Reuters logo
コラム:OPEC増産凍結で円高か円安か=高島修氏
2016年10月4日 / 05:41 / 1年前

コラム:OPEC増産凍結で円高か円安か=高島修氏

[東京 4日] - 原油価格の回復が進めば、日本の国際収支が悪化し、来年前半のどこかで、今回の円高には歯止めがかかるはずだ。だが、逆に言うと、原油回復による円安効果は、今後しばらくは顕在化してこないとも考えている。

当面のドル円は日米金融政策や、米国株・新興国市場などに象徴されるリスク選好の変化に左右されやすい状況が続くだろう。ドル100円割れとなった場合には下値目途が一気に拡大し、この10―12月期にでも95円を試すことになってもおかしくはないと見ている。

<北海ブレントで来年末65ドルも視野>

9月28日、石油輸出国機構(OPEC)はアルジェリアで臨時総会を開き、生産調整に乗り出すことで合意した。8月に日量3324万バレルだったOPEC諸国の生産を同3250―3300万バレルに削減するという。したがって、1日あたりの削減幅は24―74万バレルと小幅であり、減産合意というより、増産凍結に近いと見るべきだろう。

また、各国の新しい生産目標を含めた詳細は11月末のOPEC総会で決めることになっており、9月の大筋合意を過信するのは危険かもしれない。しかも、ロシアなど非OPEC諸国や米シェール産業の対応も不透明である。

ただ、米シェール革命時代にうまく適応できず、シェア争いを演じてきたサウジアラビアをはじめとした産油国が今回、価格維持のために生産調整に着手したことの持つ意義は軽視すべきではあるまい。後述するように、財政赤字に苦しむサウジ(スンニ派アラブ)は宿敵イラン(シーア派ペルシャ)と手打ちしてでも、事態打開に動かざるを得なくなったのだろう。

原油の需給環境が改善に向かっていることも、合意の1つの伏線になったと考えられる。原油の需給ギャップはここ数年、OPEC諸国を含め産油国が過去最高水準に近い生産を続ける中、日量100万バレルを大きく超えていた。しかし、中国など世界の原油需要の緩やかながらも着実な伸びを受け、同需給ギャップは、来年に向けて50万バレルほどへ圧縮されていくとの見通しを国際エネルギー機関(IEA)は示している。

需給ギャップが大きい状況下では、相当な生産削減を行わない限り、原油価格が顕著に反応する可能性は低く、それを断行するには産油国の負担やリスクが大きい。だが、最近の需給ギャップの改善を受けて、比較的小規模の生産調整でも原油価格が反応することが期待できるようになってきていた。こうした需給調整の進展も、予想外と言える今回のOPECの決断を促したのではなかろうか。

当社のコモディティリサーチは今年後半、原油価格(北海ブレント)は40―50ドルをコアレンジに推移すると予想してきたが、今や50ドルを超える上昇も十分に想定し得る状況になってきたと判断している。また、2017年に関しては年平均で60ドル、第4四半期には65ドルと想定している。

<原油回復の円安効果はいつ顕在化するか>

我々のファンダメンタルズモデルによる分析に基づくと、過去1年ほど続く円高の最大の理由は、過去2年の原油安とそれに伴う日本の国際収支の改善が、経験則通り、1年ほどのタイムラグを置いて表面化したものだ。

ここでは詳しい説明は割愛するが、このモデルの説明変数は、1)米日の名目政策金利差、2)米日10年国債の実質利回り格差、3)日米マネタリーベース倍率、4)日本の国際収支、5)日本の交易条件、の5つである。

このモデルに基づく、ドル円推計値は昨年4月に117円ほどでピークアウトし、足元では106円台まで低下してきた。このように、昨年、ドル円はこの推計値に対して、明らかな過大評価だった。今年に入ってからのドル円下落によって、このモデルの正当性は一段と高まった。

注目すべきは、ドル円が過去1年ほどで125円台から100円前後へ値崩れする中、モデル推計値が117円台から106円台へ低下したことだ。5つの説明変数のうち、政策金利差、実質長期金利差、マネタリーベース倍率は基本的に金融政策を反映するものであり、これまでもドル高円安要因として作用してきたし、今後も同様である。

だが、その一方で国際収支と交易条件の変化から生じるドル安円高圧力が、金融政策要因から生じるドル高円安圧力を上回ってきたために、この間、モデル推計値は10円以上もドル安円高方向へ変化してきたのだ。

日本の国際収支や交易条件が改善しているのは、2014年以降の原油安で輸入が減少し、輸入物価が下がっていることの影響が大きい。要するに、過去1年のドル安円高のうち、円高の部分だけを抜き出せば、単に原油安が理由ということだ。

その原油相場は今年1月を底に回復局面に入り、日本の国際収支の改善も止まったが、通常、日本の国際収支の変化がドル円のトレンドに影響するには1年程度のタイムラグがある。

例えば、昨年6月にドル円が125円の高値をつけ、円高局面に入ったのは2014年春に国際収支の改善が始まってから1年ほど経った時期だった。我々のモデル分析においても、経常収支などを1年先行させて回帰分析している。

来年前半になれば、今年始まった原油相場の回復と、その結果として想定される日本の国際収支の悪化が今回の中長期的な円高トレンドに歯止めをかけ始める公算が大きい。日銀と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策ギャップが一段と拡大していれば、ドル円の円高からドル高へのトレンド反転はなおさら、確度を増すだろう。

<気掛かりなサウジ情勢、当面は円高に警戒>

とはいえ、逆に言うならば、そうした原油回復の円安効果が顕在化し始めるまでは当面、足元のドル安円高トレンドの抜本的な修正は期待し難いことになる。

こうした中、原油相場と世界市場のリスク選好の関係で注目したいのが、9月28日のOPECの増産凍結合意にもかかわらず、その中核をなすサウジアラビアのマーケットが値崩れ傾向を脱することができないことだ。

その典型が株式市場の軟調さであり、原油相場が1月に30ドルを下回る水準で底入れした後、50ドル台を回復しようとしているにもかかわらず、サウジのタダウル株価指数は春先の反発を経て、足元では年初来安値を割り込み、欧州ソブリン危機に揺れた2011年以来の安値圏に値崩れしてきた。

国際通貨基金(IMF)の分析によると、サウジの財政収支を均衡化させる原油価格は100ドル前後と見られており、今回の増産凍結合意で原油価格が多少反発しても、サウジの苦境が抜本的に解決されるとは考え難い。

しかも、米議会は9月、2001年の同時多発攻撃犠牲者の遺族らがサウジなど外国政府に損害賠償を求めることを可能にする法案を成立させた。その余波で、財政赤字補てんのためにサウジ政府が今月予定していた100億ドル規模のグローバル債発行が遅延するとの見方も浮上し、市場の不安心理があおられている。

実際にサウジの資金調達が不調に終わった場合、同国は財政赤字の補てんのために、海外市場から過去に投資していた資金を引き揚げる必要に迫られ、そのレパトリエーションが米株や米国債を含め、世界的な市場不安定化を誘発するリスクが高まる。

折しも、市場は11月の米大統領選や12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で予期される金融引き締めに向けて、先行き不透明感を強めていくだろう。そうした中で、突発事故的にドル円が一瞬でも100円を割れるようなことになり、それでも日本政府が円売り介入を見送った場合、機関投資家や輸出企業がヘッジ戦略の修正を余儀なくされ、再び雪だるま式に円買い需要が発生し、ドル円をさらなる安値圏へ押し下げるリスクが高まりかねない。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below