模様」となっている。その要因の特定は難しいが、米国の製造業に停滞感が残るなか、連邦準備理事会(FRB)が利上げに踏み切ったこと、中国景気の下振れ懸念や同国政府の経済運営手腕に対する信頼感低下、世界的な地政学リスクの高まりなどが指摘できるだろう。

一部には、金融市場の混乱が自己実現的に世界的な景気失速を招きかねないとの指摘もある。筆者もそのリスクの存在自体は否定しないが、現段階で蓋然性が高まっているとは考えていない。

確かに、原油などコモディティー価格の大幅な下落の背景には、上述したような様々な出来事が最終的に世界的な需要の低下につながるとの恐れがある。

もっとも、コモディティーのなかでも食料については天候不順の影響もあり、下げ止まりつつある。銅などの工業用メタルもここ数日こそ調整が目立つものの、それまでは一部で持ち直しが続いていた。それらに比べると、原油価格の下落はやや突出しているが、突出しているということが世界的な景気の失速に伴う需要の停滞というよりも、石油輸出国機構(OPEC)加盟国間の足並みの乱れなど、特殊要因に起因している可能性を示す。

ちなみに、中国の12月の貿易統計を見る限り、少なくとも原油、鉄鉱石、銅鉱石の輸入数量は増加基調にある。昨年夏場以降、中国景気の下振れでこれらの需要も減退が不可避と見られているが、今のところ、その証拠は見当たらない。

中国向け輸出のシェアが大きいなど、同国との経済的な結び付きが強いと考えられる香港や台湾、韓国、ブラジル、オーストラリアの購買担当者指数(PMI)がいずれも昨年8月前後で底入れしていることを踏まえると、中国景気は落ち着きを取り戻しつつある可能性が高い。

それでも、中国のサーキットブレーカー制度の運用開始と直後の中止が、昨年夏の人民元の対ドル中心レートの決定方法の変更公表とともに、同国政府の金融市場とのコミュニケーション能力の乏しさを露呈したのは事実だ。そのことが足元で市場参加者の中国景気の先行きに対する懸念を一段と増幅させていると筆者は分析している。

というのも、中国経済が十分に開放されていないとの前提に立つと、景気の行方は政府の経済運営手腕に大きく左右されると考えられるからだ。中国の経済指標が正確性で他国に劣るとの見方が根強いことを踏まえれば、政府の経済運営手腕の評価はなおさら重要と言える。

しかも、中国政府は現在、「投資から消費へ」と表現される通り、構造改革に取り組んでいる。国営企業の集約や過剰設備の廃棄などはその代表的な政策だろう。しかし、その改革が前進するほど、政府の関与は困難になる。「皇帝」と呼ばれることのある習近平・総書記であっても、13億人ひとりひとりの嗜好にまで指図することは到底できない。先行して自由化が進む金融市場は、実体経済に比べてさらに統制が難しいだろう。

中国は昨年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設し、人民元の国際通貨基金(IMF)特別引き出し権(SDR)への採用方針を勝ち取った。このことは、中国が世界第2位の経済規模に相応しい地位を獲得しつつあることを示す。当然、国際的に期待される役割も増える。しかし、そこで適用されるルールは自由や公正、透明性など、どちらかというと中国政府に馴染みの薄いものばかりだ。

中国政府が経済運営手腕に対する市場参加者の信頼を取り戻すには時間がかかるだろう。今年の金融市場は昨年以上に中国発の情報に振り回される可能性が高い。

<大荒れの金融相場と堅調な実体経済が共存へ>

「荒れ模様」の金融市場は各国に政策対応を迫る。その際、金融政策よりも財政政策が選ばれるだろう。欧州で昨年、緊縮財政の見直しを掲げる政党が躍進したのは記憶に新しい。今年は日本で参議院選、米国で大統領選を控えている。

次の消費増税に絡む軽減税率の議論や、米大統領選の有力候補とされるヒラリー・クリントン前国務長官がインフラ投資の必要性を強調していることは、筆者の見方を裏付けるだろう。欧州での難民流入、フランスでの同時爆破事件、世界的な地政学リスクの高まりも、積極的な財政政策を後押しする。

こうした各国の事情に加え、世界的に中立金利(均衡実質金利、景気を加速も減速もさせない中立的な金利水準)が低下しているとの見方も、拡張的な財政政策に拍車をかけるだろう。というのも、中立金利の低下は金融政策だけで緩和的な金融環境を作り出すことを難しくすると考えられるからだ。

たとえば、中立金利が4%の経済では、名目金利から予想される物価上昇率を差し引いた実質金利を4%よりも引き下げないと緩和効果が期待できない。中央銀行が2%の物価目標を掲げ、国民もそれを受け入れているとすると、金融政策は名目金利を6%よりも引き下げることで緩和効果を発揮すると考えられる。

しかし、中立金利が何らかの理由で1%まで低下したとすると、緩和効果を発揮する名目金利は3%を下回ることになる。

リーマンショック後は、米国でも中立金利がマイナスにあるとみられている。しかも、一時的とはいえ、予想物価上昇率も低下したと考えられる。米国を含む主要先進国で中央銀行が政策金利をゼロやマイナスまで引き下げ、そのうえで長期金利の低下も促しているのは、中立金利の低下に対応したものと言えるだろう。

こうした考え方に基づくと、中立金利を引き上げることができれば、金融政策を変更せずに緩和的な金融環境を作り出すことも可能である。特に政策金利をプラス圏で上下させる伝統的な金融政策と異なり、上述した非伝統的な金融政策は歴史が浅いだけに未解明なことも少なくない。その分、一段の措置には様々なリスクが潜む可能性もある。そこで、中立金利を押し上げるとされる財政政策の出番となるわけだ。

世界銀行やIMF、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議などは最近、インフラ投資の有効性や必要性に言及することが目立つ。筆者はその背景に、世界的な中立金利の低下という認識があると見ている。

2016年は上述した通り、中国政府のミスコミュニケーションに起因した金融市場の混乱が続くなか、その対応策として財政政策が積極的に活用される年になるだろう。金融市場は暗い幕開けとなったが、実体経済は財政政策が発動される分だけ底堅さを維持する可能性がある。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below