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コラム:トランプノミクスはアベノミクスの再来=村上尚己氏
2016年12月13日 / 08:58 / 9ヶ月前

コラム:トランプノミクスはアベノミクスの再来=村上尚己氏

[東京 13日] - トランプ次期米大統領誕生が決まった11月9日から、金融市場では世界的な株高、金利上昇、ドル高が続いている。「トランプ相場は短命」などとの日本人コメンテーターの見込みは外れ、前回のコラムで筆者が指摘した通りの状況となっている。

今後の相場の行方を考える上で、例えばシカゴ先物取引所の投機ポジションの動きなど短期の需給要因にこだわるのは、投資リターンを損ねることにつながると筆者は考えている。というのも、ドル円など為替レートのすう勢は、各国のインフレ率・経済成長率の動向、それとともに動く金融政策の方向性で決まるからである。

トランプ氏の勝利以降、米債券市場では10年国債金利が1.8%から2.5%近くまで大きく上昇した。トランプ次期政権による経済政策の大転換で、想定する成長率が高まり、インフレ期待が引き上げられたのである。

2017年は米連邦準備理事会(FRB)もトランプ次期政権の景気刺激策を前提に、金融政策を行うと筆者は予想している。これまで米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは2017年に2回程度の利上げを想定していたが、この見通しは2017年にかけて上方修正されるだろう。

2015年央から続いた円高トレンドに終止符が打たれ、経済政策の大転換が為替相場のすう勢を変えることは、標準的な経済理論に沿った動きでもある。2012年末のアベノミクス発動による、「2%インフレ目標設定」「日銀執行部の体制変換」「量的質的金融緩和(QQE)導入」、そして2014年末の「QQE2」に連なる金融緩和は、大幅なドル高円安をもたらした。それと似たことが、今回は米国の政権交代による政策転換とともに起きていると筆者は考えている。

<レーガノミクス再来説は幻想>

したがって、ドル高が続くかどうかは、トランプ次期政権が打ち出す経済政策に依存する。財務長官に就く見通しのスティーブン・ムニューチン氏が達成可能と公言するように、本当に3―4%の経済成長への上振れをもたらす、大規模な刺激策となるかどうかである。

具体策な政策メニューは、所得・法人税などの減税、設備投資を促進する制度改革、1兆ドルのインフラ投資を促す基金、規制緩和、環太平洋連携協定(TPP)に代わる貿易協定などが挙げられている。

現状、これらの政策がどういったスケジュールで実行されるかによるが、少なくとも所得・法人税の引き下げは実現する可能性が高いと筆者は考えている(むろん税率引き下げ幅などについては議会との妥協がある程度必要になるだろうが)。オバマ政権がこれまで成長率を押し上げる財政政策を発動せず、「財政の崖」問題で増税など緊縮的な政策を続けてきたのだから、減税額の規模はともかく大きな政策転換である。

また、医療保険改革法(オバマケア)の見直しについても、家計に対する負担を減らす方向で修正が進めば、家計所得を押し上げることになるだろう。これらの政策が、2017年の米経済の成長率を押し上げると筆者は見ている。

トランプ次期政権が打ち出す経済政策をトランプノミクスと仮に呼べば、それはレーガノミクスの再来だとメディアは囃(はや)し立てている。トランプ氏自身が、レーガノミクスについて言及しているし、減税や規制緩和などの政策メニューが似ていることは確かだ。

ただ、レーガノミクスの再来であるとの評価は全てが正しいわけではなく、異なる点も多い。まず、レーガン政権ではキャピタルゲイン課税の引き下げなど富裕層の所得を高める政策が実現した。サプライサイドを強化するための減税の一環だが、結果的に所得格差を拡大させた。豊かな家計はもっと豊かになり、それが成長をけん引するという前提があったと考えられる。

トランプ氏も大幅な税率引き下げを打ち出している。ただ、ムニューチン氏は「中間所得層への大型減税を実施するが、富裕層に対しては減税しない」と述べている。トランプ氏自身は大富豪だが、近年、格差拡大が政治的に問題になっており、政権を保つために格差縮小政策を重視するとみられる。

もう1つの相違点を挙げれば、政府歳出規模に対するスタンスだ。レーガノミクスでは、共和党の伝統的な経済政策方針である「小さな政府」という方針が徹底された。減税を重視したのは、肥大化した公的部門の関与を小さくするためでもあるし、民間の規制緩和を進めたのも同様の方針からである。財政収支均衡が極力重視された。

一方、トランプ氏は、インフラ投資拡大を打ち出すなど、政府支出を縮小させる「小さな政府」方針を重視していない。もともと、トランプ氏は、共和党のエスタブリッシュメントと全く異なる考えを持っている。

自身が不動産業などで成功してきた過程で、インフラ投資などの財政政策が経済成長にとって必要という認識を持っている可能性がある。その意味で、トランプ次期政権は、レーガノミクスのような共和党の伝統である抑制的な財政政策とは、全く異なる可能性がある。

<トランプノミクスの主役は金融財政政策>

さらに、当時と現在ではインフレ率を含めた経済状況が全く異なる。1980年代初頭は金融政策が緩和的過ぎたためインフレ率が10%超に加速し、それが経済活動を不安定にさせていた。

そうした状況で、成長率を押し上げるために必要だったのは金融財政政策ではなく、経済の供給側を強化するための規制緩和だった。つまり、レーガノミクスにとって、成長率を高める主役は規制緩和であり、財政赤字削減によるインフレ抑制が必要だった。

だが、トランプ次期政権を取り巻く経済環境は1980年代とは全く異なる。インフレ率は2%にようやく近づいたばかりだ。FRBは利上げを目指すが、労働市場には依然スラック(余剰)が残っているため、金融財政政策によるサポートが必要な状況である。したがって、経済政策の主役は、総需要を高めるための金融財政政策になる。

このため、歳出拡大と減税という財政政策のメニューになるのは妥当だし、トランプノミクスとレーガノミクスが異なる点が多いのも、また必然なのである。

つまり、トランプ次期政権の政策は、2012年に発動されたアベノミクス(金融緩和、財政拡大、成長戦略)との類似点が多い。筆者は、トランプノミクスは、レーガノミクスの再来ではなく、アベノミクスの再来と位置付けるべきだと考えている。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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