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コラム:円高予想の蔓延がもたらす投資機会=村上尚己氏
2017年2月15日 / 06:35 / 7ヶ月前

コラム:円高予想の蔓延がもたらす投資機会=村上尚己氏

[東京 15日] - 年明けの118円台から2月初旬の111円台まで大きく下落したドル円相場はここ数日、落ち着きを取り戻し、112―114円台のレンジ内で推移している。トランプ米政権への期待(景気刺激策)に基づくドル高圧力と懸念(保護主義政策)に起因するドル安圧力が拮抗している格好だ。

筆者は、1月17日付のコラムで、「米保護主義政策への懸念を背景とする年初からのドル円下落は長期化しない」と述べた。実際、現段階ではその通りの展開となっている。

振り返れば、日本のエコノミストや為替アナリストの多くは、昨年11月のトランプ氏の大統領選勝利に前後して、ことあるごとに「円高リスク」を吹聴してきた。筆者はそのたびに、円高予想が跋扈(ばっこ)すること自体が大きな投資機会をもたらすとの見解を述べてきたわけだが、実際に悲観論が蔓延していたタイミングがリスク資産の押し目買いの好機となったことは明らかだろう。

そして、足元でも同じような機会が生じている。国内のエコノミストや為替アナリストの多くが相も変わらず「円高リスク」を唱えているためだ。今度は「米中対立」に起因するドル安懸念、そして10日に行われた日米首脳会談と結び付けた円高懸念などが取り沙汰されている。

もちろん、トランプ政権が保護主義政策を打ち出しているのは事実だ。ただ、実際にドル安が進むかどうかは、米経済が減速し、2016年9月までのように米連邦準備理事会(FRB)が利上げを中断するかどうかにかかっている。

この点については、トランプ政権が掲げる財政拡張(減税やインフラ投資)の有無が決定的に重要な鍵を握ると見ている。財政拡張が実現すれば、成長率は押し上げられ、FRBの利上げが継続し、2%インフレ目標達成に向けて追い風となるだろう。ちなみに、筆者は、米経済はまだ完全雇用に達していないと分析している。よって、財政拡張によるバブル発生の懸念も現時点では杞憂だと考える。

一方、ミクロ政策に限定されると見ている保護主義政策は特定セクターに影響を及ぼす可能性はあるが、ドル円のすう勢には影響しない。以上の筆者の見方は、実はトランプ大統領当選直後から全く変わっていない。

また、衰退産業への保護政策の本質は外国との競争ではなく国内の分配問題だ。トランプ大統領が長期政権を目指すならば、そのことをいずれ理解するのではないか。

<初の日米首脳会談に高望みし過ぎ>

さて、10日の日米首脳会談は、大統領別荘地でのゴルフを通じてトランプ大統領と安倍晋三首相が濃密な時間を過ごしたということだけでも、両国の外交・安全保障関係が強まる点で、心配性な市場参加者を安堵させたのではなろうか(筆者にとってはほぼ想定通りだ)。

そして、経済問題に関する日米対話の新たな枠組み作りについて、麻生太郎副総理と、日本の自動車工場が多いインディアナ州知事だったペンス副大統領のリーダーシップに委ねる格好となったのも望ましい流れだろう。

ところが、「円高リスク」をことさら唱えるエコノミストやアナリストには、どうやら違う風景が見えているようだ。今回の日米首脳会談では「円安批判は封印されただけ」などとの声が聞こえてくる。

確かにドル円相場で2月初旬に一時、111円台まで円高に動いた背景には、トランプリスクへの懸念があったのかもしれないが、今回の会談はトップ同士の信頼関係を高め、そして安全保障体制を確認することが主たる目的だった。また、米国では経済閣僚人事の任命が遅れていた。そうした中で、トランプ大統領の口から直接「円安批判」が飛び出すという懸念そのものが、そもそも行き過ぎだっただけのことだろう。

円高派の指摘の中で特に納得がいかないのは、安全保障面では強固な同盟を確認するという成果があったものの、最大の懸案事項である通商・為替など経済問題では、摩擦を避けたがゆえに、多くの不透明要素が残った、といった論調だ。

筆者は、「日米中の安全保障動向が経済活動を揺るがす」リスクシナリオを一応念頭に置いているので、円高派の理屈には違和感を覚える。不透明要素が残ったなどという批評は、初の日米首脳会談に高望みし過ぎではないか。

また、一部では、トランプ大統領の暴走を日本は防ぐべきなどという論調も聞かれるが、(是非はともかく)トランプ政権は国民に示した公約を忠実に実行しようとしているだけだ。他国の内政に首を突っ込むような役回りを安倍政権に求めるのは筋違いだろう。

確かに、今後もトランプ大統領が、自国製造業への配慮をアピールするため、ドル安誘導を想起させる言動をソーシャルメディア上などで発信する可能性は否めない。そうした場面では、ドル安に振れるかもしれない。とはいえ、真の円高リスク(トランプ政権の機能不全で米経済が減速する兆候)が現時点ではほとんど見られない以上、政治リスクに起因するドル安円高は、2016年のようには長続きしないだろう。

日米首脳会談後も日本の大手メディアやエコノミスト・アナリストの論調がどちらかと言えば円高方向の相場観に傾いていることを踏まえれば、外貨建て資産などリスク資産全般についてリターンの上ぶれ余地が期待できると筆者は見ている。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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