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コラム:トランプ氏と市場、ハネムーン後の現実=岩下真理氏
2017年4月18日 / 09:53 / 5ヶ月前

コラム:トランプ氏と市場、ハネムーン後の現実=岩下真理氏

[東京 18日] - トランプ米大統領就任から、もうすぐ3カ月となる。政権発足から100日間はハネムーン期間と呼ばれるが、トランプ大統領の場合、一部世論調査でオバマ前大統領の任期中の最低支持率を更新するなど、国民・メディアとの関係はとても「蜜月」とは言えない状況だろう(ただ米株市場では依然、大統領選以降のハネムーンは辛うじて続いていると言えるかもしれない)。

選挙期間中に示していた就任100日計画では、「トランプノミクス」と称される大幅減税とインフラ投資による財政拡大の立法措置を掲げていたが、スケジュールは大幅に後ずれしている。

最初のつまずきは、閣僚人事と、各省スタッフの任命・承認の遅れだ。事務作業が後ずれするのは、ある意味、必然的なことだ。慣例に従えば1月下旬の一般教書演説が2月28日に遅れ、通常なら2月上旬発表の予算教書(簡易版)が3月16日に予算案概要という形となり、具体的な税制改革は盛り込まれなかった。

選挙公約に掲げていた医療保険制度改革法(オバマケア)代替案では議会との調整が難航し、3月24日には撤回せざるを得ず、市場を失望させた。4月17日の英紙とのインタビューで、ムニューシン財務長官は、税制に関する法案を8月までに成立させる目標は「極めて大胆であり、現時点で現実的ではない」と述べた。財政出動は秋以降の法案成立待ちであり、景気浮揚効果は2018年以降と考えた方が良いだろう。

人事面では2月13日のフリン元大統領補佐官(国家安全保障担当)辞任に始まり、政権内での意見対立を背景に、政策実現の成果があがらない状況が続いている。4月5日には、バノン首席戦略官・上級顧問を国家安全保障会議のメンバーから除外。「米国第一」の強硬派を外し、クシュナー上級顧問(トランプ大統領の娘婿)ら穏健派を重用することによって、今後は驚くような強硬路線から、現実路線にシフトしていくことが見込まれる。

筆者は当初より、共和党は財政規律を重視する向きが多く、議会の協力を得るため、新政権は極端なプランを徐々に見直していくとみていたが、それが証明された3カ月だったと言えよう。閣僚の更迭検討や税制改革の調整難航といった内政面でのつまずきが続き、それをカバーするために、足元では外交面(シリア攻撃、北朝鮮問題)に傾斜した感が拭えない。

<見えてきた「トランプ流」交渉術>

一方、この3カ月で「トランプ流」交渉術の要諦が、より鮮明に見えてきた。過去の著書や発言なども踏まえると、高圧的な注文で相手を不安にさせ、自分が勝つために有利な状況を作ることのようだ。選挙活動中によく使っていた決め台詞「You’re fired!(君はクビだ)」も、そのような意図で連発していたと推察される。

1月31日の製薬会社幹部との会合で、トランプ大統領が「資金供給と通貨安誘導で有利な立場にある」と日本の為替・金融政策を厳しく批判したことも、2月10日の日米首脳会談を控えてのパフォーマンスだったのだろう。

中国に対する駆け引きも同様だ。4月11日にトランプ大統領はツイッターで「中国が北朝鮮問題を解決するならば、米国との通商合意ははるかに良いものになると習主席に説明した」と書き込み、中国の外交面での協力を得るために、通商問題を駆け引きに使っていることがうかがえる。北朝鮮の脅威に対して、中国の協力を引き出したい考えだ。

もはや米国にとって、通商問題よりも安全保障の方が優先順位は高い。理想的な処方箋は、中国の説得のもと軍事介入を回避し、北朝鮮への経済制裁の強化という形でアジア域内が合意することだろう。

4月12日付の米紙のインタビュー記事で、トランプ大統領は、1)中国の為替操作国認定見送り、2)低金利政策が好ましい、3)イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長再任の可能性、を示唆した。これら3つはいずれも従来の意見を大転換させるものだった。

1点目について、大統領は自身の立場を変えた理由として、中国は何カ月も人民元を操作しておらず、現在の局面で為替操作国に認定すれば、北朝鮮問題で中国との協議を損なうためだと説明した。14日発表の米財務省為替報告書で、中国は引き続き為替監視国として列挙されるにとどまった。今回は通商問題より安全保障を優先させたわけだが、安全保障が落ち着いた段階で、再び重要な協議事項となるだろう。

2点目と3点目で大統領は、FRB議長人事について「まだ言及するのは早い」とした上で、「イエレン議長を尊敬している」と述べ、「低金利政策が好ましい」と語った。現時点でイエレン議長を再指名するか決めていないのは事実だろう。遠回しにFRBの利上げ加速をけん制したとの解釈もあるようだが、3カ月に1回の緩やかな利上げペースなら容認されるだろう。

<米長期金利3%超えの条件>

筆者がトランプ相場の起点と考える米10年債利回りは、足元の地政学リスクの高まりで、昨年12月中旬以降の2.3―2.6%レンジを一気に下抜けた。筆者の読み間違えは、3月利上げ後の米長期金利低下だったと反省する。

3月米連邦公開市場委員会(FOMC)の付属資料、政策金利見通し(いわゆるドットチャート中央値)は、2017―18年末および長期水準のいずれも昨年12月時点と変わらなかった。3月利上げ直前に米10年債利回りは一時2.6%台をつけていたが、市場は年3回の利上げペースは加速しないと受け止めて、安心感が広がった。

つまり、あと2回の利上げを正当化する程度の緩やかな成長と物価上昇では、米10年債利回りの3%は視野に入らないと考える投資家が多いということだろう。

確かに、指標では懸念材料もある。4月14日発表の米3月小売売上高は前月比0.2%減と2カ月連続のマイナス。自動車の販売不振と税還付の遅れで個人消費が弱い。アトランタ連銀の経済予測モデル「GDPナウ」によれば、1―3月期の成長率予測は前期比年率プラス0.5%まで鈍化(14日時点)。4月28日発表の1―3月期実質GDPで1%割れの可能性もありそうだ。

それでも季節的な弱さなら、米国経済の緩やかな回復は変わらない。4月分以降の持ち直しを確認したいところだ。今後は、世界的なIT関連需要の強さがいつまで続くのか、ドル高の悪影響は企業収益などにじわりと効いてくるのか、税制改革の遅れが影響するのか、といった点を見極める時間帯が続こう。

FRBは上振れリスクを意識しており、利上げは前倒しの可能性の方が高いとみる。FRBの想定通り、物価が2%近辺で推移する姿を確認できれば、6月FOMCでの追加利上げは可能だろう。利上げ継続の前提が変わらねば、米10年債の2%割れを買い進むには限度があるとみる。

4月5日発表の3月FOMC議事録では、用意周到なバランスシート(3月末で4.5兆ドル程度)縮小議論の詳細が明らかになった。大半のメンバーが、再投資政策の変更時期について、「年内に適切になる」と判断しており、米国経済の先行きに楽観的で、あと2回の利上げに自信を持っていることが読み取れた。

仮に年内に再投資政策の縮小が始められる経済状況なら、物価上昇が加速した場合、さらなる利上げの可能性は出てくるだろう。経済が上振れ(欧州に注意)、物価が2%近辺から上昇する時には、米10年債利回りの3%超えが視野に入れることを肝に銘じたい。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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