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コラム:ドル安ゆえに現実味増すドル円上昇シナリオ=高島修氏
2017年8月2日 / 04:25 / 3ヶ月後

コラム:ドル安ゆえに現実味増すドル円上昇シナリオ=高島修氏

[東京 2日] - 筆者の年初のドル円相場見通しは、118円台は天井圏で、春先にかけて108円台へ下落。その後、半年ほどは110円前後を中心にレンジ相場を形成し、年末辺りから上昇基調に復帰するというものだった。

その意味では、これまでの相場展開はおおむね筆者の見通しに沿った展開を続けていると言える。今後の展望については、今でも年末には115円前後まで、来年には120円を超えてドル高円安が進行し得るとの見方を維持している。

<ユーロ高という誤算>

もっとも、この間、筆者にとっても、さまざまな誤算が発生してきた。その中でも最大の誤算がユーロ高だ。

年前半は基本的にドル安と考えていたため、当初のユーロ高ドル安にはあまり違和感はなかったものの、ユーロ反発は1.10ドル前後がターゲット。上振れても1.13ドル台を超えることはないと考えていた。

これは年初の1.03ドル台の安値から0.1ドルを返した水準に相当する。2011年から続く長期ドル高トレンドはまだ継続中との判断がその基本にあり、年後半には1.00ドルのパリティ水準前後まで下落してもおかしくないと考えていた。

だが、実際のユーロ相場は足元、1.18ドル台まで値を戻し、筆者の年初の想定を完全に上回るユーロ高が進行している。市場は来年想定される欧州中銀(ECB)の金融引き締めをかなり前広に折り込んできたきらいがある(過大評価)。一方、9月にもバランスシート正常化が始まりそうな米連邦準備理事会(FRB)の引き締め策は、今のところ目立ったドル高圧力を生んでいない(過小評価)。

来年、曲がりなりにも、レパトリ減税を含むトランプ政権の経済刺激策が実行段階に入ってくること。一方で、欧州では来年1―3月期にイタリアで総選挙が行われ、反欧州連合(EU)政党である「五つ星運動」が議席を伸ばしそうなことを考慮すると、このままユーロ高ドル安が続くとは考え難い。

ただ、このような要因が今後、ユーロドルを数カ月単位で反落させることになったとしても、年初の1.03ドル台の安値を下回る下げになるか否かは微妙になってきた。このことは事実上、欧州ソブリン危機が深刻化した2011年から続いた今回の長期的なドル高局面が今年の年初で終焉していた可能性があることを意味する。むしろ、長期トレンドがドル高からドル安に転じたことさえ、想定する必要が出てきた。

<利上げが先か、通貨高が先か>

ここで問われるのが、冒頭で示した、来年にかけて120円を超えるようなドル高円安シナリオが、ドルの長期トレンドが下落に転じた中で可能なのかということだが、結論を先取りすれば、それは可能だと筆者は考えている。

まず重要なことは、2011年以降の長期ドル高が従来になかった軌跡をたどってきたことだ。1970年代に為替相場が変動相場制に移行した後の過去の長期ドル高局面を振り返ると、大半のケースにおいてFRBの金融引き締めがドル高に先行していた。例えば、前回の米引き締め局面である2000年代で言えば、2004年にFRBの利上げが始まったにもかかわらず、2001年以降の長期ドル安が底入れに転じたのは2008年になってからだった。

過去、米金融引き締めにドル高が出遅れる傾向があった1つの理由は、海外にあったのではないかと筆者は考えている。つまり、1970年代から80年代で言えば、日本やドイツが競争力をつけ、円高、マルク高圧力が高まる中、ドルは通貨安圧力を受けていた。そのためFRBは、主には実質金利と実質為替レートからなるマネタリーコンディションが著しくタイト化することがない中で金融引き締めを遂行することができた。

その結果、米国の実質金利が相当引き上げられて初めて、ドル高が進行し、それによってマネタリーコンディションが一気に引き締まることで、米経済が失速。ここに至り、FRBの金融緩和を伴うドル安を迎えるという流れだった。

1990年代で言えば、日本やドイツに続き、韓国や台湾などアジア諸国が力をつけ、2000年代に入ると、中国やブラジルなどBRICs諸国が台頭した。こうして過去のFRBの金融引き締めは、ドルが通貨安圧力を受け、マネタリーコンディションが容易には引き締まりにくい中で、比較的大胆に行われてきた。

それに比べれば、今回の引き締め局面は過去数十年では初めてと言っても良いような、世界の中で米経済が突出して強い中で行われることになった。つまり、過去とは異なり、他通貨高圧力を欠き、ドル高圧力が高まりやすい環境下でFRBは実質金利の引き上げを図った。そのため、今回はマネタリーコンディションが引き締まりやすく、米株安や資源安、新興国市場の下落など、市場のリスク回避姿勢が従来よりも強まりやすかったのだ。これが今回、FRBの金融引き締めが慎重に慎重を期しながらも度々頓挫し、過去に比べ時間がかかることになっている1つの理由である。

<FRBもECBも本音は日銀緩和長期化を歓迎か>

だが、2015年8月の対ドルでの人民元切り下げを機に、中国は経済政策を景気刺激に舵を切った。原油・資源相場も安定するようになり、ブラジルやトルコなど新興国や、オーストラリアやカナダなど資源国も景気回復局面に入った。その結果、新興国通貨や資源国通貨が底堅さを取り戻したことで、全体としてのドル高圧力が後退。米国のマネタリーコンディションは一時期に比べタイト化しにくくなってきた。

加えて、今年に入って、前述したように欧州経済が回復色を強め、ECBの引き締め観測がユーロ高圧力を強めるようになってきた。これにより、米国の実質為替レートはますます上昇しにくくなり、FRBが金融引き締めに動いても米国のマネタリーコンディションはタイト化しなくなった。こうした中で、FRBはバランスシート圧縮を含む金融正常化を図りやすくなってきたのだ。

一方、日銀による緩和継続の方針が明確な日本と、米国やユーロ圏との金融政策ギャップが拡大するとの見通しが高まり、ドル円のみならず、ユーロ円をはじめとしたクロスレートでも円安を演出するようになってきた。

このように整理すると、ユーロやその他通貨に対するドル安が進めば進むほど、米国のマネタリーコンディションはタイト化しにくくなり、FRBの金融引き締めは行いやすくなる。その結果、ドル円だけに関して言えば、ドル安だからこそ、従来に比べてもよりドル高円安が進行しやすくなるとのシナリオを描くことができるようになってきているのだ。

もちろん、世界的な景気回復はいずれ日本経済の回復基調も強めるだろうが、諸外国と日本の違いは、景気回復が中銀の引き締めにつながりやすい諸外国に比べ、日本は日銀の緩和姿勢が明確なため、通貨高圧力が強まりにくいことだ。中銀の引き締めが通貨高圧力を生むユーロ圏や資源国に対して、恐らく日本は貿易収支の改善が円高圧力を生み始めるまでドル高円安が継続しやすいだろう。世界的な景気回復が原油・資源相場の上昇を促す場合、日本の輸入が増えるため、なおさら、貿易黒字増加による円高圧力は顕在化しにくくなろう。

円安を嫌うFRBやECBが日銀に引き締めを迫るとの見方もあるだろうが、今、日銀までもが引き締めに動き始めた場合、アンカーをなくした世界の金利が上昇スパイラルに陥るリスクも否定できなくなる。その場合、FRBやECBの出口戦略は頓挫しかねない。FRBもECBも本音では、日銀の金融緩和の長期化を歓迎していることだろう。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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