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コラム:円と米債、割高資産に宿る投資チャンス=村上尚己氏
2017年4月7日 / 04:47 / 5ヶ月前

コラム:円と米債、割高資産に宿る投資チャンス=村上尚己氏

[東京 7日] - 前回3月のコラムでは、日本株の方向性が定まらない背景には、トランプ政権の経済政策に対する米国の株式市場と債券・為替市場の「期待の温度差」があると述べた。

米株が最高値圏で推移していた一方で、米債市場では長期金利上昇が止まり、為替市場ではドル安円高地合いが強まったためだ。そして、高値更新を続ける米株を後追いし、米金利はいずれ上昇、ドル高円安が再始動すると予想した。

実際、3月14―15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)開催前に、早期利上げ開始が織り込まれ、さらに底堅い米経済指標もいくつか続くと、米10年債利回りは2016年の高値を超えて一時2.6%台まで上昇した。この時までは筆者の予想通りだったと言えよう。

しかし、その後、米10年債利回りは再び低下に転じ、北朝鮮やシリアを巡る地政学リスクの高まりもあって、日本時間4月7日午後1時現在、2.3%近辺で推移している(米軍によるシリアへのミサイル攻撃を受け、一時2.289%付近に低下)。

また、米株に目を移しても、医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃法案を巡る政治混乱を受け、3月末に下落。債券高に伴うリスク回避的なムードも株高を抑える方向に作用している。

では、3月に示したシナリオは修正が必要なのだろうか。結論から言えば、現時点では不要だと考える。

そもそも、3月後半からの米金利低下については、欧州中銀(ECB)の緩和政策に対する思惑が揺れ動く中で、ドイツ国債利回りが大きく低下したことも影響していた。米株下落についても、後述するように、トランプ政策の実行性に対する不安がいたずらに先行しているきらいがある。

むしろ、この状況には投資チャンスが宿っているように思える。以下、筆者の見方を説明しよう。

<トランプ政策への失望は時期尚早>

まず、筆者の読み違いを1つ素直に認めれば、オバマケア改廃を巡る政治的ドタバタだ。それによって米金利のすう勢を決めるトランプ政策(成長率を高める政策)の実行性に疑いの目が向けられたのは想定外だった。トランプ政権が公約として掲げていたオバマケア改廃について共和党議員をまとめられなかったという事実に対し、市場の初期反応がネガティブなものになったのは当然の流れだろう。

ただ、今回のオバマケア改廃法案に共和党保守派の議員が反対した経緯を冷静に見れば、トランプ相場そのものに過度に慎重になる必要はないとみている。もともとライアン下院議長(共和党)の案はオバマケアの枠組みを残すものだった。この点について、トランプ大統領は今後、民主党と妥協してヘルスケア改革を進める可能性を示している。

一方、減税政策に関しては共和党案に含まれる国境調整税(BAT)が増税となっているため、ホワイトハウスは現在、BATと距離を置いている。だが今後、共和党との間で調整・妥協が行われる見通しだ。

オバマケア改廃法案で反対した共和党保守派は税収中立にこだわらない考えを示しており、景気刺激につながる減税政策が実現する可能性は依然高い。オバマケア改廃法案が頓挫したから、減税政策・インフラ投資政策の実現性が低くなったと考えるのはあまりにも拙速だろう。

トランプ大統領が政権2期目も考えているのなら、公約に掲げた雇用回復を、景気刺激策によって実現することは妥当で合理的な政策になる。減税法案の議会への提出時期など不透明な部分はあるが、現段階でトランプ政権に失望することは時期尚早に思える。

ちなみに、米国では1―3月のハードデータは総じて弱めで、同期の成長率は年率2%に届かない可能性が高まっており、これも投資家のリスク許容度を低下させている要因ではないかとの見方がある。確かに、企業景況感、消費者心理などのサーベイデータは総じて好調なのに、それらに比べると弱いハードデータが散見される点は筆者にとっては意外だ。だが、米国を含めた世界経済の方向性は本来、サーベイデータの動きで判断するのが妥当だろう。

そもそも、アトランタ連銀とニューヨーク連銀が公表している2つの国内総生産(GDP)トラッキングは乖(かい)離している。どちらが妥当かの判断は難しいが、低成長を示唆するアトランタ連銀算出のトラッキングは、季節性の調整がうまくいっていないハードデータの歪みが大きく影響している可能性がある。

<日本円は米債以上に割高か>

ところで、3月に行われたFOMCの議事要旨が5日公表されたが、複数のメンバーが「株価は割高」と言及していたことが判明した。また、米連邦準備理事会(FRB)が年内にもバランスシート縮小を始めるプロセスについて、具体的に議論していることも確認された。これらは、どう捉えるべきなのか。

筆者は、実際にはイエレンFRB議長ら主流派メンバーは米株を割高とはみていないと思うが、こうしたFRBの姿勢が伝わったことで目先、株式市場の疑念が強まるかもしれない。ハードデータの弱さ、トランプ政策に関する不透明感、FRBの政策姿勢、そしてシリア政策や対中政策の動向などこれだけ不確実な要因が重なれば、市場のリスク選好を阻害するのはやむを得ないだろう。

ただ、こうした市場不安の高まりは、ファンダメンタルズからかい離した価格形成をもたらす可能性がある点を忘れてはならない。振り返れば、2016年秋のトランプ大統領当選前にも、根拠に乏しい円高が進み、その後の反転局面で、結局、円高が投資機会を提供していたことが分かった。言い換えれば、「割高な金融資産」は投資チャンスを提示しているということだ。

では、現在「割高な金融資産」は何か。筆者には、FOMCメンバーらが指摘する米株ではなく、FRBの政策姿勢への反応が限定的になっている米債であるように思える。そして、日本円だ。ドル円は米金利の値動きに連動して上下しながら、現在、米金利低下よりも下落(円高ドル安)幅が大きくなっている。このことは、日本円は米債以上に割高になっている可能性を示唆していると言えよう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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