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コラム:トランプ円安に「逆回転」の芽=内田稔氏
2017年2月20日 / 06:00 / 8ヶ月後

コラム:トランプ円安に「逆回転」の芽=内田稔氏

[東京 20日] - トランプ米大統領は9日、米航空大手の首脳らを招いた会合で、2、3週間以内に「税に関する驚くべき発表をする」と述べた。大統領は28日に米議会の上下両院合同本会議で今後の経済政策などに関して演説を行う予定であり、その場で減税に関する全体像が見えてくると期待される。

同氏は選挙期間中、すでに法人税を35%から15%へ引き下げる方針を掲げてきた。また、米企業による海外での滞留資金を米国に還流させる際の減税(いわゆるリパトリ減税)を挙げているほか、所得税減税や最近になって浮上した国境税の骨格も示される可能性がある。

米連邦政府債務残高の拡大に慎重姿勢を示す保守強硬派「ティーパーティー(茶会)」の勢力を抱える共和党だが、減税の方向性ではトランプ大統領と一致している面もある。減税幅は大統領の主張通りとなるか予断を許さないが、減税実現の可能性は高いだろう。

これに折からの金融規制緩和との期待も加わり、米国の株式相場の続伸や国債利回りの上昇が見込まれている。また、日米金利差拡大を背景に、ドル高円安が進むとの見方が合理的だ。

<ドル円と日米金利差が相関を失った理由>

ところが、今年に入り、その日米金利差とドル円相場の相関はほとんどなくなっている。両者の相関の強さを見ると、昨年11月の米大統領選後から年末までの期間、2年物、10年物国債の金利差のいずれもドル円との重相関計数は0.9を超えていたが、年明け以降、どちらも0.1前後へと急低下している。

確かに、14―15日のイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長による議会証言にて利上げペースの加速やFRBのバランスシート縮小の可能性が示され、米国債の利回りが上昇したが、ドル円は上昇を阻まれ、かえって上値の重さが浮き彫りとなっている。

14日時点のシカゴIMMの先物市場における投機筋の円ショートは5万枚を少し超えた程度にすぎない。円売りの持ち高の重さが一段の円安進行を阻んでいるというわけでもないだろう。

ドル円と日米金利差が相関を失っている背景としてまず考えられるのは、そもそも昨年11月の米大統領選後のドル円急騰劇も日米金利差の拡大のほか、ドル資金の需給逼迫(ひっぱく)度合いが強く影響していた可能性がある点だ。

円を担保にドル資金を調達する際のプレミアムを示すドル円のベーシススワップのスプレッドは、昨年11月に急拡大し、本邦勢のドル資金の調達は難しさを増した。これは、ヘッジ外債投資を行う本邦投資家にとって、そのヘッジコストが急上昇したことを意味する。

3カ月物で見て一時は190ベーシスポイント(bp)にまで跳ね上がったヘッジコストを目の当たりにした本邦投資家によるヘッジ外し(ドル買い円売り)がドル円を押し上げた一因だった可能性が高い。ただ、足元では年末年始を越えた季節要因もあり、そのスプレッドが急縮小している。それとともに昨年11月に見れらた強いドル買い円売りは影を潜めており、こうした説明と整合的だ。

また、トランプ政権が金融規制の緩和を進めれば、米国の金融機関によるドル資金の供給力は飛躍的に高まり、スプレッドの縮小要因になると期待される。そうなれば、米国の利上げ観測の台頭や実際の利上げによってドル調達のプレミアムが急拡大し、為替市場での強力なドル買いにまで波及するといった事態は今後、起こりにくくなっていくだろう。

こうした環境であれば、事前に織り込み済みの利上げが実現する程度で、ドル円が力強く上昇するとは考えにくい。

<年後半は105―110円圏へじり安か>

ドル円と日米金利差が相関を失っている、もう1つの背景として考えられるのが、米国債の需給悪化だ。

例えば、米国債の最大保有国である日本と中国は、昨年11月から年末までに、それぞれ411億ドル、573億ドルと計984億ドルもの米国債を処分している。中国は、人民元を買い支える為替介入の原資として米国債を売却していくとの観測が根強い。

日本の投資家勢も米国債相場が大きく下落した上、前述の通り、為替ヘッジコストの先行きが見通しにくいことから、米国債の残高を減らしたと考えられる。今後、トランプ政権が打ち出す減税策は、その財源の多くを長期国債の増発に依存すると予想される。大統領選後の動きが示す通り、長期金利には上昇圧力(国債価格下落圧力)が加わる可能性があるだろう。

また、完全雇用とされる米国経済における財政出動がインフレ高進を招くとの見方を強めれば、それも金利上昇を促すと考えられる。さらに、FRBはここにきてバランスシート縮小の議論を始める姿勢を見せており、将来的な需給悪化懸念を高めやすい。

こうした状況も見据え、本邦投資家から見た日本の超長期国債の投資妙味も増す見込みだ。なぜなら、イールドカーブ・コントロールによって日本国債の利回り上昇が抑制されているとはいえ、30年債の利回りは世界的な金利上昇の影響を受け、利回り水準が0.9%台を回復している。

本邦投資家の外債投資が加速した時期は、2016年1月のマイナス金利政策導入よりも少し早い、30年国債利回りが1%を割り込んできたタイミングだ。FRBによる利上げによって、本来であればドル建資産がより魅力を増し、ドル高をもたらすと期待されている。しかし、米国債の需給悪化要因がこれだけ目白押しとなっている上、為替ヘッジコストの先行きも読みにくいことを考慮すると、ことヘッジ外債と比べた円債の投資妙味も今後、増してこよう。これもドル円の上昇を抑えると予想される。

税制改革や規制緩和といった米経済に対する追い風が見込まれる一方、利上げや保護主義が重しとなり、すでに8年目を迎えている米国の景気拡大がさらに勢いを増すのは容易ではない。このため、高まった米経済好転への期待が和らぐ過程で、ドル高の勢いは年末に向けて次第に和らいでいくと考えられる。

他方、日本では昨秋以降、石油輸出国機構(OPEC)による減産合意や米大統領選後のドル高といった外的な要因によって期待インフレが上昇し、実質金利が低下。これが、円安をさらに後押ししたとみられるが、ここまで指摘した背景によってドル高円安が進みにくくなるに連れ、今度は次第に日本株の上値が重くなろう。これまでとは逆に、期待インフレ率の低下と実質金利上昇によって、円高圧力がじわりと強まってくると思われる。

こうしたことを踏まえると、ドル円は年前半には底堅く推移すると考えられるが、いずれピークに達し、その後は徐々に軟化。年末にかけて105円から110円圏に向けて、じり安に推移すると予想している。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から16年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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