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コラム:トランプ・安倍会談に潜む「円高リスク」=高島修氏
2017年2月9日 / 03:57 / 8ヶ月前

コラム:トランプ・安倍会談に潜む「円高リスク」=高島修氏

[東京 9日] - 10日から2日間にわたって安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領による日米首脳会談が行われる。そのイベントリスクはドル安円高サイドに傾いていると考えられ、春先にドル円は108円前後に下落すると考えてきた筆者の見方を補強することになるだろう。

今回の首脳会談には、岸田文雄外務相に加え、麻生太郎財務相も同行する。当初は世耕弘成経済産業相も同行すると報じられていた。米新政権との日米交渉は早々にトップギアで走り始めそうな雰囲気だ。特に、予定されていた世耕経産相の同行は、トランプ政権が最重要課題に掲げている通商問題が本格的に動き出そうとしていることがうかがえる。

世耕経産相のカウンターパートはウィルバー・ロス商務長官だ。著名投資家のロス長官は2000年に日本の幸福銀行を買収したこともあり、知日派・親日派として知られる。日本の実情に理解を得ながらの交渉が可能だろう。

一方で麻生財務相の立場はやや複雑だ。副総理を兼務する麻生氏の一つの顔はマイク・ペンス副大統領のカウンターパートである。インディアナ州知事を務めたペンス副大統領は知事時代に日系企業の誘致に熱心に取り組んだと言われる。ロス商務長官と並んで、ペンス副大統領に対する日本の政界・財界の期待は大きい模様だ。

だが、財務相としては麻生氏はスティーブ・ムニューチン財務長官と相対することになる。ムニューチン長官はドル相場に関してバランスのとれた発言を行っているが、強いドル高政策に信念を持っているとは考え難い。

トランプ大統領は環太平洋連携協定(TPP)離脱を表明する傍ら、2国間の自由貿易協定(FTA)を重視する考えを示しており、その際、相手国の為替操作を禁ずる条項を組み入れる意向を打ち出している。こうした点が今後、日米通商交渉の中で浮上し、ドル円の上値を重くすることが予想される。

<ポストTPPの米国通商戦略>

日米FTAでは、米新政権はTPPで得るはずだった果実を求めてこよう。その一つは日本による農産物輸入の自由化(関税引き下げ)だ。

TPP交渉が白熱化した2014―15年にかけて、安倍政権はしたたかにも、農産物に関しては米国とライバル関係にあるオーストラリアとのFTAを成立・発効させた。このままTPP漂流で日米間にFTAを欠いたままだと、米国の農業団体は日本という輸出市場を失うことに対するストレスを高めるはずだ。トランプ政権に日米FTA成立に動くことを促すことだろう。

反面、TPPへの警戒感が強かった米自動車産業はトランプ政権によるTPP離脱を基本的には前向きに捉えていよう。だが、オバマ前政権はTPPをスムーズに実現するため、2015年11月、米財務省に音頭をとらせて参加12カ国のマクロ当局による為替操作を回避する共同宣言を発行させた。

最近、米自動車産業から為替操作を問題視する発言が目立つのは、TPPで得るはずだったこの釣果(ちょうか)を失うまいとする思惑が透けて見える。1月、トランプ大統領は日本を名指しして自動車産業や通貨政策を批判したが、その伏線にはこうした流れがあると考えられる。

<米中通商紛争が招く円高リスク>

もう一つ、通貨政策の観点から今後のドル円を考えるにあたって、欠くことができない視座が、熾烈化しそうな米中通商問題とそれが人民元相場に及ぼす影響だ。

というのは、トランプ政権が中国との不均衡是正を強力に推進し、元高圧力を強めようとするときに、逆に元安を誘発しかねない。もしくは、中国に元高誘導を躊躇(ちゅうちょ)させる要因になりかねない円安が歓迎されないことは明白だからだ。

ここで理解する必要があるのが、中国の人民元政策の特殊性だ。人民元は対ドルで多少は変動するが、その変動幅は小さく、いまだに基本的にはドルリンクの通貨である。そのため、人民元の円やユーロ、韓国ウォンなどアジア通貨に対する為替相場はドルとともに変動する傾向にある。

ゆえに、2014年のように急激なドル高が進む際、人民元も円やユーロ、韓国ウォンなどに対して通貨高となる。そうしたときに人民元が全面高になり、競争力を失うことを避けるために、中国は対ドルでは元安誘導を行う傾向にある。

為替報告書の記述などから察するに米財務省は正しくこの「ドル高円安が元安ドル高を招く」ロジックを理解している。2014年10月に黒田日銀が追加緩和に踏み切り、急激な円安が進んだ後、米国の通貨政策が態度を著しく硬化させたのは単に円安ドル高に不満を募らせただけではない。それが中国に対ドルで元安誘導を行う口実を与えることを警戒したからだ。実際、その米国の懸念は2015年8月に行われた突然の人民元切り下げという形で実現することにもなってしまった。

しかも、事態をより複雑にするのは、目下、中国は深刻な資本流出問題に直面しており、元買い/ドル売り介入を余儀なくされ、外貨準備も急減中であることだ。こうした中で元高を実現するには、まずは資本流出を止める必要がある。

中国から資本流出に歯止めがかからないのは、1)米連邦準備理事会(FRB)の引き締めによって金利差面でドルの人民元に対する魅力が増していること、2)それが中国の個人や企業の間に先々のドル高元安観測を生んでいることがある。

加えて、3)FRBの引き締めに伴うドル高の反面で進む円安やユーロ安、アジア通貨安が競争力問題を通じ、最終的には上記のような対ドルでの元安調整につながることを予感し、投資家や企業が先んじて元売りを加速させているという側面もある。

トランプ政権も早晩、人民元が置かれている、このような特殊な環境を理解するはずだ。

<最大で105円への下ぶれもあり得る>

上記の通り、今後、日米関係は通商問題に絡んで重要局面を迎える。その交渉は決して容易なものではなかろうが、ペンス副大統領やロス商務長官といった、日本にとって心強い味方がいることも事実だ。

加えて注目されるのが、トランプ大統領が新設した国家通商会議の委員長にカリフォルニア大学のナバロ教授が就任したことだ。「Death By China(中国による死)」の著者であるナバロ委員長は対中強硬派で知られるが、対中政策上、いわゆる「第一列島線」に位置する日本は台湾とともに地政学的な重要性が大きいと考えていると察せられる。

トランプ大統領が自ら日本を名指しで批判したことは気になるものの、基本的には通商チームが機能し始めれば、日本への直接的な攻撃は緩んでいくのではないかと考えられる。

ただし、それでも、トランプ政権とその通商チームが中国との不均衡是正に真剣であればあるほど、元安を誘発しかねない円安にはナーバスになってくるはずだ。その中国に対してタカ派的なトランプ政権の通商交渉スタンスが日米財務省の通貨政策や、FRBや日銀の金融政策に影響を及ぼすことも考えられる。

今後しばらくはトランプ政権の下で、約20年ぶりに表舞台に躍り出ることになった通商問題が市場で猛威を振るうことが予想される。その中でも最初の難関となるのは、中国が為替操作国に認定されるか否かが問われる今年4月の米為替報告書だと考えられる。

その頃までにドル円は108円前後へ値崩れするというのが現在の筆者の中短期見通しだが、一時的になら最大で105円程度への下ぶれも驚きでない。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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