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コラム:「ロシアゲート」疑惑は円高の扉を開くか=鈴木健吾氏
2017年5月17日 / 07:42 / 4ヶ月前

コラム:「ロシアゲート」疑惑は円高の扉を開くか=鈴木健吾氏

[東京 17日] - 相変わらずトランプ米大統領の周辺が騒がしい。ここにきてロシアに関する疑惑が強まっている。

9日には、ロシアによる昨年の米大統領選への関与を捜査しているとした米連邦捜査局(FBI)のコミー長官を突然解任。捜査つぶしではないかとの見方から、ニクソン大統領が自らの不法行為との関係を捜査していた特別検察官を解任し、正副司法長官を辞任させたウォーターゲート事件にちなみ、「ロシアゲート」という言葉も飛び出した。

さらに10日にホワイトハウスで会談したロシアのラブロフ外相とキスリャク駐米大使に機密情報を漏えいしたとの報道も流れている。

ドル円は4月半ばの108円台前半から5月に入り114円台まで上昇してきたが、一部経済指標の弱さやこのロシアゲート疑惑などを背景に調整的な値動きをみせている。テクニカル的には目先111円台後半程度への短期的な調整はありそうだ。

もちろん、このロシアゲート疑惑がトランプ大統領の罷免にまで発展する恐れが強まれば、いったんは大幅なドル売りとなる可能性もあり要注意だ。アメリカ合衆国憲法第2章第4条には、大統領は何らかの犯罪行為があった場合、弾劾訴追を受けて有罪となれば罷免されることが決められている。

弾劾裁判を行うかどうかは、同憲法第1章第2条第5項に「弾劾の訴追権限は下院に属す」としており、下院が審議し賛成多数で実施が決定する。さらに弾劾裁判は、第1章第3条第6項「弾劾裁判を行う権限は上院に属する」「合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合・・・何人も出席議員の3分の2の賛成がなければ有罪となることはない」とされており、上院の3分の2の賛成をもって罷免が決定することとなる。

まずは、トランプ大統領に犯罪・違法行為があったかどうかだ。大統領には機密情報に関して広範な権限があり、上記ロシア外相への漏えいは(元の情報を提供してくれた国に対する信義的な違反ではあるが)違法ではないようだ。2016年の大統領選でトランプ陣営とロシアが結託していたことが証明されるかどうかといったところだが、こればかりはわからない。

常識的には、トランプ世代は米ソ冷戦時代の真っただ中を生きてきており、ロシアと組むとは思えないことや、シリアへのミサイル攻撃後にロシアとの関係が悪化していることなどから、結託はないのではないかと思われる。無罪であるなら案外とロシアゲート疑惑は短期で忘れ去られるかもしれない。

<ドル120円予想の前提を再点検>

ただ、中長期的にもドル円相場の先行きにとって、トランプ大統領の動静は大きなカギとなっている。

前回のコラムにも書いた通り、筆者は、年末にかけて1ドル=120円方向へのドル円の上昇基調を想定しているが、その前提は、1)トランプ政権の景気刺激策、2)米国の緩やかな景気回復の継続とそれを受けた米連邦準備理事会(FRB)の利上げ姿勢、3)日銀の緩和姿勢継続、4)欧州政治、地政学、原油価格や中国経済などを巡るリスクの後退、である。

このうち、FRBの利上げと日銀の緩和はかなりの確度で来年にかけて継続しそうだ。リスクについてはそもそも予想が難しいが、中道派のマクロン氏の勝利で終わったフランス大統領選を経て欧州政治リスクは後退し、原油も減産継続が報道されるなど一定の改善がみられる。難しいのはトランプ政権の動向だ。

トランプ政権の動向がドル安の材料になるとすれば、1)貿易赤字・通商問題に絡んで強くドル安志向を打ち出すか、2)3月後半に警戒されたように執行能力に対する不安や機能不全に陥る懸念が強まる場合だろう。一方で、それなりの政権運営を行い、減税策などにおいて満点でなくともある程度の景気刺激策を実現化できれば、すでに上向いている景気や利上げペースは加速し、ドル高につながるとみられる。

通商問題に関しては直近、強硬派とされるライトハイザー氏の通商代表部(USTR)代表の就任によってドル安圧力が警戒されているようだが、基本的には同氏による交渉は制度や税制、協定などが中心となり直接的なドル安圧力は限定的とみている。

そもそもトランプ政権の掲げる貿易赤字の縮小は、それ自体が目的ではない。相手国の市場開放を促して米国製品の購入を増加(バイ・アメリカン)させ、対米輸出の自主規制によって米国産業を保護、直接投資や生産移転を勝ち取る(ハイヤー・アメリカン)といった米国の利益につながらなければ意味がない。

特に最大の貿易赤字相手国であり選挙中の公約でもあった中国の為替操作国認定を(北朝鮮問題もあって)見送った中で、通貨安圧力よりも制度や協定を通じた通商交渉が前面に打ち出されることになるだろうとみている。

<実は前進しているトランプ政策運営>

通商問題がドル安圧力につながるとすれば、米国内の政策運営がうまくいかず、前述した2番目のリスクのようにトランプ政権が機能不全に陥り、そのスケープゴートとして「外国が通貨安を通じて米国に不利な通商戦争を仕掛けている」などと言い始めた時だろう。

ただし、そうした状況に陥る可能性も後退している。トランプ政権は人事や予算などに遅れがみられ、ほとんど政策が進んでいないように思えるが、実際には、大統領権限で実行できる政策については迅速にそうしている一方、議会との協力が必要となる政策については遅れているという状況だ。特に規制緩和のための大統領令を連発して公約に沿った改革を推し進めるなどしており、就任後100日間の大統領令は32件にのぼる。これはオバマ前大統領の19件やブッシュ元大統領の11件などを大きく上回る。

一方、議会との協働姿勢についてもここにきて若干変化がみられ始めている。4月末には暫定予算の延長を巡って、メキシコ国境の壁の建設費が問題となったが、トランプ大統領は来年度の予算でもよいと一定の譲歩を口にした。また、一度は撤回した医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案についても細かい調整を行うことで、下院通過に成功している。今後さらにトランプ大統領が現実路線へ軸足を移すことで、政策運営がより円滑化に向かい、政権に対する不安は後退するのではないかと期待している。

トランプ大統領が罷免されず、また通商政策でも通貨安圧力よりも制度や協定を前面に出した交渉が行われ、政権が機能不全にならずに一定程度の景気刺激策が現実化すれば、結果としてドルは上昇し、ドル円も115円を超える動きとなるだろう。

ただ、本当にそうなるか、目先はその動向をにらむ展開が想定される。ドル円は4月の108円台への下落を5月に挽回し、1月半ばから3月半ばにみられた111円台半ばから115円台半ばのレンジに戻ってきた。夏休み前、7月頃にかけて来年度予算や通商交渉を巡って動きがあるとみられる中、目先はこの111円台半ばから115円台半ばでのもみ合いを想定している。

そしてその後、トランプ大統領の政策やFRBの利上げペース、欧州の政治リスク後退などを確認しながら上記レンジをドル高円安方向へブレークしていく展開を引き続きメインシナリオとしている。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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