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コラム:日本は「ドル106円」を許容できるか=鈴木健吾氏
2016年2月19日 / 09:48 / 2年前

コラム:日本は「ドル106円」を許容できるか=鈴木健吾氏

[東京 19日] - ドル円相場は日銀のマイナス金利導入を受け、1月末に121.70円まで上昇したが、原油価格や米中経済、欧州金融機関のクレジットなどに対するリスクが台頭し急反落。節目として意識された115.00円も割り込むと、2月11日には110.99円まで下落した。

筆者は、1月末の欧州中央銀行(ECB)による3月の追加緩和予告や前述した日銀の行動などによって、市場の焦点がリスクから金融政策やファンダメンタルズに回帰し、ドル円は120円近辺の推移となる展開を想定していた。しかし、わずか10営業日で昨年1年間の値幅を超える投機的な急変動の波に飲み込まれ、水準自体が下方シフトしてしまった。

前回1月22日のコラムで「テクニカル的には115円を下抜けると一気に110円近辺に急落する可能性を示唆している」として、実際そうなった通り、テクニカル的には比較的きれいな値動きとなっている。目先、ここからさらに下押しした場合のレジスタンスは心理的節目とされる110.00円だが、ヘッド・アンド・ショルダーやフィボナッチ級数などのテクニカル分析では106円近辺が次の下値の目標として意識される。

2014年終盤以降のドル円チャートは真ん中の大きな3つの山、いわゆるヘッド・アンド・ショルダーの形を描いており、このネックラインとされる115―116円の水準を下回ったことで下落バイアスを急激に強める動きとなった。この場合、教科書的にはいったん反発してネックラインをトライする展開となるが、これが抜け切れないと改めて下方トレンドを強める形となる。

直近では110.99円をつけた後に反発を見せ、2月16日に114.87円まで値を戻しながらも115―116円を抜け切れずにいることから再び下方バイアスが強まる可能性がある。改めて下落した場合の目標価格は、ネックラインからヘッド・アンド・ショルダーの高値までの値幅と同程度、ネックラインを下回った水準となる。数字を当てはめると、高値は昨年6月につけた125.86円(約126円)。ネックラインを約116円とするとその値幅は約10円程度となり、106円近辺が目標値となる。

また、過去の値動きを見るとドル円は11年10月31日に安値75.32円をつけた後、上述したように昨年の125.86円まで上昇しているが、フィボナッチ級数を使ったテクニカル分析では38.2%押しとなる106.55円近辺が1つの節となる。ここでも106円という数字が出てくる。テクニカル的な下値の目途としては、心理的節目110.00円および106円近辺が重要となろう。

<アベノミクスも黒田日銀緩和も吹き飛びかねない>

ただ、実際問題として日本政府・日銀が106円という水準を容認できるのか、という問題がある。12月の日銀短観で示された大企業製造業の15年度の想定為替レートは119.40円。106円まで下落すれば1割以上の大幅下落となり、輸出企業を中心とした業績悪化やこれを受けた株価の下落は避けられまい。10%の円高は東証1部上場銘柄の経常利益を6%程度下押しすると試算される。

また、過去の相関からは1ドル=106円近辺となれば日経平均株価は1万4000円水準への下落が想定される。このような状況ともなれば政府・日銀が期待する企業の賃上げは当然、不可能な話になるだろう。そればかりか、あれだけ軽減税率で紛糾した来年の消費増税も延期論が台頭するかもしれない。

加えて、原油価格が低迷する中でその水準まで円高が進めば、輸入物価の下落により消費者物価はマイナスとなり、事実上デフレ状態に後戻りするだろう。10―12月期の国内総生産(GDP)が前期比年率マイナス1.4%となった中、株安、円高、デフレともなれば、これまで積み上げたアベノミクスも黒田日銀緩和も吹き飛びかねない。

一方で、容認できなければどうするか、という問題もある。介入によってドル円相場の水準を押し上げれば「近隣窮乏化策」との批判とともに通貨安競争の引き金ともなりかねない。水準ではなく無秩序な動きをターゲットとしたスムージングオペレーションの可能性はないではないが、それでも相当ハードルは高いだろう。

現実的には、目先は「ファンダメンタルズを反映しない投機的な動きには断固たる措置で対応」などといった口先介入でけん制、基本的に110円水準を割り込む円高は容認しない姿勢であることを市場に示し、いずれかのタイミングで日銀が追加緩和に踏み切るといった形で対応せざるを得ないだろう。

<ドル円のレンジは109―123円に修正>

さらに効果が大きいと思われるのが、国際的な協調姿勢を示すことだ。今回の円高もリスクオフを通じた金融市場の混乱が引き起こした面が強く、この混乱に対しては多くの国が懸念を共有している。

過去、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では「資金フローの過度の変動及び為替レートの無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響」(13年のロシア会合)といった文言を声明に盛り込んだことがあるが、これ以上の強い表現で市場の混乱に対するけん制を行うことができれば一定の安心感にはつながるだろう。

また、日米欧などの中銀が市場混乱の沈静化と世界経済への配慮という点で連携を示せば、同様に一定のインパクトをもたらすだろう。

2月末から3月半ばにかけてはこれを可能にするイベントが並ぶ。2月26―27日には上海でG20財務相・中央銀行総裁会議が開催され、3月5日からは中国の全国人民代表大会(全人代)。同月10日には追加緩和がほぼ確実視されるECB理事会が行われ、14日から15日は日銀金融政策決定会合、15日から16日は米連邦公開市場委員会(FOMC)が予定されている。

これら一連のイベントの中で協調姿勢を示すことができるかが、市場に蔓延した過度の悲観論や急激な円高を阻止するうえで非常に重要なポイントとなる。基本的には何らかの協調や日本政府・日銀の行動などによりドル円は節目110円を割り込んだとしても一時的で、この水準は下支えられる展開を想定している。

サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁は12月にスタートした米国の利上げに関し、緩やかなペースで進むため「3年程度かかる可能性がある」と発言している。一方、日銀は1月に緩和を実施し、年内も追加緩和が期待されているほか、消費増税が予定される来年以降も緩和姿勢を継続するだろう。今後3年程度、「米国は利上げ、日本は緩和」という状況が見えている中で、ここまでドルを叩き売って円を買う動きには正直なところ違和感がある。

しかし、年明け以降の急激なリスクオフはわれわれの想定を超えるものであり、ドル円は年末時点の下値の予想115円を下回ってしまった。新たな下値目途としては上記のような考え方などから109.00円を提示し、一方で上値も従来から切り下げ、123円程度を想定している。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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