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コラム:「黒田フロアー」はドル99円にリセットか=鈴木健吾氏
2016年9月26日 / 07:31 / 1年前

コラム:「黒田フロアー」はドル99円にリセットか=鈴木健吾氏

[東京 26日] - 日米の金融政策決定会合は、いずれも政策そのものの変更は行わなかった一方で、今後に含みを残すものだった。そのため、様々な解釈が飛び交うなか、為替市場でも消化が進んでいる。

日銀については緩和政策の枠組みが大きく変更された。各論に対する様々な解説を目にするが、全体としては、あくまで緩和の継続と強化に向けた方向性が示されている。

量的緩和は金利を中心とした枠組みに変更し、目先は指摘されていた物理的な限界を取り払った。インフレ率2%の達成時期があいまいとなる代わりに「オーバーシュート型コミットメント」を導入し、サプライズを通じた短期決戦型から市場との対話を通じた長期持久戦型へと舵を切った。

マイナス金利導入による金融機関への悪影響や、インフレ見通しを引き下げるたびに市場から追加緩和を催促される悪循環を排除し、マイナス金利の深掘りや購入対象資産の拡大といった「切り札」は温存している。

一部には10年金利のゼロ%目標や80兆円の国債購入額があいまいとなったことなどに対してテーパリング(緩和縮小)的な要素を指摘する向きもあるようだが、各論だろう。総論としては、改めてインフレ率2%達成に向けて強力に緩和を進めていくために従来の枠組みを調整したものであり、必要に応じた行動をとる準備がなされたとみられる。

とはいえ、これまではインフレ見通しをにらみつつ、日銀による必要に応じた行動のタイミングを予想しやすかった。今後、どのような場合が行動のタイミングとして重要となるだろうか。その重要なタイミングの1つとして、ドル円の年初来安値1ドル=99.00円割れがトリガーになるのではないかと筆者は考えている。

<軽視できない輸出企業の業績悪化懸念>

日銀の上場投資信託(ETF)購入などによって株価が堅調に推移しているため、対ドルでの95円割れから90円程度の円高は容認されるのではないかとの話も聞かれるが、あまり本質的ではない。

若干古いデータになりつつあるが、7月公表の日銀短観によれば、大企業製造業の想定為替レートは111.41円。また、内閣府が2月に公表した企業行動に関するアンケート調査によれば、輸出企業の平均採算レートは103.20円だ。

ざっくりと言えば、ドル円が111円以下に下落すれば、「想定レート」を下回ることで輸出企業業績は減益となり、103円以下では、「採算レート」を下回ることで輸出企業の業績は赤字になる計算だ。

最近では、企業努力や実際の相場動向を反映することにより、対ドルの想定為替レートは110円から105円程度に下方修正されているとみられるが、それでも100円の節目や年初来安値99円を割り込めば過半の輸出企業が赤字となる可能性が出てくる。

当たり前のことだが、企業業績が赤字になれば雇用が手控えられ、所得は減少するだろう。これは消費の減少へとつながり、改めて経済の悪循環が強まる。株式市場にもいずれ反映され、アベノミクスや日銀のインフレ目標にも大きな阻害要因となるだろう。

日銀決定会合の翌日22日、祝日にもかかわらず、財務省・金融庁・日銀が臨時で会合を開き、為替市場での投機的な動きに対するけん制を行ったのも、明らかに1ドル=100円割れに対する警戒感の表れとみられる。

日銀の政策は対話を通じた長期持久戦へ移行と書いたが、すでにメッセージが発せられているのかもしれない。「アベノミクス加速国会」が召集されるなか、対ドルで100円もしくは年初来安値99円割れは日銀による追加緩和のトリガーとなる可能性が高いのではないか。筆者の読みが正しければ、この水準は新たな黒田日銀フロアーとして意識され、ドル円相場を下支えすることになるだろう。

<米利上げ12月実施の現実味>

米金融政策もドル円のサポート要因として期待できる。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げは見送られたが、声明文で「利上げの根拠が強まった」としたほか、イエレン連邦準備理事会(FRB)議長の会見内容に照らしても、もはや「利上げをすべきかどうか」ではなく「いつすべきか」の議論に移っているとみられる。

FOMC参加者のフェデラルファンド(FF)レート予想やイエレンFRB議長発言からは2016年のうちに利上げを1度実施することが多数意見となっていることが示されているが、次回11月1―2日の会合は直後の8日に大統領選挙を控えている。

つまり、経済・市況の急激な悪化など「何か」が起こらずに、現状の緩やかな景気回復が続けば、12月13―14日のFOMCでは利上げを実施する可能性が極めて高いことが9月の会合で示された形だ。

もちろん、経済指標の大幅悪化や海外でのリスクの高まりなどがあればシナリオは修正されるとみられる。今回利上げ見送りの理由とされた雇用のスラック(余剰)や2%に達していないインフレ率が、果たして12月までに改善するのかという問題もある。

加えて、トランプ大統領誕生や英国の欧州連合(EU)離脱騒動再燃など欧米の政治・金融リスクが円高をもたらす可能性にも警戒が必要だ。

だが、原油価格急落や中国経済への懸念といった年前半にかけて円高をもたらしたリスク要因は、すでに後退している。約半年で一方的に20%も進んだ円高に対する過熱感もある。また何より、ここまでFRBが12月の利上げ実施に意欲を示せば、市場はこれを意識せざるを得ず、基本的には今後のドル相場の下支え要因となるだろう。よって、年末にかけて105円から110円程度に反発するとのドル円のメインシナリオを筆者は引き続き堅持したい。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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