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コラム:日本経済はトランプノミクスに乗れるか=岩下真理氏
2017年2月13日 / 08:44 / 8ヶ月前

コラム:日本経済はトランプノミクスに乗れるか=岩下真理氏

[東京 13日] - 10日に行われた安倍晋三首相とトランプ大統領による初の日米首脳会談は、事務方の説明努力もあって為替と金融政策は議題に上らず無難に終了した。市場にはいったん安心感が広がろう。

日米同盟や経済関係については、全体として大きな枠組みの話にとどまったが、日本からのインフラ投資で、例えば高速鉄道の建設が米国の雇用増加に資するなどトランプ大統領の希望に沿う内容を提示したのだろう。

両首脳はハグに堅い握手を交わし、笑顔を絶やさずに親密ぶりをアピールした。1月31日に日本を厳しく批判した「トランプ発言」は、やはり会談前に自分に有利な状況を導くための交渉術だったことが分かる。

<日本批判は当面封印か、ドル円は下値固めへ>

今後は、麻生太郎副総理とペンス副大統領で新経済対話を創設し、進めていくことになる。為替については、財務長官に指名されたムニューチン氏の承認が遅れており、交渉相手がそろうまで協議は進まないだろう。よって、トランプ政権からは目先、痛烈な日本批判は出にくい状況と思われ、日銀は2%の物価目標達成のための長短金利操作を淡々と続けることが可能だろう。

ドル円も目先は下値固めが見込まれる。新経済対話が始まってからは、協議に紆余曲折は考え得るが、ペンス副大統領に任せる以上、従来に比べ日本名指しの「トランプ発言」は出にくくなるのではないか。

28日には、トランプ大統領が米議会の上下両院合同本会議で経済などの基本政策を示す演説を行う予定だ。選挙活動中は、現行35%の法人税率を15%まで引き下げると主張していた。一方、共和党案は20%までの引き下げ。税政策に関してトランプ大統領が言う「驚異的」という形容詞の意味するところが気になる局面だ。

また、分かりにくいとトランプ大統領が指摘していた国境調整税の取り扱い、最高税率の39.6%から33%への引き下げを主張していた所得減税の行方も注目される。

後者については仮に税率を下げる方針を公言しても、その分の歳入減少に対して、インフラ投資などの財源をどう確保するのか示さなければ、政策の実現性や効果に信憑性はない。収支を明確にする予算教書の発表日はいまだ不明だ。また、政権の税制改革の方針が、そのまま議会で承認されるとは限らず、不確実性は残りそうである。

よって、市場では「驚異的な」計画発表時にいったんの材料出尽くしが見込まれる。その後は、議会との協議を見守る時間帯に移行しよう。これが意外と時間がかかるかもしれない。就任100日となる4月末までに立法措置を目指しつつも、どうなるかは読み切れない。

そうなると市場は、それ以外の米利上げ動向や欧州政治を材料にする可能性が考えられる。「トランポリン相場」の第2幕(米10年債の2.3―2.6%のレンジ)は続こう。

<GDP統計「希望の光」は設備投資の健闘>

日米関係に安堵感が漂う状況下、足元の日本経済は緩やかな回復を続けている。13日朝発表の10―12月期実質国内総生産(GDP)1次速報値は、前期比0.2%増、年率1.0%増と4四半期連続のプラスとなり、市場予想平均の年率1.1%増にほぼ近い水準となった。

世界経済の回復と原油価格の安定を背景とした輸出主導の成長であり、内需に弱さが見えた。輸出は米中向けの自動車とIT関連がけん引役だ。内需では停滞する個人消費、失速し始めた住宅投資に対して、設備投資の健闘が希望の光だ。それでも先行きはトランプ政権の不確実性が高いことから、楽観的にはなれない。日本経済にとっては、トランプノミクスの波にうまく乗って、外需主導での緩やかな回復を持続し、デフレを脱却することが望ましい姿だろう。

個人消費は前期比0.01%減と4四半期ぶりのマイナスに転じた。財・サービス別支出を見ると、耐久財は増加に寄与したが、半耐久財と非耐久財が足を引っ張った。パソコンやテレビなどの家電販売は好調だったが、暖冬の影響で冬物衣料は販売不振、野菜価格の高騰で節約志向が強まったようだ。

雇用者報酬は前年同期比で実質2.0%増と7四半期連続のプラスながらも、プラス幅は縮小。所得面の持続的な後押しがあっても、天候要因や先行き不安に伴う節約志向が強ければ、消費は低迷する状況だ。

ただし、販売統計の商業動態統計の強さに比べて需要統計の家計調査はかなり弱い。特に12月は円安と株高進行を受けて、百貨店では高額品の売り上げが好調だった。家計調査の弱さが反映されるGDP統計の個人消費の数字よりも、消費の実態はしっかりだと筆者はみている。統計改善に意見できるなら、GDP個人消費の推計方法を変えることも一案ではないだろうか。

次に住宅投資は前期比プラス0.2%と大きく鈍化。日銀のマイナス金利政策の効果一巡に加えて、相続税対策による貸家ニーズも値崩れによりメリットが薄まり、住宅着工に頭打ち感が強まっている。当面、冴えない動きが続きそうだ。

一方で、設備投資は前期比プラス0.9%としっかり。更新需要に加え新規の情報化投資も増えており、ソフトウェアや通信機器が押し上げた。IT関連がけん引役となる「生産増」「輸出増」「設備投資増」の前向きなサイクルがワークし始めたのは、朗報だ。

<緩やかな回復持続へ、不安は自動車生産>

では、今後も回復軌道を進んでいけるのか。9日発表のESPフォーキャストの2月調査(回答期間は1月26日から2月2日)の予測平均は、1%台前半の成長率の推移が2018年1―3月期まで続く見通しである。内閣府がGDP基準改定後に推計したプラス0.8%とされる潜在成長率をやや上回る、緩やかな回復は持続できるとの見方が主流だ。

目先の1―3月期は、第2次補正予算の効果により、公共投資は持ち直そう。製造工業生産予測指数の前提では1―3月期は前期比4.2%増と強いが、直近の実現率下ぶれを考慮すると、鉱工業生産は1%台にとどまる可能性が高いとみる。それでも半導体関連は、中国スマホ向けや自動車の自動運転技術向け受注で強さを維持しているようだ。

しかし、トランプ大統領の米国第一主義の意向を踏まえると、今後の不安材料は自動車の生産(全体の2割弱のウエート)だろう。日本メーカーは米企業との提携などを画策するが、新経済対話の行方次第では、現地生産比率を高める可能性もあり、注意は必要だ。

最後に、10―12月期のGDPデフレーターは前年同期比マイナス0.1%と2四半期連続の低迷となったが、国内需要デフレーターで見ると、同マイナス0.3%とマイナス幅は7―9月期のマイナス0.8%から縮小した。エネルギー価格の反転と円安定着により、プラス圏に向けて歩を進めてはいるが、デフレ脱却にはまだ時間が必要だ。

昨年11月下旬以降、ドル円で110円を超える円安が定着しつつある。これが半年ぐらいのタイムラグを伴って、物価押し上げに働くだろう。筆者は夏場に、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比プラス1%が視野に入るとみている。

むろん、日銀の2%物価目標はまだ遠い。来年度にサービス価格の押し上げが広がるのか、食料品の値上げだけが進み、消費者の節約志向が再び強まってしまうのか、2017年も企業にとって価格設定の「試練の年」となりそうだ。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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