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コラム:トランプ円高は妄想、側近論文にヒント=村田雅志氏
2017年2月16日 / 06:04 / 7ヶ月前

コラム:トランプ円高は妄想、側近論文にヒント=村田雅志氏

[東京 16日] - 日本ではあまり知られていないようだが、トランプ米政権下で新設された国家通商会議(NTC)のナバロ委員長と、商務長官に指名されているロス氏は昨年9月、大統領選挙中のトランプ陣営のシニアアドバイザーの立場で「トランプ経済プランの達成(Scoring the Trump Economic Plan)」と題した小論文を公表している。

小論文では冒頭で、トランプ氏の経済プランは、減税、規制緩和、エネルギーコストの低下、そして慢性的な貿易赤字の削減であると明記。その目標は、米国の国内総生産(GDP)成長率を大幅に高め、数百万の新たな雇用と数兆ドル規模での所得と税収を生み出すことにあるとしている。

すでにトランプ大統領はいくつかの経済政策を明らかにしているが、その多くは小論文に沿った内容となっている。同氏は、貿易赤字の削減に通ずると思われる通商政策において、環太平洋連携協定(TPP)からの正式離脱に関する大統領令に署名。メキシコとの関係がきわめて不公平だったとの認識を示し、同国との関係見直しを中心とした北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に強い意欲を示している。

為替についてトランプ大統領は、他国が資金供給と通貨切り下げで有利な立場をとっており、中国や日本が何年も通貨安誘導を続けていると批判。ナバロ委員長は、ユーロが過小評価されており、ドイツがユーロを利用することで米国や欧州連合(EU)の貿易相手国よりも有利な立場を得ているとの見解を示した。

こうした発言を受け、トランプ政権はドル安を指向していると指摘する声も出ている。また、一部市場関係者からは、トランプ政権は円安に対する不満を「いずれ」強めると推定し、ドル円が円高方向に向かうとの予想も示されている。この種の見方は、トランプ大統領の保護主義的な言動と一致しているようにも思われ、もっともらしく聞こえるが、真相は果たしてどうなのだろうか。

<側近論文で円安是正の必要性に言及なし>

まず注意しなければならないのは、トランプ大統領が目指しているのは(米成長率の加速のための)米貿易赤字の削減であって、円安の是正ではないということだ。現に上述したナバロ委員長らによる小論文では円安是正について全く議論していない。

小論文では米国が慢性的な貿易赤字に陥った主因として、1)通貨操作、2)主要貿易相手国による重商主義的な貿易慣行、3)米国にとって不十分な交渉に基づく貿易取引、の3つを指摘している。

通貨操作に関する部分では、中国が人民元を変動相場制にせず、管理相場制を維持していることを指摘。また、欧州通貨統合にも触れ、ユーロは南欧経済の弱さを背景に旧ドイツマルクの水準に比べ安い水準のままであると批判した。その一方で、円については、小論文のどこにも触れられていない。

小論文における日本への批判は、対米貿易黒字が大きいことに集中しており、これはトランプ大統領や同政権の言動と一致する。例えば大統領就任前の記者会見で、米国の貿易協定は惨事であるとし、中国やメキシコと一緒に日本を名指しで批判した。

10日の日米首脳会談では、円相場に関する言及はまったくなく、麻生太郎副総理とペンス副大統領をトップとする経済対話にて日米間の貿易に関する枠組みを議論することが決まった。

円安是正は米貿易赤字の削減につながるため、トランプ政権は円安是正に動く、との見方も可能なように思えるかもしれない。一部からは、その根拠として、日本は1980年代から90年代にかけて、日米構造協議、日米包括経済協議などを通じ貿易不均衡問題に関し米国から圧力をかけられ、ドル円相場は円高方向に向かったことが指摘されている。

しかし、ここで忘れてはならないのは、円高が進んだ90年代において米国の貿易赤字は対日赤字も含め縮小することはなく、むしろ拡大したという事実である。

また、さまざまな実証研究によると、貿易収支に与える影響は、為替変動よりも2国間の景気や制度変更の方が大きいことが知られている(しかも、為替変動の影響が表れるのは数年後とされる)。効率性・生産性を重んじ、短気な姿勢が目立つトランプ大統領が、数年後に少しだけ表れるかもしれない米貿易赤字の縮小効果を期待し、円安是正に動くとの見方に説得力があるとは思えない。

<円安誘導を批判したトランプ大統領の真意は>

むしろ、トランプ大統領は、貿易赤字削減効果がいつ表れるか定かではない円安是正よりも、より直接的かつ強力な効果が得られると期待される貿易不均衡の是正策を日本政府に要求するのではないか。

TPP交渉からの撤退を宣言したのも、多国間協議により共通ルールを作られてしまうと、米貿易赤字の削減が難しくなる可能性があるためで、2国間協議を通じ日本政府に米貿易赤字削減のために動くよう圧力をかけることが有効であると考えたと推察される。

もちろん、過去の発言から考えれば、トランプ大統領が今後もツイッターなどを通じ、円安を批判する発言を繰り返す可能性は否定できない。しかし、その目的は、ドル円相場をドル安・円高方向に誘導することではなく、円安批判を通じ日本政府に圧力をかけることにあるとみるべきだ。

仮に筆者のこうした見方が誤っており、トランプ政権が真剣に円安是正・円高誘導を望んだとしても、ドル円相場がその通りに動くとも言い切れない。当局の意向が為替市場に影響を与えることは否定しないが、為替市場参加者の多様性の高まりや取引高の拡大を背景に、近年の為替市場は当局の意向通りに動かなくなっている。中国当局は巨額の元買い介入を数年にわたり続けているが、元安に歯止めがかかっていないのは分かりやすい一例である。

ファンダメンタルズから考えれば、ドル円相場はむしろドル高・円安基調が続くとみるのが自然だろう。今週行われたイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長による議会証言では、FRBが利上げを中心とする金融政策の正常化を目指す意向が強いことが改めて示された。米景気は堅調地合いを強めており、ニューヨーク連銀の経済モデル「ナウキャスト」によると、第1四半期の米成長率は3.1%と、前期(1.9%増)から大きく加速すると予想されている。

また、1月の製造業購買担当者景気指数(PMI)をみると、米国だけでなく、日本、ユーロ圏、英国など先進各国はいずれも改善方向で推移しており、株式市場は米国を中心に堅調地合いが続いている。こうした状況下で、トランプ政権の保護主義的な姿勢を理由に、いわゆるリスクオフを主因とした円買いの動きを期待するのは無理があるように思われる。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。近著に「人民元切り下げ:次のバブルが迫る」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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