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コラム:金融政策格差と中国安定に宿る円高抑止力=岩下真理氏
2017年7月18日 / 09:30 / 3ヶ月前

コラム:金融政策格差と中国安定に宿る円高抑止力=岩下真理氏

[東京 18日] - 先週末14日にNYダウは最高値更新、週明けは高安まちまち、ナスダックも高値圏での推移を続けている。これから決算シーズンが本格化する。トムソン・ロイターによると、米主要500社の4―6月期決算は前年同期比8.2%の増益となる見通しだ。前期の2桁増益に比べて鈍化するが、企業部門の力強さは続いている。

それに対して、18日に米10年債金利は2.3%割れ、ドル円は112円割れまで円高が進行、日経平均株価は2万円割れと弱含んだ。とはいえ、日銀の上場投資信託(ETF)購入継続、日本株の円高耐久力により、大きく崩れる様相にはなっていない。

筆者は前回コラムで、「7の付く年の株価は春から夏にかけて上昇し、秋には下がる」というジンクスを紹介した。今年の場合、夏の材料として、1)米国経済の弱さが一時的ではないとの見方が強まること、2)地政学リスクの高まり、秋の材料としては、3)5年に1度の中国共産党大会後の中国不安、4)欧州中銀(ECB)が緩和縮小方針を示す可能性、5)IT関連需要にいったんのピーク感が出る、ことを挙げた。

では、各材料の現状はどうか。まず夏の材料については、1)米6月の消費者物価(CPI)と小売売上高はいずれも弱かった、2)北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を行うなど地政学リスクは払拭できていない。秋の材料については、3)足元の中国経済は堅調、4)ドラギECB総裁のリフレ発言をきっかけに独10年債金利が上昇局面入り、5)米アップルの「iPhone8」の発売時期に注目が集まる、という状況だろうか。

<FRB再投資縮小は9月、利上げは12月か>

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は12日の議会証言で、「経済が想定通りなら、比較的早く保有資産の縮小を開始する」とあらためて表明。一方で政策金利については「(FRBが考える自然利子率に到達するまで)それほど引き上げる必要はない」と述べた。

市場は想定より慎重なハト派発言と受け止めたが、保有資産の縮小開始にブレていないことが重要なメッセージだろう。

ただし、ハト派メンバーから、インフレ動向を注意深く見守りたい旨の発言が繰り返されており、利上げ判断には時間がかかりそうだ。筆者は9月の再投資政策の縮小決定と12月利上げを予想する。イエレン議長は来年2月の任期満了を視野に、金融政策正常化を早めに進めていくとみる。

米国CPIでは「携帯電話サービスと処方薬の価格低下」の一時的な弱さは、前年比では来春まで残る。それ以外に気になる弱さは、新車販売不振の影響を受けた中古車と、衣料品価格の下落が止まらないことだ。それでも3カ月前比年率を見ると、マイナス幅は縮小方向にある。一部サービスと一部耐久財(自動車関連)の下落傾向だけなら、2%近辺で安定するとの物価見通しは変える必要はない。

他方、小売売上高では、外食やスポーツ・娯楽関連の減少は予想外の弱さだった。サービス支出の低迷には、天候要因があるのか単月では釈然としない。足元の物価と消費の弱さが一時的であるかを結論付けるには、あと数カ月分のデータを見たい。

2013年5月にバーナンキ前FRB議長が資産買い入れ縮小の可能性に言及し、金融市場が混乱した「テーパータントラム」を回避すべく、FRBは2014年9月に利上げを優先することを決め、フェデラルファンド(FF)金利が1%超えとなった今年6月に「政策正常化の原則と計画」を発表した。

米国債は当初月60億ドルの縮小であれば、長期金利の上昇圧力は限られよう。だが、その後3カ月ごとに60億ドルずつ上限を引き上げていく過程では、量的引き締めの効果が冷や酒のようにじわりと株式市場に影響を与えていく可能性は念頭に置いておきたい。

2013年5月には、バーナンキ発言とともに中国株急落が起きた。幸い今年は、秋の共産党大会に向けて中国経済は堅調に推移している。中国国家統計局は14日、国内総生産(GDP)算出方法の変更を発表。新たにヘルスケアや観光業、インターネット関連分野が加わり、17日発表の4―6月期実質GDPは前年同期比プラス6.9%と予想を上回る強さとなった。

また当局が資本規制と人民元の安定化に努めている点は評価できる。その結果、今年は中国要因でリスクオフ相場とはなっていない。それだけに秋以降は、住宅価格抑制策や債務急拡大による景気失速への懸念が強まるだろう。

<「スーパー・マリオ・ラン」は序章>

欧州でも金融政策の出口戦略を模索し始めた。6月27日の講演でのドラギECB総裁発言(「デフレ圧力はリフレに変わった」)をきっかけに、欧州発の世界的な長期金利上昇が始まった。このタイミングでドラギ総裁がタカ派に転じた背景として、2つの要因が考えられる。

第一に、直前開催の国際決済銀行(BIS)年次会議に主要中銀総裁が一堂に会し、問題意識を共有したと推察する。主要国は緩やかな景気回復のもと、物価上昇圧力の鈍さが共通課題であり、回復局面で金融政策の正常化を進めるべきとの意見が米国主導で強まったのだろう。

第二に、6月30日発表のユーロ圏6月消費者物価(HICP、速報)で、総合は前年比プラス1.3%(5月同1.4%)と伸び率が鈍化したものの、コアが同1.2%(5月同1.0%)に加速したことだ。

6月8日のドラギ総裁会見では、「物価の基調は引き続き弱い」と従来の表現を繰り返して、市場にハト派の印象を与え過ぎた。その修正のため早めに取り組んだと思われる。7月6日発表の6月ECB理事会議事要旨によると、「インフレ見通しへの確信が一段と高まれば、緩和バイアスを見直す可能性がある」との意見が示され、「必要に応じて資産買い入れを拡大する」との従来文言の削減について、当局者が協議していたことが明らかになった。

それでも、「スーパー・マリオ」の異名を持つマリオ・ドラギ総裁の出口に向けた走りは、始まったばかりだ。8月下旬開催の米ジャクソンホール会合に3年ぶりの出席が決まり、発言が注目される。筆者は7月20日のECB理事会では緩和バイアスの削除、9月7日には来年以降の国債買い入れ減額を決定すると予想する。

<日銀は長短金利操作の総括検証を>

そのような状況下、日銀が20日発表する7月展望レポートでは、成長率見通しの上方修正、物価見通しの下方修正が見込まれる。5月のコアCPIは前年比プラス0.4%と5カ月連続のプラスも、コアコアは2カ月連続で0.0%と停滞。夏で食料品主体の値上げが一服、秋以降はエネルギー関連の押し上げが徐々に剥落することなどから、年明けには物価上昇の勢いはなくなる。

コアCPIの前年比は年内に1%へ到達できたとしても、年明けには鈍化が懸念される。物価目標2%に遠い日本では、出口への距離も遠い。緩やかな景気回復は持続しているが、日銀は粘り強く緩和策を当面維持すると見込まれる。米欧と逆向きの金融政策が意識されれば、人民元の安定とともに円高抑止力となろう。日本株にはフォローの風となる。

足元で日銀は国債買い入れ増額と指し値オペを駆使し、金利上昇の抑制姿勢を明確にした。仮に今後も欧米金利の上昇が続いた場合、0.110%は防衛ラインとはならず、より柔軟なオペ運営が求められよう。イールドカーブ・コントロールを総括検証して、軌道修正することが望ましい。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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