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コラム:英ポンドはどこまで下がるか=村田雅志氏
2016年10月12日 / 05:03 / 1年前

コラム:英ポンドはどこまで下がるか=村田雅志氏

[東京 12日] - 英国のメイ首相が2日、来年3月末までに欧州連合(EU)離脱を正式通告すると表明してからポンドの下落が止まらない。ポンドドルは3日夕方に1.29ドルを下回った後も連日節目を割り込む動きを見せ、7日朝方には数分で1.18ドルまで急落する「フラッシュクラッシュ(瞬間的な急落)」に見舞われた。

週が変わってもポンドドルの下げは止まらず、10日には1.24ドル割れ。11日にはイングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員会のソーンダース委員が、英財務委員会での証言で、英国の巨大な経常収支赤字が続く以上、ポンドが一段安となっても不思議ではなく、ポンド相場の短期的な変動に対しては懸念していないと発言した。

この発言を受けて、英中銀もポンド安を容認したとの見方が強まり、ポンドドルは一時1.21ドルちょうどと、EU離脱の是非を問うた6月23日の英国民投票前の高値(1.50ドルちょうど)から19%も下落した。これはドルが対円で(ドル円が)120円から97円に下落することに相当する。

メイ首相が保守党大会前までEU離脱プロセスについて明言を避けてきたこともあり、市場関係者の多くは、現英政権内では、EU離脱に伴い欧州単一市場へのアクセスを失う「ハードブレグジット(強硬な英EU離脱)」を回避する意向が強いと見なしていたようだ。しかし、メイ首相は2日の保守党大会で、EUから離脱をすることで移民コントロールの決定権を取り戻すと述べるなど、ハードブレグジットも辞さない姿勢を示した。

英国が本当に欧州単一市場へのアクセスを失うか否かは、EU側の意向次第の部分が大きい。しかし、メイ首相がEUの基本原則である「ヒト・モノ・カネ」の移動の自由のうち、「ヒト」の移動についての自由を拒否する姿勢を示している以上、EU側が英国だけに独自の移民政策を認めるとは考えにくい。今後の事態は流動的とはいえ、欧州単一市場へのアクセスを失うと考えるのが現時点では自然と思われる。

<70年代の財政危機時には25%下落>

英財務省は国民投票前の5月、仮に英国がハードブレグジットを選択し、EUとは世界貿易機関(WTO)協定を通じてのみ関係を有するようになった場合、EU離脱に伴う経済損失は今後15年間で国内総生産(GDP)比5.4―9.5%に達するとの試算結果を公表している。

ただ、こうした試算は、前提条件の設定次第であり、実際に発生する損失は経済指標などを通じて時とともに確認していくしかない。

為替市場に限らず、金融市場は不確実性の高い状況に対し、行き過ぎとも言える反応を示すものだ。ハードブレグジットによる英国経済の被害が現時点では具体的に見えていないだけに、ポンドが大きく下落してもさほど不思議ではない。

英国経済が危機にひんしたとされる過去の事例は主に3つある。「英国病」と揶揄されるほどの戦後の長期停滞を経て、第1次オイルショック後に財政が破綻し、国際通貨基金(IMF)からの融資を受けるに至った時期(1975―76年)、そして投機の対象となり、欧州為替相場メカニズム(ERM)からの離脱に追い込まれた前後の時期(1992―93年)、さらに直近ではリーマンショックに見舞われた時期(2008―09年)だ。これら3局面で、ポンドの実効レートは順にそれぞれ25%、17%、20%下落している。

英国民投票直前に記録したポンドドルの高値(1.50ドルちょうど)に、リーマンショック時の下落率(20%)を機械的に当てはめれば1.20ドルちょうどまで、70年代半ばの財政危機時の下落率(25%)を当てはめれば1.125ドルまで下落することになる。

1.125ドルという水準は、やや極端なものに思えるかもしれないが、ポンドドルはドル高圧力が強まった1985年3月に1.055ドル近辺の過去最安値を記録している。心理的な節目である1.20ドルちょうどや、85年5月の安値である1.188ドル近辺を割り込めば、1.125ドルや1.055ドル(過去最安値)も視野に入る。

<悪いことばかりではないポンド安>

ただ、EU離脱プロセスや離脱に伴う英国経済の姿に関する不確実性が高いとはいえ、ポンドがいつまでも下落を続けるわけではない。現に12日朝方には離脱プロセスで柔軟な交渉を求める英議会にメイ首相が譲歩するとの見方が浮上し、ポンドドルは1.22ドル台後半まで急反発した。

ポンド安の英景気への刺激効果も忘れてはならない。英国の輸出は、ポンド安が進展した7月、8月ともに前年比2桁増を記録。ポンド安で海外旅行者の消費を刺激したこともあって英小売売上高(除く自動車燃料)も両月とも前年比約6%増と2015年9月以来の高い伸びに加速した。ポンドが大きく下落し、英景気が拡大基調を強めていることもあり、英中銀は利下げを見送るとの見方も浮上している。

EU離脱に伴う英国経済への被害は、時間とともに広がるのに対し、ポンド安はEU離脱を織り込む形で先んじて短期間で進む。この結果、英国経済ではポンド安メリットが先行することとなり、ポンド安が進みにくくなるという皮肉な状況も生じつつある。一部で報じられているようにメイ首相が、英議会の意向を尊重し、ハードブレグジットを避ける判断に切り替える可能性もあり、ポンドが大きく買い戻されることも否定できない。

ポンドのインプライドボラティリティー(1カ月)は14.0%と7月19日以来の高水準に上昇するなど、今後のポンド相場は、上にも下にも大きく動く余地があると言えそうだ。ポンドは、観測報道も含め日々の材料に対し大きく反応するものの、特段の方向感を見いだしにくい展開が予想される。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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