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コラム:株高に出遅れる円安の謎=高島修氏
2017年10月13日 / 04:34 / 5日前

コラム:株高に出遅れる円安の謎=高島修氏

[東京 13日] - 日経平均株価は12日、2015年につけたアベノミクス最高値を更新、さらに13日の前場では1996年12月以来の2万1000円台を回復した。22日の総選挙で自公連立与党が新定数465議席のうち300議席超をうかがうとの見通しも追い風となったようだ。

一方、ドル円は足元で112円近辺と、2015年につけた125円台の高値に比べると、10円以上低い水準にある。つまり、日本株高にドル高円安が出遅れている状況だ。それにはいくつかのもっともな理由があるものの、筆者は最終的には今後、ドル高円安が進展することで日本株にドル円がある程度、キャッチアップする展開を見込んでいる。

振り返れば年初に示した筆者のドル円相場展望は、118円台でピークアウトし、春先に108円前後へ下落、その後、秋までは110円を中心とした「こう着相場」に陥るというものだった。

現在までの展開はおおむねその展望に沿って動いてきたが、日本株がアベノミクス高値の更新に転じ始めた今、そろそろドル高円安動意が出始める頃ではないかとにらんでいる。

125円の壁を突破するのは容易ではなかろうが、来年前半にも120円を超えるドル高円安となってもおかしくないとの見方を維持している。

<日本株とドル円の因果関係は双方向>

さて、ここで重要なことは、日本株とドル円の因果関係を理解することだ。両者が高い相関を持つことは、今や市場では常識となりつつあるが、実はその因果関係は一般的に理解されている以上に複雑である。

日本株とドル円に限らず、一般的に市場は相関の高さのみに単純に注目する傾向があるが、その背景にある因果関係は双方向的で、かつ複雑なことが多いのだ。

その中で最も重要な因果関係は、一般的にも広く認知されているように、円安(円高)が企業収益の改善(悪化)を通じて株高要因(株安要因)となるものだ。これは円相場が株価に与える影響だが、逆に株価が円相場に与える影響もある。その1つが、海外リアルマネー投資家による為替ヘッジ操作だ。

ヘッジファンドなど短期投資家とは異なり、生命保険や年金、アセットマネジメント会社など、海外の長期投資家(リアルマネー投資家)が日本株に投資する場合、保有しているドルを売って円を買い、その上で日本株を購入する。この取引自体は基本的にドル安円高要因となる。

ただ、リアルマネー投資家の一部は為替中立戦略で日本株に投資しているため、日本株購入と同時に円売りドル買いの為替ヘッジ取引を行い、為替リスクを中立化する。こうした投資家にとっては、そこからさらに日本株高が進む場合、ヘッジすべきエキスポージャーが増えるため、新規投資がなくとも、追加的に円売りドル買いポジションを膨らませる必要が生じる。逆に日本株が下がると、エキスポージャーが減るため、ドル売り円買い戻しを行う。こうして、日本株高(株安)は円安(円高)の加速度要因となる。

こうした双方向の因果関係が存在するため、端緒がどちらかは問わず、いったん株高やドル高が起こると、好循環が発生し、日本株、ドル円とも上昇スパイラルに入り、一方、株安やドル安が起こると、悪循環が発生し、日本株、ドル円とも下落スパイラルに陥ることが多いのだ。

<日本株高がドル高円安に先行する理由>

日本株がドル円と同じように高い相関を持つ市場が米株相場である。言うまでもなく、米株高(米株安)は日本株高(日本株安)につながることが多い。こうした点を念頭に置くと、現在の日本株は、史上最高値を更新しながら力強い上昇を続け、日本株に先行している米株と、日本株に出遅れているドル円の狭間に立っていると整理することができる。

底堅い企業業績を背景に、長期的な上昇トレンドをたどっている米株が今年に入って上げに拍車がかかった理由の1つは、米連邦準備理事会(FRB)による漸進主義的な金融引き締めのアプローチが市場に浸透し、過去数年のドル高基調が修正されたことの影響が大きい。そこに欧州経済の回復、それを背景とした欧州中銀(ECB)の引き締め観測(正確には来年からのテーパリング観測)が加わり、特にユーロドルの反発に弾みがついた。

IT企業を中心に、米企業の海外売上比率は高く、特に欧州での収益は大きいため、このような形でユーロ高ドル安が進行すると、ドル建て収益が膨らむことから株価に追い風になりやすい。現在、2万2000ドル台に乗せたNYダウは、1万8000ドル台の2015年高値から2割以上も値上がりしている。10月12日、ようやく2015年高値を上抜け始めた日本株は、ドル円には先行しているものの、米株には出遅れているということだ。

こうした構図の背景にあるのは、上述のようにFRBの漸進主義がドル高に歯止めをかけ、米株高に貢献している傍ら、ドル円の上昇圧力を封印することで、日本株の上昇モメンタムを削いできたということである。これは主には、ドル円相場が日本株に影響を及ぼす因果関係(ドル安円高と日本株安との因果関係)に着目した理解だが、逆に日本株がドル円相場に与える影響という因果関係(日本株高とドル高円安との因果関係)に着目すると、次のようなことが言える。

FRBの漸進主義が生むドル安圧力がドル円にも下落圧力を加えているものの、ドル安を好感した米株の底堅さが日本株の上昇要因となっており、日本株高に伴う海外リアルマネー投資家のヘッジ操作に伴う円売りドル買いの増加がドル円の下支え要因となっている。

<日米株価と通貨政策を巡る経験則>

ここで興味深いのが、この数年、NYダウのドル建て株価が日経平均の円建て株価のシーリングとなってきたことだ。1990年代以降、長期的な下落基調をたどった日経平均が、長期的な上昇基調をたどったNYダウを下回ったのは2010年のこと。2008年のリーマン・ショック後の下落から底入れを始めていた両者は当時、ともに1万円、1万ドルでほぼ並んでいた。

その後、到来した上昇局面では、ほぼ一貫してNYダウが日経平均に先駆けて上昇したが、アベノミクスと黒田日銀緩和が始まった2013年以降は、円安進行時に日本株が米株を上回るペースで上昇し、何度かNYダウにキャッチアップする動きを見せている。例えば、2013年春には1万5000ドル台のNYダウに日経平均が追いついたが、その後のドル円の調整を受けて、日経平均はNYダウの壁を突破できなかった。

2014年終盤には日銀の量的質的緩和第2弾を受けた円安を背景に、日経平均は1万7000ドル台のNYダウの壁に再びトライした。この時は、対ユーロを含めた全面的なドル高が米株の足を引っ張り、NYダウが1万8000ドル前後で伸び悩む中、2015年半ばにかけて日経平均は2万円台まで続伸し、冒頭に書いたアベノミクス高値をつけることになった。

だが、ドル高円安に警戒感を強めた米政府・通貨当局が日銀の金融緩和や日本政府の円安政策に難色を示すようになり、結果的には2016年前半に100円前後へのドル安円高、1万5000円台への日本株安の伏線となった。

ただ、この経験則が物語るものは、NYダウにキャッチアップするまでなら、ある程度のドル高円安を伴う日経平均株価の上昇は、通貨政策面での日米の軋轢をあまり警戒することなく、想定できるシナリオではないかということだ。あくまでも1つの目安にすぎないが、その意味では、米株の上昇はドル円と日本株のシーリングを引き上げているのである。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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