Reuters logo
コラム:ドル110円割れ後の円高進行余地=鈴木健吾氏
2017年4月17日 / 07:21 / 5ヶ月前

コラム:ドル110円割れ後の円高進行余地=鈴木健吾氏

[東京 17日] - ドル円相場は4月11日、約5カ月ぶりに1ドル=110円を割り込むと、断続的に年初来安値を更新し、17日には108円台前半までドル安円高が進んでいる。

1月の当コラムに書いた通り、筆者は2017年のドル円相場について、年序盤の1―3月期には昨年終盤にみられた急激な上昇に対する調整局面を迎えることで、110―117円程度のレンジを想定。その後、4―6月期には、トランプ米政権の景気刺激策や米連邦準備理事会(FRB)の利上げ姿勢、欧州の選挙結果などを評価しつつ、底打ちから上昇に転じ、年後半に120円を目指す展開を予想した。

1―3月のドル円相場は想定通り調整・もみ合いといった展開になったものの、4月に入り、底打ちどころか改めて下方バイアスを強めている。シナリオが狂った要因はどこにあるのだろうか。

<意外に短い「有事の円買い」の賞味期限>

想定外を2点挙げるとすれば、地政学リスクの高まりとトランプ政権の政策執行能力の低さだろう。

地政学リスクはこれまでもくすぶってはいたものの、4月に入り急速に高まりをみせている。3日にロシアで地下鉄爆破事件が発生、5日には北朝鮮がミサイル発射実験を行い、6日には米国がシリアの化学兵器使用を理由に巡航ミサイルで同国を攻撃、11日にはトランプ大統領が北朝鮮問題に関して中国に協力を求める一方、単独でも行動する可能性を示唆したが、16日に北朝鮮は再びミサイル実験を行った。

中でも、シリアに対する米国単独のミサイル攻撃、米中首脳会談前日にミサイル実験を行った北朝鮮の挑発的な行動などは想定外の円高圧力をもたらす要因となっている。

ただ、地政学リスクを根拠とする円買いは現実化しても長続きしないだろう。実際、過去の例では、2003年3月20日の英米軍主体の対イラク攻撃開始後、120円台だったドル円は4月1日にかけて117円台に下落するが、4月11日には120円台を回復。この間、17営業日だった。

2001年9月11日の米同時多発攻撃の際には121円台から9月20日にかけて116円台に下落。しかし、協調介入もあり23営業日後の10月11日には121円台を回復している。

さらにさかのぼり1993年5月29日の北朝鮮によるミサイル実験の時には106円台後半から6月14日にかけて105円程度まで下落したものの、6月17日には107円台に反騰。この間、14営業日にすぎない。

なお、北朝鮮で有事があった場合も円は買われるのかとの質問は多いが、「有事」の度合い次第だ。当初は東日本大震災後にもみられた通り、日本人による海外資産の引き上げ(いわゆるリパトリ)や低金利の円を売り高金利通貨を買う円キャリートレードの巻き戻し、投機筋による「リスク回避=円買い」との思惑が円高をもたらすとみられるが、北朝鮮からのミサイルが日本の領土に着弾すれば自衛権が発動されて日本は紛争の当事者となり円は急落するだろう。

このように、過去の例からは地政学リスクを理由とした円高は限定的となる可能性が高いとみられる。

<トランプ政策、満点は無理でも合格点か>

トランプ大統領の政策執行能力の低さもドル売りの要因となっている。メキシコ国境に壁の建設を命じたまでは勢いもあったが、イスラム圏数カ国からの入国禁止措置は司法に止められて機能せず、人事も遅れ、予算も一部しか提示されず、医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案は採決撤退に追い込まれた。

特にオバマケア代替法案の失敗は、上下両院とも共和党が過半数を握っていてもトランプ大統領の政策がすんなり通るものではないことを強く印象付け、税制改革などの公約に対する懸念にもつながっている。改めてオバマケア代替法案に関する審議が進んでいるとの報道もあるが、税制改革やインフラ投資などを含めトランプ政権の政策が思惑通りに進むことは難しいようだ。

ただ、リパトリ減税などいくつかの政策については実現する可能性が高いとみており、100点とはいかなくとも60点程度の景気刺激策は結実するのではないか。

景気刺激策で一定の成果が示されれば、保護主義姿勢はやや後退する可能性もある。3月23日にオバマケア代替法案の採決を見送ってから2週間後のシリアへのミサイル攻撃や3週間後の「ドルは強すぎる」発言は、内政の失態を地政学や保護主義にすり替えることで取り繕おうとしている感が強い。

トランプ大統領は選挙期間中、大統領になったら初日に中国を為替操作国に認定すると発言し、FRBの低金利政策を批判、イエレンFRB議長には(決め台詞の)「You’re fired」と言い渡すとしていたが、直近、中国を操作国には認定しないとし、低金利政策が好きで、イエレン議長を尊敬していると発言している。

経常赤字国でファイナンスを対内証券(米国債)投資で賄っている米国にとってドルの安定は極めて重要であることをどこかで認識すれば、発言もコロッと変わるかもしれない。

<105円手前で底打ちか、年末115円超の予想堅持>

トランプ政権の政策に関しては夏休み前の7月頃が次の山場となりそうだ。事実上の予算教書は5月とされるなか、議会が急げばこの頃、予算審議が盛り上がるとみられる。予算がより固まるに従って、出来ることや出来ないことが分かってくるだろう。

また、通商問題にしても、貿易不均衡を調査して90日間で報告書にまとめることを命じた大統領令(3月31日)や、米中首脳会談(4月6―7日)で合意した「100日計画」策定、6月末以降とされるメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉などが7月頃に重なってくる。

それまではトランプ政権の政策に対しては期待よりも懸念の方が強く、ドル円相場にとっては上値抑制要因となるだろう。前述の地政学リスクや結果の出ていないフランス大統領選挙と合わせ、ドル円は5月にかけて下値模索となる可能性が強まっており、筆者も4―6月期の想定レートを105―115円に引き下げた。

ただ、1)2019年に向けた中長期的なFRBの利上げ姿勢、2)トランプ政権の一部景気刺激策が実現に向かうとみられること、3)日銀の緩和姿勢継続、4)欧州の選挙が無難な結果となり地政学リスクによる円買いは長続きしないこと、などを前提に引き続き年末にかけては115円を上回る展開をメインシナリオとしている。

18日の日米経済対話や23日のフランス大統領選挙(第1回投票)などを控え、ドル円は17日東京時間昼現在1ドル=108.10円近辺まで下落している。この水準は、日銀短観3月調査における大企業製造業の想定為替レート108.43円や、1年間の平均値である52週移動平均線108.30円近辺を下回る。テクニカル的にはこの水準を明確に下抜けると、心理的節目105.00近辺まで下落するリスクが出てくる。

ちなみに、昨年11月8日の米大統領選挙日のニューヨーク終値は105.15円、FRBが利上げに踏み切った12月14日の終値は117.05円、同3月15日の終値は113.39円だ。105.00円まで下落すると、これまでの2回の利上げ実施と今後の利上げ期待(FRBは2019年まで年3回ペースで利上げ実施を想定)、トランプ政権の景気刺激策への期待はきれいさっぱり吹き飛ぶことになる。

それだけフランス大統領選や地政学リスクに対する懸念が強いのかもしれないが、個人的には違和感が拭えない。105円に至る前に底打ちとなる展開を想定している。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below