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コラム:米FRBの慎重姿勢、株価下支えへ=村上尚己氏
2016年3月21日 / 03:18 / 1年前

コラム:米FRBの慎重姿勢、株価下支えへ=村上尚己氏

[東京 21日] - 16日に結果が判明した米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想どおり政策金利は据え置かれた。ただ、2016年末の政策金利の想定を示すドットチャートでは、昨年12月時点で最多数派だった年内4回を想定していたメンバーの半分程度が、年内2回利上げまで大きく想定を変更した。

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長ら執行部を含めた多数派のメンバーが、年内2回のみの利上げを想定している可能性が極めて高い。

また、声明文の注目箇所であるリスクバランス評価については、「海外の経済と金融の状況が引き続きリスクである」との記述に変更された。イエレン議長の発言から、FOMCメンバーでリスクバランス判断について合意が得られなかったとみられる。

ダウンサイドリスクを警戒するメンバーの意見が、執行部を含めて存在しているのだろう。年初からの金融市場の動揺や海外経済の減速が国内経済に及ぼす悪影響が強く配慮された。FRBは明らかに利上げ再開により慎重になっている。

<背景にドル高と原油安の連鎖に対する警戒感>

利上げ再開の判断については、過熱ペースで増え続ける雇用者数などの労働市場にフォーカスするのではなく、国内総生産(GDP)成長率の足かせとなっている輸出や設備投資などの回復度合いを含めて幅広く検討される可能性が高い。

また、最近伸びが高まるコア消費者物価指数(CPI)を重視しておらず、個人消費支出(PCE)指数で2%に届いていない状況を強調しており、インフレ動向は利上げ判断を後押しする材料にはならないとみられる。

16年初旬から2月初旬までのリスク資産価格の下落局面では、先月のコラムで紹介した米国の景気後退リスクが織り込まれていた。これは杞憂だったと思われるが、リスク資産下落の一因には、FRBの利上げ開始による副作用が、海外経済や金融市場・商品市況を経由して拡大し、想定外に米経済に悪影響が及んでいたことがある。

具体的には、14年末の量的緩和縮小(テーパリング)終了でFRBによる流動性拡大が止まったことが原油価格下落のきっかけになり、ドル高が原油安につながる経路を強めた。そして、大幅な原油安とドル高がほぼ同時に進み、米製造業の業績の足かせになった。

対円・ユーロでは15年半ばからドル高は止まったが、その後は原油安が産油国などの景気失速懸念を強め、新興国通貨安を加速させ、ドル高を引き起こすという逆の因果関係が強まった。中国の人民元政策への不信感が、新興国通貨下落に対する不安を高めたことによって、この経路が強まった。

ドル高(FRB利上げ)と原油安が相互に影響しあう構図となり、それが新興国経済への不確実性を一段と高めた。このため、15年後半から金融市場において、原油安でリスク資産全般が下落するだけでなく、経済成長率の想定まで原油市場の値動きに左右される状況になっていた。

FRBの利上げ開始の判断そのものは、国内経済の需給環境を踏まえれば、正当化できる対応としても、原油相場の乱高下で利上げの副作用が大きくなり、米国経済の足かせになった。そうした状況を踏まえて、幅広い観点で利上げの是非を検討する必要性が高いと認識して、慎重なスタンスを強めたということだろう。

FRBのこうした判断は、年初からの市場の不確実性の根幹が和らぐことを意味するため、株式など資産の下振れリスクを限定的にするとみられる。

<米FRBの慎重姿勢が市場心理の正常化を後押し>

また、FRBの利上げの副作用については、市場の悲観心理によって過剰に強まった側面もあった。例えば、16年1月からニューヨーク原油先物(WTI)が20ドル台まで下落した局面があったが、当時中東情勢の緊迫化による増産抑制への懸念だけではなく、原油備蓄の限界や暖冬など本質的ではない材料が原油安をもたらし、世界経済後退に対する懸念を強めていた。

原油市場が触媒となり、株安・原油安・世界経済後退という「不安の連鎖」が長期化する疑念が持たれた。ただ、実際には1月からは鉄鉱石などの他の商品市況とかい離して原油安だけが進むなど行き過ぎていた。このため極度の不安が和らぎ、合理的根拠の薄かった原油価格下落に歯止めがかかり、そして自然に反発した。そもそも原油安には経済にとってポジティブに働く側面もあり、経済全体の減速を抑えるクッションになっていた。

今回のFOMCで示された利上げ再開に対する慎重姿勢は、上述の市場心理正常化をさらに後押しするとみられる。日本の金融市場では、日銀が採用したマイナス金利政策などの金融緩和策については、その効果が限られる、または(定義が曖昧だが)限界論など懐疑的な見方が依然多い。その後、金融緩和に依然積極的な欧州中銀(ECB)の姿勢や、利上げに慎重なFRBの姿勢が示されたことで、日銀の金融緩和政策の妥当性が前向きに評価される可能性がある。

FRBの利上げに対する慎重姿勢は、日本株市場を含めてリスク資産全般の追い風になり得ると考えている。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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