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コラム:円高休止の謎、日銀が恐れる次の展開=村田雅志氏
2017年6月22日 / 07:28 / 3ヶ月前

コラム:円高休止の謎、日銀が恐れる次の展開=村田雅志氏

[東京 22日] - 2017年1─3月期の実質国内総生産(GDP)の2次速報値は、前期比年率プラス1.0%と、1次速報値の同2.2%増から大きく下方修正されたが、5四半期連続のプラス成長を維持した。1年を超えてGDP成長率が前期比でプラスを続けるのは2005年から2006年にかけて以来のこととなる。

しかし、消費者や企業の景況感は大きな改善を見せていない。5月の消費者態度指数は43.6と昨年2月のボトム(40.3)から見れば上昇しているものの、アベノミクスで沸いた2013年のピーク(45.4)を下回ったままだ。

同月の景気ウォッチャーでは景気の現状判断が48.6と、2013年のピーク(11月の57.3)どころか、昨年のピーク(12月の51.4)すら下回っている。4─6月期の景況判断指数(BSI)は、大企業・全産業でマイナス2.0と、1年ぶりのマイナスに落ち込んでいる。

GDP成長率が安定的にプラスを維持しているにもかかわらず、景況感の改善が見られないのは、足元の景気拡大がいわゆる外需主導のためだろう。過去5四半期を振り返ると、実質GDPは1.9%増加したが、内需による寄与は全体の3割程度で、残りは外需によるものである。経常収支黒字のGDP比は、3.4%から3.9%へと2010年10―12月以来の高水準に上昇している。

一般に、内需の拡大が緩慢で経常収支黒字が積み上がる状況では円高圧力が強まる。現にドル円は、昨年初めの120円ちょうどから下落基調が続き、6月には一時100円割れを記録した。しかし、その後、ドル円は100円を大きく割り込むことなく、11月の米大統領選後は118円台まで上昇。今年は4月に108円台まで下げる場面もあったが、6月はおおむね109―112円のレンジ内で推移している。

日銀が発表する円の名目実効レートも、ドル円とほぼ同じ動きをしており、昨年は8月に93.7まで上昇したが、その後は下落に転じ、今年は85―88のレンジと昨年8月よりも円安水準を維持している。本来であれば円高が続いても不思議ではない状況で円高が進まないのはなぜなのか。

<ここで緩和を止めては元も子もない>

理由の1つは、日本人投資家による外債投資の動きが足元で広がっているからだろう。財務省が週次で公表する対外証券投資は、昨年11月の米大統領選を機に売り越し基調となったが、5月には買い越し基調に転じ、6月第3週までに5兆円近くの買い越しとなっている。

日本人投資家が外債投資を続ける背景には、日銀の長短金利操作付き量的・質的金融緩和による円債利回りの極度の低下がある。日本人投資家としては、金利が付かない状態で円資金を国内に滞留させるくらいなら、資金を外債投資に回し続ける方が得策と判断しても不思議ではない。

市場関係者の中には、日銀の金融緩和はインフレ押し上げに効果がないだけでなく、悪い副作用が広がる可能性があるから、日銀は金融緩和を止めてもいいのではないかとの声もあるようだ。しかし、経常収支黒字が積み上がる中、日銀が金融緩和の手を緩めてしまうと、円債利回りの上昇を促し、海外に向かっていた資金が日本国内に滞留。円高の動きも強まるだろう。

円高は経常収支黒字の縮小につながるかもしれないが、輸入物価の低下やインフレ期待の悪化を通じ、インフレ圧力を弱める。円高を受けて日本株が下落し、逆資産効果を通じて個人消費を下押しする恐れも強まり、最終的には安定的に推移していた日本景気が悪化に転じる。

異例ともいえる強力な金融緩和が長い間続き、将来発生するであろう金融緩和の弊害を懸念する気持ちは理解できなくもないが、ここで止めてしまえば元も子もない、というのが日銀の本音だろう。

4月の実質消費総合指数は前年比プラス2.4%と、消費税率引き上げ直前の2014年3月以来の高い伸びに加速。4─6月期の法人企業景気予測調査では今年度の設備投資計画は3.8%増と昨年度から加速する見込みとなるなど、足元では内需拡大の兆しも見えている。

そうした状況なだけに、2%インフレ目標を掲げ続ける日銀にとっては、「現在の方針での強力な緩和を推進」することで時間を稼ぎ、日本経済が外需主導から内需主導に移り変わるのを待つのが賢明な判断となる。

<米景気鈍化受けた円高なら日銀緩和は効果なし>

日銀にとって最大のリスクは、金融緩和継続による弊害ではなく、日本景気を下支えする外需が腰折れすることだ。拡大を続ける外需が縮小に転じてしまうと、企業の設備投資マインドも悪化し、外需だけでなく内需も落ち込むリスクが高まる。

世界的な金融危機が生じた2008年10―12月の純輸出が前期比年率で10%以上も成長率を押し下げたが、個人消費と設備投資も同時にそれぞれ2%以上、成長率を押し下げたのは分かりやすい一例である。

外需が腰折れしなくても、世界景気の鈍化懸念から円高の動きが強まる恐れもある。例えば米国では景気拡大が8年目を終えようとしており、過去最長を更新するとの見方も出ているが、景気拡大ペースは非常に緩慢だ。

1─3月期の実質GDPは前期比年率1.2%増と1年ぶりの低い伸びとなり、4─6月期は反動増が期待されるところだが、ニューヨーク連銀の経済モデル「ナウキャスト」による成長率見通しは同1.9%増にとどまっている。仮に見通し程度の低い伸びとなれば、米連邦準備理事会(FRB)は利上げを休止するとの思惑から、ドル円はドル安(円高)基調が強まることになる。

円高基調が強まれば、日銀は(建前上の理由はなんであれ)円債の長短金利を引き下げることで円高抑制を試みるだろう。ただ、経常収支黒字が積み上がった中での、米国景気の鈍化を受けての円高圧力の強まりは、日銀の追加緩和のみで消えることはない。緩和を繰り返しても円高が続くことで、日銀は無力感にさいなまれる場面もありそうだ。

そして日銀の外部では、金融緩和の休止を求める声が消え去る一方で、現在はゼロ%程度とされる10年物国債金利をマイナス0.2%に引き下げる、日銀による上場投資信託(ETF)年間買い入れ額を現在の倍の水準に当たる12兆円に引き上げる、日銀が市中銀行の不良貸出債権を買い上げる、などといった想像を絶する形での強力な金融緩和を主張する声が聞こえてくるのかもしれない。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。近著に「人民元切り下げ:次のバブルが迫る」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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