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コラム:株安は本当に米国景気後退の合図か=村上尚己氏
2016年2月22日 / 08:38 / 2年前

コラム:株安は本当に米国景気後退の合図か=村上尚己氏

[東京 22日] - 年明けから株式などリスク資産が大きく下落、さらに2月に中国が春節の休暇に入った週には、欧州の銀行に対する信用不安が浮上し、株式市場などは調整度合いを強めた。MSCIベースの世界の株式市場は2月10日前後に昨年5月の高値からの下落率が20%に達し、いわゆる弱気相場入りとなった。

1月の混乱は中国の人民元切り下げや原油安が主たる要因だったが、2月中旬までリスク資産の調整が続いたのは、問題の震源と見られた中国の悪影響が米欧などに広く及び、2016年の世界経済の成長率が失速するリスクが一段と意識されたからだろう。

株式市場が急落した2月11日には、フェデラルファンド(FF)先物市場では米連邦準備理事会(FRB)が16年末までに1度も利上げができない可能性が約90%まで高まった。FRBは2回目の利上げはおろか、再利下げの可能性も相当見込まれるほど、成長率が失速するシナリオが織り込まれた。

日欧株の下落と比べると下落幅はややマイルドだが、米国株は15年8月安値を下回り、16年2月11日には終値ベースで15年5月の高値から14.2%下落。過去1年の高値からの米国株の下落率は約15%に達したわけだが、同様の株価下落が起きて米景気後退が意識されたのは11年夏場にさかのぼる。欧州債務危機への懸念に米国債の格下げが加わり、急落が起きた時である。

11年当時は、米国債の格下げで株価が急落した後に一部の統計が悪化、景気後退の可能性を示したことで、約2カ月にわたり直近の高値から10%以上の安値で推移した。そして高値から20%近く調整した後、欧州債務問題がくすぶる中で自律反発に転じた。11年後半から出口が見えないとされた債務問題で欧州経済がマイナス成長となったが、金利低下やFRBによるツイストオペの発動で、米国経済は外的ショックを吸収し、景気後退には至らなかったのだ。

現在は、海外経済の減速に加えて、米国内でもエネルギー資源セクターを中心に、信用市場でのスプレッドが高止まりしている。ハイイールド市場で資源関連が約20%のウェイトを占めているため、企業業績などの状況が異なるそれら以外の業種にも影響し、金融引き締め的に作用している。原油価格下落は米国経済にプラスの影響を及ぼす側面があるが、FRBの引き締めとともに、金融市場を通じてネガティブな悪影響が大きくなっている。

さらに、FRBによる銀行融資担当者への調査で、15年央から2四半期連続で企業向けの貸し出し態度をやや厳しくするとの回答が見られる。FRBが利上げを始める前の15年9月までの調査で、企業向けに貸し出しだけは態度をやや厳しくするとの回答が増え、12月までの調査でも貸し出し態度は若干ながらもさらに慎重化していた。エネルギー安やドル高などで、エネルギー関連を中心に融資態度が慎重化した。FRBの利上げ開始より前に、金融規制の影響も重なり、企業部門に限界的に金融引き締め効果が及んでいたことを意味する。

すでに3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げの可能性はほぼゼロになったが、FRBは、労働市場やインフレ率の動向に加えて、金融市場の下落率やボラティリティーはもちろんのこと、銀行の融資態度を含めた金融引き締めの副作用を幅広く勘案し、利上げ再開の判断を行うことになるかもしれない。

<2011年の株安再現でも景気後退入りリスクは低い>

ただ、信用スプレッド拡大が示す信用サイクル悪化のシグナルが、経済全体の景気後退につながるとは限らない。

そもそも信用スプレッド拡大は、原油価格下落によって引き起こされている部分が大きい。原油市場は現在、産油国同士の減産交渉の行方に関する報道や、在庫貯蔵施設の限界説から来る在庫投げ売り観測など、景気動向と離れたストーリーに支配されているが、現実には信用スプレッド拡大を助長することで景気後退リスクを強く意識させる要因となっている。

ゆえに、原油価格の変動で市場心理が決まる様相が強まっているし、銀行の融資態度の慎重化を含めた信用サイクルが景気循環を転換させるリスクとして認識されるようになっている。

過去の米景気後退のパターンを見ると、企業全体が、内部留保を超えて、設備投資などの支出を増やし、外部資金(社債・貸し出し)に依存する期間が3年以上にわたり、かつ「資金調達ギャップ(設備投資-内部資金)」が一定程度大きくなった後に景気後退が到来するケースがほとんどである。

企業の資金調達の積極化とともに、設備投資拡大が起きて、同時に株式や不動産などの資産価格上昇が発生。企業部門の資金調達の積極化と資産市場の上昇が数年続いた後、景気後退が起こるのだ。

一方、09年以降の景気回復以降、米国企業全体で見ると、利益などの内部留保を超えて、設備投資などのために外部資金による調達を増やすように(資金調達ギャップがプラスに)なったのは15年からで、1年程度しか経過していない。資金調達ギャップは1960年代以降の平均的な水準であり、平時に戻ったという段階である。

つまり、米国で景気後退を招くほど、米国企業の資金調達が積極化したとは言い難く、ようやく企業の資金調達・投資行動が平時に戻りつつあるというだけだ。シェール革命が生んだバブルとともに、13年までにハイイールド市場でブーム的に資金調達が広がったが、それは一部の関連企業に限定された局所的な動きと言える。企業部門全体で見れば、景気循環の転換をもたらすほど、企業行動の積極化が起きていたとは言い難い。

実質金利水準がマイナスの領域にあることに加え、企業の資金調達行動が平時に戻ったステージで、景気後退が到来するケースは経験則的にほとんど観測されない。今後、FRBの利上げ判断が慎重に行われれば、米国内で景気縮小圧力が高まらず、一定の外的ショックは米国の最終需要の底堅さで吸収できる余地があると思われる。

仮に11年同様に米金融政策への疑念に起因する不確実性の高まりで、株価が高値から一時的に20%前後下落しても、景気後退に至らないと見る。なお、当社エコノミストは、複数の景気先行指数の底堅い動きを踏まえ、景気後退リスクはかなり低いと認識している。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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