Reuters logo
コラム:日銀批判に誤り、長期金利操作は政策進化=村上尚己氏
2016年9月30日 / 02:57 / 1年前

コラム:日銀批判に誤り、長期金利操作は政策進化=村上尚己氏

[東京 30日] - 9月20―21日の日銀金融政策決定会合では、「総括的な検証」をもとに、新しい政策運営のフレームワーク(枠組み)導入が決まった。その主な柱は、「イールドカーブ・コントロール」として10年国債金利水準を操作対象に加えたこと、そして「オーバーシュート型コミットメント」として金融緩和を継続することである。

この新たな枠組み(「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」)の導入を受けて、日銀の金融政策がさらに複雑化したこともあり、市場参加者やメディアの間では多くの誤解が出回っているようだ。本稿では、それらの誤りを正し、政策変更に踏み切った日銀の真意を探りたいと思う。

<量の限界論も持久戦論も間違い>

まず、よく耳にする解釈に「これまでの量的金融緩和の限界が近づいたので、金利政策に変更を余儀なくされた」というものがある。この理解が正しいとすれば、金融政策の方針転換あるいは金融緩和を緩めるとの解釈になる。

ただ、日銀は、今後の追加緩和政策の手段として、ベースマネー拡大の加速を挙げている。また、黒田東彦総裁や事務方などの説明からも、「国債購入の限界」はかなり遠いと認識していると推察される。

筆者自身も、現行400兆円程度のベースマネーですでに限界に近づいたとの一部論者の解釈を理解できない。公的債務残高の1000兆円規模までベースマネー拡大は理論的に可能であり、日銀の執行部も拡大余地が大きいと認識しているのではないか。

それでは、今回、日銀が政策変更に踏み切った理由は何か。その答えの鍵となるのは、オーバーシュート型コミットメントだ。コミットメント変更は、2%インフレが実績値ベースで数カ月にわたって達成できたとしても金融緩和を継続し、ある程度のインフレ率上振れを許容することを意味する。

これは、過去1年余りインフレ期待が低下していることへの対処だろう。インフレ率はフォワードルッキング(先決的)に決定される部分があり、インフレ期待を高めることで実際のインフレ押し上げを促す政策である。

また、一部メディアは、今回の政策変更によって「金融政策が持久戦に入った」などと評しているが、筆者はこれも的外れだと思う。むしろ、インフレ期待を押し上げて2%インフレ時期の前倒しを目指すのが、今回の政策転換の狙いであることは明らかだ。持久戦とは真逆の「できる限り早期の2%インフレ達成」の実現可能性を高める政策転換と捉えるのが正しい理解だろう。

先述したとおり、多くのメディアや市場関係者は、限界が訪れたので日銀はやむを得ず金利政策に転換したと理解しているが、10年国債金利をゼロに誘導するイールドカーブ・コントロール政策も、インフレ期待を高める緩和強化のツールと位置づけられる。

この政策には、日銀が説明するように、10年国債金利をゼロにすることでイールドカーブをスティープ化させ、金融機関などの自己資本毀損を防ぐという防御的な側面がある。従来のマイナス金利政策が持つコストを軽減する意味で「政策進化」だ。

さらに、長期金利操作は経済学のテキストを書き換えることから、明らかに大きな意味を持つ。通常のテキストに従えば、中央銀行が操作できるのは翌日物の短期金利だ。10年満期など長期国債金利は、様々な要因で動くため中央銀行はコントロールできないとされる。日銀は今後、普通の中央銀行が通常立ち入らない領域に新たに踏み出したわけで、政策レジームの転換と位置づけられよう。

日銀が新たな領域に踏み込んだことは、これまでの国債など資産の大量購入を通じて、中央銀行が長期金利水準を制御できると認識したことを意味する。このため、10年国債金利のゼロへの誘導策は、量的緩和を進化させた政策と位置づけることが可能だと筆者は考える。

一部論者がこだわっている、政策目標を量にするか金利にするかは、金融政策の本質ではない。期待インフレ率に強く働きかけるために有効なツールが何であるかは、金融市場や経済情勢で変わってくるからだ。2013―15年まではベースマネー拡大が政策シグナルとして有効だったが、長期金利の誘導が実務的により強い政策ツールになったと日銀は認識したと推察される。

<長期金利操作とヘリマネの類似性>

新たなフレームワークが強固なことは、今後、米国の長期金利が上昇するなど世界的な長期金利上昇が起きても、日銀が10年国債金利をゼロ近傍に維持させることを考えれば自明ではないか。緩やかな利上げを続ける米連邦準備理事会(FRB)の政策動向が、日銀の政策転換を促した部分もありそうだ。

そして、2014年初までのように国内でインフレ率が2%に近づき上昇する局面になっても、10年金利をゼロ近傍に抑えるわけである。この過程で、オーバーシュート型コミットメントが働き、極めて緩和的な金融政策運営が続くため、円安や実質金利低下により経済成長刺激を実現する政策フレームワークとなる。

この日銀の政策転換の意味を、市場参加者は今後徐々に認識していくと筆者は考えている。低下していたインフレ期待が早晩上昇に転じ、新たなフレームワークで金融政策の景気刺激効果は強まるのでないか。2016年初からの行き過ぎた円高の修正と日本株高をもたらす政策転換になると予想している。

ちなみに、長期金利コントロールの金融緩和効果が強まる経路は、拡張的な財政政策による成長率押し上げだ。バーナンキ前FRB議長は、長期金利のコントロールとヘリコプターマネー(ヘリマネ)政策との類似性を指摘している。

筆者は、8月初めに閣議決定された経済対策は「疑似ヘリマネ」に過ぎないと考えているが、安倍政権のリーダーシップのもと、財政政策が本格的にGDP成長率を押し上げれば、日銀の政策転換による景気刺激効果は一層大きくなると予想している。

なお、28日の石油輸出国機構(OPEC)非公式会合において減産合意に至ったと報じられ、原油価格は大幅高となった。これが、原油価格の本格上昇をもたらすかは不透明だが、2014年末から続く原油価格の歴史的な下落が終焉したことを確認する出来事だと思われる。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below