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コラム:遠のく円安回帰、ドル110円割れに現実味=内田稔氏
2016年2月17日 / 09:13 / 2年前

コラム:遠のく円安回帰、ドル110円割れに現実味=内田稔氏

[東京 17日] - 長らく下値目途とされた115円をあっさりと割り込み、110.99円まで下落したドル円相場は、そう簡単にドル高円安トレンドへ戻ることはないだろう。むしろ、従来にも増して円高への警戒が必要だ。

なぜなら、速度や値幅を増幅したのが投機筋だとしても、ドル円下落(円高)の根幹にあるのは、日本の経常黒字拡大や実質金利上昇といった歴然たる円高要素と考えられるためだ。つまり、投機筋の円買いは、こうしたファンダメンタルズ面での円高要因を見込んだ上で仕掛けられたとみた方がいい。

また、米国経済の減速を見越したドル安色もここから強まる可能性が低くない。昨年、すでにほとんどすべてのクロス円が下落したが、今年はいよいよ本丸とも言えるドル円においても、2012年暮れに始まった上昇トレンドが転換点を迎えた可能性が高い。

<実効性ある国際協調は期待薄>

今月下旬に、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を控えていることもあって、こうしたドル円急落に対する国際的な協調を期待する声は高まっている。実際、11年3月、東日本大震災後のドル円急落の場面でも、円急騰を投機の象徴とみなし、主要7カ国(G7)は協調して円売り介入を実施し、一定の効果を得た。急激な資本流出入に翻弄される新興国にとっても、投機的な動きを封じ込めるメリットは小さくない。

ただ、各国の思惑は交錯し、足並みがそろう可能性は低い。例えば、一部でささやかれる協調円売り(ドル買い)介入など考えにくい。なぜなら、ドル高の結果、製造業がダメージを受けている米国にとって、足もとの緩やかなドル安に特に違和感はなかろう。多くの新興国にとっても、ドル独歩高の裏で進んだ自国通貨の急落が、輸入インフレ圧力の高進や対外債務の返済負担増という二重苦をもたらしてきた。円高が加速したと言っても、異次元緩和後の大幅な円安をみてきた後だけに、あくまでもこれまでの反動といった日本固有の問題としか映らないだろう。

また、資本規制を強化すると言っても、特別引き出し権(SDR)構成通貨入りを決めた中国にとって資本規制緩和は唯一残された宿題だ。国の威信にかけて、SDR入りに逆行する資本規制強化を回避する可能性が高い。実際、中国人民銀行の周小川総裁は、厳しい資本規制は不要との立場を示している。国際協調と言っても、実効性のあるコンセンサス形成は容易ではないだろう。

<揺らぐ「緩和=通貨安」の方程式>

そうなれば、市場はますます日銀の追加緩和への期待を高めよう。特に、マイナス金利付き量的質的金融緩和は、これまでの量と質の2次元に、金利を加えた3次元だ。欧州中央銀行(ECB)が3月に何らかの追加緩和策を講じた場合、少なくとも市場は日銀のゼロ回答を受け入れられないだろう。戦力の逐次投入を嫌うはずの黒田総裁の下であっても、今後、日銀による追加緩和の発動頻度が高まる可能性に身構える必要はありそうだ。

とはいえ、マイナス金利は、少なくとも現時点で円安に波及していないどころか、円高を招いた。期待インフレ率は低下し続けており、かえって実質金利は上昇。また、円の名目金利が非常に低いため、金利低下余地は限られる上、金利低下に対する円相場の感度も鈍い。

加えて、気掛かりなのは、その理由がどうであれ、昨年12月の補完措置や1月末のマイナス金利決定のいずれも、日銀が動いた後、意に反して円高が進んだ値動きを、市場が目の当たりにしてしまったことだ。昨年、幅広い通貨に対して円高が進んだ通り、マネタリーベースの拡大が、機械的に円安をもたらすわけではない。重要なのは、「日銀が動けば、為替は円安」との期待感だったはず。その点、次回の追加緩和後の為替相場の値動きは、極めて重要と言えるだろう。

<ドル円のストライクゾーンは105―110円>

仮に、国際協調が不発に終わり、金融緩和の効果に疑念が生じれば、ドル高円安期待は一層後退し、ドル円の下落不安は高まろう。今年に入って、投機筋の持ち高はすでに円ロングへと転じた上、通貨オプション市場のリスクリバーサルも、ドルプット円コール高を示している。

また、円安の一因でもあった非居住者の本邦株式投資は、昨年暮れから売り越しが目立つ。ここまでのドル円の下げ足が速かったため、しばらくの間、自律的な反発も想定されはするが、多くの市場参加者の相場観や水準観は、大幅な修正を余儀なくされたとみられる。

115円を上抜けすると、次第に戻り売り圧力は強まると考えられ、120円の大台回復が遠くかすむ。当方が試算する日米実質金利差から割り出すドル円のストライクゾーンは、105―110円圏。ドル高円安期待が大きく後退した今、ドル円相場がこの水準への引力に抗うことは容易ではないだろう。

しかも、昨年にならえば、2月から4月にかけ、配当金などの集積である第1次所得収支の黒字が、月間約2兆円に迫る規模となる。需給面では、依然ドル円への下押し圧力が加わりやすく、110円割れも現実味を帯びる。

唯一、こうしたドル安円高圧力に対抗し得るのが、マイナス金利に後押しされる日本発の対外証券投資フロー。もちろん為替ヘッジなしのオープンだ。ただ、大方の円安予想に反し、ドル円が大幅な値崩れを起こした局面で、渾身のドル買い円売りを行う投資家は、決して多くないだろう。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から15年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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