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コラム:山積する円高要因、かすむ日米金利差=内田稔氏
2017年4月25日 / 07:45 / 6ヶ月前

コラム:山積する円高要因、かすむ日米金利差=内田稔氏

[東京 25日] - 年初118円台を記録したドル円は、米連邦準備理事会(FRB)が昨年12月と今年3月に利上げを実施したにもかかわらず、108円台まで下落した。日米金利差の拡大という上昇材料はあったものの、その効果を打ち消すほど多くの下落材料が存在していたということだ。

よく指摘されるように、リスク回避の円買いはドル円下落の一因だろう。ただ、MSCI新興国株価指数を見ると、4月に入ってからも昨年来の高値圏で踏みとどまっていた。リスクオフの度合いもそれほど強くないと見て取ることができる。

そもそも、シリア・アサド政権に対する米国のミサイル攻撃前からドル円はすでに110円割れ目前まで軟化していた。要するに、ドル円の地合いは地政学リスクが高まる以前から悪化していたと見るべきだ。

<トランプ政策期待の剥落>

では、注目すべきドル円下落材料は何か。第1に、トランプ米大統領の政策実現に対する期待の剥落だ。議会共和党は、穏健派から保守強硬派まで複数に分断しており、中でも特に30人以上の勢力を有する下院保守強硬派の「フリーダム・コーカス(自由議員連盟)」と妥協しない限り、大統領が下院で法案を通すことは不可能に近い。

彼らは財政規律を重視しているため、減税やインフラ投資を法案化するにせよ、同程度の財源の確保や歳出の削減と抱き合わせでもしない限り、実現は困難であり、実現する場合の規模も限られよう。

また、足元では米景気の先行きを警戒させる経済指標が少なくない。米国の自動車販売台数はピーク時の1800万台ペース(年率換算)から1600万台ペースへと緩やかに鈍化してきた。

変動の大きい食品とエネルギーを除く消費者物価指数(コアCPI)も7年ぶりに前月比でマイナスを記録。すでに4.5%まで失業率が低下した米国の労働市場に、これまでの勢いでの改善を期待するのも無理がある。ここに、トランプ政権に対する失望が加わると、良好だったセンチメントも慎重化し、消費マインドに悪影響を及ぼす可能性も低くない。

今年から来年を展望すると、米国の利上げペースは減速することはあっても、加速までは見込みにくい。さらに、トランプ政権は貿易不均衡是正に真剣に取り組む構えだ。あからさまなドル安誘導を取るとは考えにくいが、少なくとも市場は一段のドル高には警戒を強める。

<対ユーロのドルじり安>

欧州中央銀行(ECB)の金融政策スタンス変更との思惑も、ドル高に歯止めをかけたり、ドル安を招きつつある。

もちろん、政治的な先行き不透明感を抱えるECBもそう簡単に出口には向かえまい。ただ、今のマイナス金利政策と資産買い入れといったフルスロットルでの金融緩和が永遠に正当化されるほど、実体経済が脆弱ということでもなくなってきた。

為替市場は現在進行形の政策より、スタンス変化を予見して敏感に反応する。ECBの政策転換を意識し、ユーロドルも底堅さを増してきた。為替市場で最大の出来高を誇るユーロドルで生じるドルじり安の方向性は、他の通貨ペアにも波及しよう。

このほか、日本でも10年物ブレークイーブンインフレ率が、すでに昨秋の米大統領選前後の水準まで低下している。これは、予想実質金利押し上げを通じた円高圧力となっている。

<日銀緩和による円高是正に限界>

このようにドル円下落材料がめじろ押しとなる中、さらにドル円が下落すれば、デフレ脱却を展望する上で、円高是正を重視する日銀の追加緩和に期待が集まるだろう。

折しも、政府は新たな審議委員の人事案を国会に提示しており、7月以降は全ての審議委員が黒田東彦総裁誕生後に就任したメンバーとなる。ただ、日銀が金融緩和によって円高圧力を跳ね返すことは容易ではない。それは、現在想定されるいずれの追加緩和策にも、副作用や限界があるためだ。

日銀は現在、追加緩和の手段として、1)短期政策金利の引き下げ、2)長期金利操作目標の引き下げ、3)資産買い入れの拡大、4)マネタリーベース拡大ペースの加速、を示している。

しかし、マイナス金利や低過ぎる長期金利によって生じるイールドカーブのフラット化は、銀行株の下落を招き、昨年前半の株安と円高を助長した。また、生保や地銀を極度の運用難へと陥れ、必要以上に外債投資へ向かわざるを得ない環境も作り出した。企業の退職給付債務の増加も副作用の1つだ。

したがって、一段の利下げの追求(上記1番目と2番目の政策手段)は、こうした副作用を和らげるために、現在のイールドカーブ・コントロールへと至った流れに逆行するものだ。円高局面で講じられても、市場の失望を誘い、かえって円高に拍車をかける恐れが強い。

同様に、量的な拡大路線への回帰(上記3番目と4番目の政策手段)も、資産買い入れの限界を早めるとの市場の疑念や失望を強めよう。ただでさえ、日銀は3月に2008年11月以来となる国債売り現先オペを実施するなど、品薄となった国債市場への対応に踏み切った。今年度、保有する国債のうち、40兆円以上もの償還を迎える日銀にとって、長期国債の年間保有残高増加額のめどである80兆円を維持することすら難しくなっていくだろう。

むしろ、買い入れペース減速に向かう可能性すら低くない。そもそも名目国内総生産(GDP)に対し、8割を超えるマネタリーベースの拡大を行っていながら、物価安定目標達成の兆しが見えていない。量的緩和の効果を疑問視する声は、ますます強まると考えられ、円高圧力を和らげるのは難しいだろう。

振り返れば2015年12月15日のドル円相場はおよそ121円台で推移していた。その後、米国は3度の利上げを行い、日米金利差は拡大したが、足元のドル円は110円挟みと低調だ。

確かに、為替相場を展望する上で、金融政策の格差や金利差は重要な手掛かりだ。しかし、過去1年半のドル円の値動きを見るだけでも、それは為替相場決定要因のほんの1つにすぎないことがわかる。

当初予想していた時期よりもかなり早くトランプ政権への期待が剥落した上、ドル安円高材料も多いため、ドル円は年内に100―105円圏まで下落すると考えられる。もちろん、その後、下げ渋ったり、105円程度に小反発する可能性は十分あるが、それは日銀の金融緩和ではなく、日本からの直接投資や証券投資といった対外投資の活発化によってだろう。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から16年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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