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コラム:ドル円、ロシアゲート乗り越え上昇へ=尾河眞樹氏
2017年7月14日 / 02:29 / 3ヶ月後

コラム:ドル円、ロシアゲート乗り越え上昇へ=尾河眞樹氏

[東京 14日] - トランプ米大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏が大統領選中に、父親にとって有利な情報を得ようと、ロシア政府の弁護士という触れ込みの女性、ナタリア・ベセルニツカヤ氏と面談した問題が波紋を呼んでいる。

トランプ・ジュニア氏本人が仲介者とのメールのやり取りをツイッターに公開したわけだが、そもそもなぜこのようなメールを公開したのかは不明だ。どうやら「結局、ロシアから何も情報は得ていない」と言いたかったようだが、米連邦選挙運動法によれば、外国籍を有する人物が米国の政治運動に寄与することは違法で、その貢献を求めることも禁じられている。

このメールのやり取りが、トランプ・ジュニア氏を含めたトランプ大統領の親族や周辺へのさらなる捜査につながる可能性は拭えないだろう。場合によってはこのメールが「ロシアに対し選挙への貢献を求めている」と見なされれば選挙違反となる可能性も浮上する。

為替は、トランプ政権とロシアとの癒着疑惑(ロシアゲート問題)を巡る、この新たな報道を受けて、円高・ドル安に反応。112円台後半まで下落する場面もあったが、筆者はこうしたドル円の反応は一過性のものとみている。

<トランプ大統領罷免リスクは低い>

その理由は主に3つある。第1に、この報道があっても、ドル円は下落したものの米株価は堅調なままで、市場全体でみればリスクオフには傾いていないことが挙げられる。

トランプ・ジュニア氏は「ベセルニツカヤ氏との面会については、父に話していない」と発言、トランプ大統領も「知らなかった」としており、本件だけでトランプ大統領の進退に関わる問題には発展しにくいとみているようだ。

仮に違法行為があったとして、弾劾手続きを実施するのは上下両院で共和党が過半数を占める現状においては現実的でない。弾劾に至るまでには、1)下院本会議で過半数の賛成をもとに大統領を弾劾訴追、2)上院で弾劾裁判、3)3分の2の賛成をもとに大統領罷免、というプロセスが必要だ。

また、たとえそうしたプロセスを踏んで、トランプ大統領が罷免されるようなことがあっても、憲法上、現副大統領のマイク・ペンス氏が大統領に就任するため、むしろマーケット・フレンドリー(市場にとって好材料)ではないか、とみる向きもある。

今後もこの問題がしばしばドル円の上昇に水を差す可能性は高いものの、円高・ドル安トレンドに転換するほどの材料にはなりにくいだろう。

<米長期金利は緩やかな上昇局面入り>

第2に、年初から6月中旬まで米長期金利の低下を促してきた要因が徐々に変化していることが挙げられよう。

米長期金利の低下は、期待インフレ率の低下、景気減速懸念、米国債への需要の高さが主な要因だったとみている。原油価格に底打ち感が出た6月中旬以降、市場参加者の期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率(米国債とインフレ連動債の利回り格差)はじわりと回復している。

米国の景気減速懸念については、製造業・非製造業の景況指数や雇用統計など、7月第1週以降発表されている米経済指標がおおむね良好だったことから後退しつつある。経済指標に対する市場予想と実績のかい離を示すエコノミックサプライズ指数も、マイナス80からマイナス56までマイナス幅が急速に縮んでおり、米経済指標への極端な「失望感」が大きく後退していることが見て取れる。

さらに、米国債への需要については、独国債利回りの上昇が影響を及ぼしそうだ。6月中旬に0.2%付近まで低下した独10年債利回りは、足元で0.60%程度まで上昇している。ユーロ圏の景気回復と、欧州中銀(ECB)の量的緩和縮小の可能性が意識されたことが背景だ。

米国債の利回りは低水準とはいえ、これまで独国債に比べればはるかに魅力的だった。独国債の利回り上昇によって、米国債に偏重していた投資マネーが分散すれば、需給バランスにも変化がみられる公算が大きい。

米商品先物取引委員会(CFTC)が公表している投機筋による米10年債の持ち高をみると、2017年7月4日時点では、約26万枚の買い越しとなっており、6月20日時点のピーク(約37万枚)から小幅に減少した。ピーク時には、リーマン・ショック前の2007年12月時点の持ち高水準まで膨らんでいたが、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、年内にバランスシート縮小を開始する方向性が明示されたことで、買い越しが減少している。

米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は7月12日の議会証言で、バランスシートの縮小について、「比較的早期に始めるべきものだ」と述べた。当社は9月にバランスシートの縮小が開始されるとみているが、その可能性を先取りすれば、7―8月頃からじわりと米国債のポジション調整が始まってもおかしくはない。

米国の低インフレはしばらく続きそうだが、低下し過ぎた米国債利回りは徐々に上昇する公算が大きく、ドル円は緩やかな上昇トレンドに入ったとみている。

<「ゴルディロックス」長期化の可能性>

第3の理由は、ゴルディロックス相場だ。このように、緩やかな景気拡大と低インフレの組み合わせは、「ゴルディロックス」、いわゆる「適温経済」と呼ばれる。過度なインフレでもなくデフレでもなく、ちょうど良い環境であることを示す。こうした環境下では、緩和的な金融政策が維持されることにより、株価の上昇をもたらす。

振り返れば6月の為替市場も、主要通貨で低金利の円やドルが売られる一方で、豪ドル、加ドル、NZドル、メキシコペソ、ユーロなどが上昇した。ドルと円の力関係では円の方が弱く、総じてみれば「円<ドル<ユーロ<高金利通貨」という順序になり、典型的な「リスクオン」の形態となっている。

したがって、高金利通貨に対しては「ドル安・円安」の綱引きとなるが、リスクオンの環境下では円の下落圧力の方がドル安より若干強くなるため、今後ドル円は狭いレンジ相場ながら、じりじりと底値を切り上げていくような、緩やかな上昇トレンドを描くことになるだろう。

今回のトランプ・ジュニア氏関連のニュースが引き金となった調整局面においては、90日や200日移動平均線が収れんする111円台半ばから後半がサポートされるかが鍵とみている。同水準を割れなければ、上昇トレンドが維持され、ドル円は近々115円を試す展開となろう。

ドル円と日米10年債利回り格差との相関性は、昨年6月以降相関係数が0.92と非常に高い。当社は米10年債利回りが今年末に2.5%付近まで上昇するとみており、上述した相関性をもとに計算すると、ドル円の年末予想値は118円ちょうど付近となる。ドル円が120円を試すのは来年になるだろう。

このシナリオに対するリスク要因は、予想外に米国のインフレ率が急激に加速し、金融引き締めを急がなければならないケースである。この場合、金利上昇によって、ドルは名目実効レートベースでは上昇するものの、株価の下落を伴ったリスクオフとなるため、ドル円では円高が進行しよう。

ただ、このリスクシナリオに陥る可能性は低いのではないか。前回米国経済が「ゴルディロックス」と言われたのは2005―07年、まさにリーマン・ショック直前までの景気拡大期だった。その時と比較して現在の方が、米国経済はより緩やかに成長し、インフレも低水準、金融政策も緩和的で、はるかに「適温」といえる。こうした環境は予想以上に続く可能性が高い。

来年いっぱいは緩やかなドル高・円安が継続し、ドル安トレンドの到来は2018年末から2019年以降とみている。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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